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うるうる大罪記 ――浜の真砂は尽くるとも――  作者: 川床 無庵
始まりの町クラマス編
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9話   任務 2

 夕方になる前に村に戻り村長に依頼達成の報告をして証明書にサインをもらった。ついでに村で唯一風呂がある村長宅で風呂をいただいた。村長ご自慢の風呂は水の出る魔道具のおかげで簡単にお湯を沸かす事ができた。湯船は4人入るには狭いがそれでも十分に贅沢なふろだ。

 

 こっちの人はあまり風呂に入らない。風呂のない家もたくさんあるのだ。

 普段はたらいにお湯を張ってタオルで拭くだけだから、久々に湯船に浸かる事ができ大いにリラックスした。

 やはり日本人には風呂は必要だな!うん。


 風呂には4人で一緒に入ったが湯船には2人づつ入る事にしてじゃんけんで順番を決めた。今は俺とライアーノが湯船に浸かっている。

 

 ……ん?

 ライアーノが若干こっちに近づいて来てるんだが?

 

『ちょ……ちょっと俺はノーマルなんだからねっ!』


 アーッ! とかないから、まじで。

 ライアーノの動向を監視しつつ狩りで溜まった心の垢を湯に溶かしていると、湯船の外で体を洗っているザックが聞いてきた。

 

「なーおもらし、お前おれらのパーティーに入らないか?」


「誘ってくれるのは嬉しいが来週からユベールのとこに入れてもらうかも知れんから今回は断らせてくれ、それと! おもらしはいい加減やめれ」


「そーか……残念だ」


「すまんな」


「おもらし君なら僕らのパーティーにぴったりなのにね」


 オッドの発言だが、おもらしはやめろと言った俺の発言は聞いていたんだろうか?


「うむ!ジョージはうちのパーティーが一番幸せになれるはずだ!」


 いあいあライアーノ、なんか発言がおかしいからねっ!


 俺としてもこいつらと一緒にいるのは悪くないがユベールが隊商護衛に連れていってくれる日が来週頭に決まっている。

 

 ちなみにこっちの世界も一週間は7日で、光の日から始まって火の日、水の日、風の日、土の日、闇の日、心の日となっている。最後の心の日ってのが安息日とされ上流階級は仕事を休み教会にお祈りにいくのだそうだ。庶民も教会にはいくがその後はいつも通り働いている。

 

 今日は風の日なので、明日一日歩いてクラマスに戻り2日休みを取って来週光の日からユベール達と隊商護衛に出発する予定である。依頼予定期間は3週間で王都まで行って帰ってくる予定である。

 

 ついでに言っておくと一年は12々月あり、春分、夏至、秋分、冬至で4っつに区切られそれぞれに精霊の名がついている。例えば今はサランファスサラマンダーファーストと言う月になる。夏期の第1月と言う意味で地球に当てはめるとば6月という事になる。


 どーやら俺は『ザックバラン』のメンバーに気に入られているようだが、隊商護衛の安定収入は魅力的なので申し訳ないと思いつつ誘いを断った。


 風呂から出た俺達は宿屋(と言っても半農半宿だが)に戻り女将に酒と料理を注文した。

 依頼達成と皆の無事を祝してささやかな宴会をする事にしたのだ。

 仕事の話やギルドの受付嬢クレアたんの話やらで盛り上がっていたところで、


「ところでジョージ、君の弓の腕がかなり上がっているように感じたんだが?」


 とライアーノが聞いてきた。

 最後ライアーノに襲いかかった奴は一撃で仕留められなかったものの、今回の狩り全体を思い出してもだいたいの奴はほぼ一撃で仕留めていたからだろう。


「一つにはレザーアーマーを新調したのが良かったと思う」


「どういうことだい?」


「以前使っていたのは弓使い用ではなかったから胸当てや左の肩当に弦があたって上手く矢が飛ばない事がよくあったんだ」


 新調したレザーアーマーはアレンのじいさんにお願いして作ってもらった弓使い用の革鎧で、動きやすく弓を扱うにも邪魔にならず大満足の出来であった。


「なるほど……で、一つと言うからには他にもあるのかい?」


「そーだなー……俺は最初職業がシーフだったんだがサブ職にハンターが追加されてたんだ。Dランクになった頃に弓で狩りをする事を考えて、メインをハンターに変えてもらったんだよ」


 経験や練習により選べるサブ職は増えていくのだが。サブ職のままだとスキルを覚えることはあっても成長はほとんどしないのだそうだ。ギルドにある魔法水晶でハンターに変更してもらったわけだが、シーフの時に習得したスキルはハンターのスキルとかぶる物が多く無駄にならなくてよかった。


