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うるうる大罪記 ――浜の真砂は尽くるとも――  作者: 川床 無庵
プロローグ
2/37

プロローグ2

 遺跡からまっすぐに町に向かった俺はすぐに間違いに気付いた。腰ほどの丈がある草に覆われた草原は存外に歩きにくかったのだ。

 まっすぐ町に向かうのは諦めてまずは街道にでることにして草を掻き分けながら進んでいると、町とは反対方向から一台の荷馬車が来ているのに気付いた。


『え!? 荷馬車?! いつの時代だよ……』


 日本ではすでに絶滅したであろうレトロな運搬手段のソレは森の方から町に向かっているみたいだが、その歩みは非常に遅く人間の早歩き程度のようにみえる。

 

『何か聞けるかもしれない……』


 そう考えて馬車が通り過ぎる前に街道に出ようとその歩を強めた。

 20分くらいでどうにか馬車より先に街道に出た俺は、土がむき出しで舗装されていない道の端に等間隔で置かれている縁石に腰を降ろして馬車を待つことにした。

 

『やはり外国だったか……』


 近づいてきた馬車の御者台の男の顔を確認してため息まじりにつぶやいた。

 その男は金髪碧眼で60代くらいの年に見える割にがっしりした体型をしており、こちらの視線に気づいて手をあげながら笑顔を見せてきた。

 遠くに見える町からして日本の風景とは言い難かったし、今時荷馬車が現役なのであれば、ここは日本ではないのであろうとある程度覚悟していたのだ。

 

『まいったな~英語苦手だがしかたない……』


 相手に英語が通じるか分からないがここは気持ちで押していこう!

 

「へェロォゥー」

 

 意識しすぎて若干巻き舌になりつつ手を挙げながら笑顔を向けると間髪いれず老人が返してきた。


「こんにちはっ」


『なっ! 日本語わかるんかよっ!』


 相手の言葉の語音にとても違和感があるものの意味のしっかり伝わる挨拶が帰ってきた。


「お若いのこんなところでどーした? 見たとこ冒険者って感じにもみえんが?」


 そう尋ねてくる老人の「冒険者」って言葉になんだそりゃ? と思いつつもあらかじめ考えていた話をかえす。


「実は頭を打ったらしくて、そこの草むらで倒れてたんだ。さっき気が付いたんだがどーも記憶がはっきりしなくて、よかったら町まで乗っけてもらえんかな~?」


「そりゃー難儀なことだなー、記憶喪失ってやつだろーが……よし分かった。荷台に乗ってくれ」


「すまん、恩にきるよ~」


 礼を述べながら頭をひとつ下げて荷馬車に向かい歩き出すと、老人は後ろの荷台に顔を向けて、


「ユベールもそれで構わんよな?」


 と言った。どうやら荷台には先客がいたようだ。


「ああ、問題ないぜ~」


 荷台の柵に背中をあずけ後頭部をこちらに向けている人がユベールという男らしい。名前からしておフランスの香りがする。

 荷馬車に近づいたところで老人が身を乗り出し手を差し出してきた。

 がっちりした体型だと思っていたが顔のほうもがっちりしていてロシアの軍人さんっぽい雰囲気だった。


「アレン・ブラフォードだ」


 右手に持ってたライダースジャケットを左手に持ち替えて、がっちり体型がっちり顔のアレン老とがっちり握手をしながら、免許証の名前を思い出す。


「丈二?……だ」


 と自信なさそうに返した。


「ふむ、名前もはっきりしないのか……よほど強く打ったのかもしれんなー」


 アレン老は心配げにこちらの顔を窺ってくる。


「ユベールよ、この……ジョージ? だがお前の同族のようだぞ、しばらく面倒をみてやらんか?」


 そう言われたユベールはこちらを向いて少し驚いた表情を浮かべながら手を差し出してきた。


「ユベール・ジャンバルディーだ」


『ってお前日本人やんかーっ!』


 こころのなかで吉本も真っ青なジャンピングつっこみを入れながら恐る恐る手を握り、


「ジョージやねん」


 となぜか似非関西弁になってしまいながら握手をした。

 ユベールと名乗るこの男は典型的な日本人顔あるいは東洋人顔なのである。

 年は30前後で短めの黒髪黒目、堀の浅い平べったい顔はメガネが似合いそうである。

 そして特筆すべきはその恰好である。


『世紀末覇者?……ヒャッハーしちゃう感じ?』


 30代DT日本人が厨二病をこじらせまくってコスプレしちゃいました的な、戦士の恰好なのに魔法使いなのはこれ如何に! みたいな事になっている。

 上半身ハダカで何かの革で作った胸当てと肩当てをつけて、額には赤いバンダナで金属板を固定して某忍者漫画の額当てみたいになってるってばよ~。

 腕も革でできたガントレットは五寸釘のような棘が剣山のようになってます。おまえはトム・アラヤかっ! と小一時間は問いたい。


『これはヒドイ……もはや手遅れです』


 あまりのパンチの強さに「私のHPはもうゼロよ」的な衝撃を受けて固まっていると、


「同族とは珍しいな……こっちに来て10年以上たつが初めて出会ったよ」


 とユベールが嬉しそうに言ってきた。


「そ、そーなんだ……」

 

『そっか~日本人に会えて嬉しいんだね! でもごめんよ~! 同族とか言われるとかなりびみょーなんだよ~』


 なんとか自分を取り戻し馬車に乗るべく後ろに回り込むと、似非フランス人の世紀末戦士が荷台の上からいい笑顔で手を差し伸べてくれた。


「ありがと……アハハ……」


 馬車に乗り込みユベールの対面に腰を降ろすとニッコニコの笑顔で、隣町へ武器の納品に行った帰りだと教えてくれた。

 

『ナルホド! 某世界蛇の武器商人さんですね、全く分からん!』

 

 どーやらさっきからイロイロかみ合ってないようだ。

 何よりずっと気になってるのはこの二人の言葉、時々ひどく耳障りな感じがする。 

 その後町につくまで2時間程のあいだにあの町のことやら二人の仕事の事やらあれやこれや質問しまくったよ。……はいっ! もーね、さっすがに気が付きました。


 『これ異世界来ちゃってるやん……』

 

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