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第十夢「急転」


 アズライトを手に入れて数日。ようやく勝手がわかってきた。

 アズライトの下位変換能力は、一時間しか維持できない。一時間を過ぎたら、すぐに元の能力に戻る。意外と使いづらい能力だった。

 ついでに、アンモラが襲われた理由を考えた。しかし、考えても考えても考えつかなかったので、困った時の神頼み。とどのつまり、神様に聞いた。

 神様は頭脳明晰である。よって、かの少年の目的も、スラスラと予測してくれた。


『彼がアンモラを襲った理由は、自身の強化によるものだと思われる。

 戦士を人間に格下げすると、身体能力は大いに下がり、無防備に晒されることになる。その隙を狙って、武器を奪い取ろうとしていたのだろうな。

 しかし、彼は今まで素手で戦っていた。つまり、武器を手に入れなければならない程の強敵が急に現れた、ということだ。

 恐らくだが、ラッカを恐れての行動だろうな。でなければむざむざ武器を奪おうなどと思わなかっただろうしな』


 というわけで、あの少年の目的は大体分かった。


 そして現在。変わらぬ書類の処理係を満喫中だ。実際は、ちっとも満喫したくないのだが。

 印鑑を押し、紙をめくり、処理した方の書類の山に紙を置く。事務室の空間で、馬鹿のようにつまらない事務作業を繰り返す、神様とアンモラと俺。アンモラは時折、腕を上に伸ばして背伸びしている。うんそうだね、分かるよ。めっちゃ肩凝るよね。


 一時期、俺にくっついてちっとも仕事に集中してくれなかったアンモラだが、俺が本気で怒ったら泣きながら土下座してきた。……なんなの? ドM属性でもあんの?


 と、延々と同じ作業をこなしていた所、処理した方の書類の山が、アンモラの背伸びが斜めに直撃し、倒れた。

 突如床に散らばる書類たち。

 一瞬フリーズするアンモラ。

 無言で笑う神様。

 無言な俺。


「…………」

「…………」

「……あれれー、おかしいぞー。なんで落ちちゃったんでしょう? おかしなこともあるもんですねー、うふふふふ。さあ、頑張って集めるぞ、おー!」


 ……はぁ、仕方ない。

 慌てて書類をかき集めるアンモラに加勢する。こんな時こそが俺のチートボディの使いどころだ。


 まずは、わたわたして書類を集めるアンモラを手で制止した。不思議そうな顔をしている。仕方ない、アンモラは俺の真の実力を知らないのだから!

 俺はしゃがみ込み、散らばる紙々を一箇所へと大雑把に集め、手をかざす。ふっと息をつき、俺は神の手の如き素早さでさばきはじめた。

 シャシャシャシャシャッ。擬音語で表すならこんな感じである。

 そして10秒後。俺の真下には、綺麗に並んだ書類群が整列していた。


「す、すごいですラッカ様! ……って、どうなさったのですか?」

「な……、なんでも、ない……」


 やばい、調子に乗りすぎて手が痛い……! 書類処理で疲れていた両手を酷使したのが、この結果だ。油断は禁物だった。

 こんな凄技ができるのはチートボディの賜物だが、以前(現実)の俺も似たようなことはしていた。何百本もある綿棒を地面に落としてしまった時の対処、それがこれにあたる。結構細かい作業は得意な方だ。