「たしかハンターは弓スキルの習得と成長が容易になる職業だったかな?」


「そーだ。つい最近なんだが射撃というスキルがレベル2になって命中率があがったんだ」


「ほお、それはおめでとう。僕も今回の遠征で中級魔法がレベルアップしたような気がするんだ」


「確かに結構使ってたよな」


「そーなんだよ! 見ててくれたかい?」


 上気した顔をグィっとこちらに向け身を乗り出してきた。

 まずい……地雷踏んだかも。

 そこからはライアーノの魔法講座が始まり少し面倒だったが、まーこいつも頑張ってたし我慢して最後まで付き合おう。


 結局日が暮れるまで飲み食いした俺達はかなり早い時間から寝る事にした。明日は一日中歩きなのでたっぷり寝ておくと少しは楽なはずだ。

 朝早く出発すれば夕方にはクラマスに着けるはずである。

 連戦の疲れと気持ちのいい酔いのおかげでベッドに入るとすぐに睡魔が襲ってきて朝まで泥のように眠った。


 

 晴れ渡った青い空に真っ白な雲がのんびり浮かんでいる。

 時刻は正午くらいだろう。

 さほど高くはない山の峠を越えて麓に広がる森に入ったところで昼の休憩をとっている。

 宿で作ってもらった弁当は冒険者の必須アイテムである携帯食と違って、十分においしいと言えるものだった。

 昼食後のしばしの休憩で寛いでいるこの場所は、街道より少し離れたところにある小さな湖のほとりで、旅人たちの憩いの場所らしく開けた場所のあちこちにたき火の跡がのこっている。


「このあたりには魔物はでないのか?」


 近くに座ってタオルで汗を拭っているオッドに聞いてみる。


「街道近くには強い魔物はいないよ、それよりもオオカミのほうが怖いね」


 街道には魔物が嫌うと言われている太陽石(なんの変哲もない感じ)という赤っぽい石が50mくらいの感覚で置いてある。気休め程度だと思うがないよりましと言ったところだろう。

 そもそも魔物は魔力の元と考えられているエーテルが濃い場所に集まる。エーテルはどこにでも存在しこの世界を満たす素粒子のような物だが、星の持つエネルギーの通り道である龍脈が交差するような場所に溜まり易いのだそうだ。当然街道はそういう場所を避けて作られるので魔物は少ないという事になる。  

 

「そろそろ出発するぞ~」


 ザックが皆に告げて立ち上がる。

 湖に足を浸していたライアーノが慌てて準備をはじめた。

 おれも消耗品の点検の為に広げていた道具をリュックにしまう。荷物が減っているせいもあって『アイテム使用』を使わなくても全部収まった。


 全員の準備が整い街道に向かって森の中を歩き始める。

 斥候である俺が当然のように先頭である。次がオッドでライアーノが続き、殿しんがりがザックだ。

 

 異変に最初に気付いたのは俺だ。森の中に人がいる、しかも複数!


「まてっ! 何かおかしいぞ」


 皆に止まるように合図を送る。

 俺の様子からオッドとザックも気付いたようだ。


「囲まれてるな」


 オッドの指摘でライアーノが森の中に不安そうな視線を送る。

 ザックは後方からの襲撃に警戒している。

 森の中で俺達を囲む奴らは包囲を狭めてこない。

 

『魔法使いや弓使いか・・・』


 この状況はほぼ詰みと言っていい。下手に動けばただではすまないだろう。

 街道と湖の中間で縛り付けられ、じりっとも動けずにいると街道の方から兵士を連れた一人の男がやってきた。

 

 ひょろっとした長身を高そうなブリガンダインに包み、金色の肩当やらガントレットが自己主張し過ぎて空回りしている。

 腰に佩いている剣は実戦と無縁そうにびがびがに輝いているが刻まれた文様はひどく禍々しい。

 顔は四角く目はぎょろっとしていて、鼻の下にはナマズのようなひげが口の両端より先にまで伸びており先端はクイッと上に跳ねていた。

 髪は目と同じ茶色で真ん中から分けられており、ひげと同じように耳のところで跳ねている。

 第一印象は・・・「うわぁ~趣味わるぅ~」といった感じだ。


「我はクラマス閣下の騎士! クラマス警護部隊隊長リンゼニー・ガータービェルト卿であーる! 盗賊改めをいたす故かしこまって従うが良い!!」


 独特なだみ声で大見えを切って見せた、いかにもなテンプレ残念騎士に唖然としていると、お付の兵士がばらばらとやってきて街道の方へ引っ立てられた。兵士達の顔には面倒な主に付き合わされる事への諦観がありありと見て取れる。

 街道に引っ張り出されるとそこには衛兵の小隊が整列しており、さほど広くない街道を占拠して邪魔な事この上ない。

 ガーターベルト卿? だっけ? そいつがこちらに向き直り尋問がはじまった。


 「お前らは最近この領地を荒らし回る盗賊団の一味であろう? あそこで何をしておったのか~!」

 

 恰好も大概残念な人だけど中身よりましだったのね……トホホ。 


 

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