 と、痛む手をしばらく休ませて、作業に戻ろうと思った時の事だ。


 乱雑に扉が開かれ、扉を開けた張本人である、部下らしき男が叫んだ。


「緊急事態です! 名称未定の都市が、何者かによって襲撃されました!」

「……詳しく」


 神様は厳しい面持ちで、男に問いかけた。


「はい。ワルキューレという女が、我らに対する宣戦布告を突きつけてきたのです!」

「……それは本当か? こちらの早とちりではないな?」

「まさか! 文書もあります」


 男は懐から小さな巻物を取り出し、くるくると両手で俺たちにつきだした。


『親愛なる妹 ピュアライトへ

  そろそろ三百年というドリームワールドの返却期限が近付いて参りました。

  返して貰わなければ、実力行使に出ます。

  まあつまり、戦争です。

  作られてた都市はつい壊しちゃった。ごめん。

  ついでに、あとでチュッチュさせてね。

 偉大すぎる姉 ワルキューレ(戦神)より』


 どこか古臭さの漂う薄茶の巻物には、緊張感のない文章が墨汁で書かかれていた。

 すべてを読み終えたらしい神様は、ぼそりと呟いた。


「……ラッカのせいですっかり忘れていた。

 あと少しで、私はこの世界の管理者として追放されるという事を」


 えー、それ俺のせいっすか……。


 神様は椅子から立ち上がり、数歩歩き、ぽん、と男の肩に手を置いた。

 苦々しい表情で男に耳打ちし、巻物を受け取り、扉を閉め、男を追いやった。

 締め切られた事務室。神様は扉に一番近い机に、脱力したように上半身をへたり込ませた。


「はあぁぁ……。都市の襲撃、それに伴う都市の崩壊、そして管理者の権利の剥奪に、あの戦神ワルキューレの襲来…………。

 何が何だか分からない……」

「それはこっちが聞きたいです!」


 そこにやってきたのが、最近ドMキャラが板についてきたアンモラ。神様に詰め寄り、肩を掴んで揺さぶっている。激しくグラグラ揺らされて「あうあう」と唸る神様。かわいそうだからやめてあげて。あとなんか神様かわいいんですけど。それと別キャラ混じってる。


「一体何がどうなって、あなたの姉が、私の慕うラッカ様の世界を壊そうと目論んでいるのですか! 最強ナンバーワンたるラッカ様の上司の神様の管理する世界のドリームワールドを赤の他人の手に渡らせようだなんて、許せないです!」

「……あう……長いぞアンモラ……それと手を離せ」


 ……ちょっと神様がかわいそうに見えてきたから、助け舟を出そうと思う。べ、別に好きって訳じゃないんだからねっ! 


「アンモラ、手を退けろ」

「はい、分かりましたラッカ様」

「私の命令は聞かないのに、ラッカの命令だけは受け付けるのか……」


 いつもの威厳はどこかへ飛んでいった神様、ショボーンとした陰湿な空気を纏ってうなだれる。こりゃ、相当参ってるな。

 とりあえず。


「返却期限とはなんだ」


 情報を集めるのは、基本中の基本である。



 ――☆――


 元に戻った神様は、回転椅子を一回転させた後、いつものドヤ顔で語り始めた。


「実はドリームワールドの真の管理権は、私でなく戦神ワルキューレにあるんだ。

 私は三百年だけ管理者として君臨する事を許されていたのだが、もともと借り物の権利だ。三百年の猶予の終わりが、刻々と近づいてきたんだ」

「ワルキューレとは?」


 ちょぼちょぼと語る神様に質問を投げた。


戦神ワルキューレか……。あいつも神だ。戦を司る一柱。私との関係は、何一つないがな」

「……ということは、神様というものは何人でも存在するのですか?」

「……そうだな。私とは縁もゆかりもない、赤の他神が何人か」


 なんか嘘くさい。ここは正論をぶつけよう。


「そういう割には、あの文書には『親愛なる妹』だとか、『偉大なるすぎる姉』だとか書いて」

「気のせいだ」


 さいですか。

 言葉を遮ってまでに否定する神様。いつもにはない焦りようだ。これはなにかあるな。

 まあ、納得したフリをしておくのが得策だ。ここで言い合ってもどうせ時間の無駄だ。


 大方の情報は掴めた。ならば次の行動は限られている。


「都市に行く」

「はい」

 

 ラッカに目で合図を出す。

 俺は椅子から立ち上がると、そびえ立つ書類が崩れ落ちないよう、慎重に武器庫(ロッカー仕様だ)へと向かう。

 アズライトとヘリオドールを装備するだけで、力強い仲間、ラッカちゃんの出来上がり。

 

「今から、私とラッカ様で行ってきます」

「……いや、待て」

「え? どうしたんですか」

「私も行こう」


 アンモラのきょとん顔、頂きました。って、そうじゃない。どうして神様まで同席するんだ?


戦神ワルキューレとの因縁に、ここで決着を付ける」


 いつものドヤ顔とは決定的な何かが違う、そんな貌で神様は宣言した。


 ……で、なんで神様も一緒についてくるの?

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