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うるうる大罪記 ――浜の真砂は尽くるとも――  作者: 川床 無庵
始まりの町クラマス編
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8話   任務 1

「おもらし、お前は左側に展開しろ」


「……分かった」


 ぐぬぬ……イラッとくるがこらえる。

 

「射線に気を付けろよ」


「ああ、仲間に当てたりはしない」


「おれは右から回り込む、オッドはここで奴らの攻撃を押さえろ、ライアーノはオッドの後方で補助と余裕があれば魔法で攻撃」


「まかせろ!」


「うむ」

 

「おれとおもらしが位置についたらライアーノの初撃でパーティーをおっぱじめようぜ!」


「任せたまえ、ド派手なのをお見舞いしよう」


 俺は今Cランクのパーティーとゴブリン討伐の為にジキールの森に来ている。クラマスから徒歩で1日のジキール村からの依頼である。

 こいつらと組むのは3度目で前回は俺がまだDランクだった時、赤ヒグマの討伐に同行した事がる。


 あの月夜の晩から2週間が経過していたが死んだであろう男と蹴り倒されていた男の事、ましてやあの女の事も何一つ情報は得られなかった。俺の想像では女はすぐにあの場を離れ、残った男が気絶から目覚めて仲間の遺体を始末したのだろう。男達の方も衛兵や自警団などには知られたくない事情があったのかもしれない。

 あの女にばったり出くわす可能性もある為、町にいたくなかった俺は5日間の予定でこのパーティーに同行したのである。この依頼を受ける為に斥候を探していたこいつらに俺が声をかけたのだ。

 今日は行程の4日目で午前中の狩りで依頼の討伐数はすでに達成しており明日にはクラマスに帰る予定だ。 


「よし、みんな手を出せ」


 4人で右手を出して重ねる、左手は胸に当てて目を閉じる。


「「「偉大なる冒険の神ファシナスよ我らに守護を与えたまえ」」」


 3人はぴったり揃った声でお祈りをするが前回同様、俺はやはりタイミングを外してしまった。

 初めてこの儀式を見た時に祈り方を教えてもらったのだが、俺に全く神の知識がないのに3人とも呆れていた。加護もらってないし別にええやん。


 こいつらは俺より半年早くCランクに上がった先輩であるが全員俺より若い。

 このパーティー『ザックバラン』(駄洒落かよっ)のリーダーであるザックは生意気だが剣の腕はたしかだ。盾役のオッドは体はでかいが肝は小さいようだ。魔法使いのライアーノは気障なセリフがうざいが風魔法の使い手である。

 

 俺は2年かけて21歳(自称)でCランクになったがこいつらは15歳から冒険者をしており経験も俺より積んでいる。

 

 神に祈りを捧げた終えた俺たちは行動を開始する。


 前方の藪には10匹ほどのゴブリンの集団が固まって休憩していた。先ほど発見した時と状況に変化はないようだ。

 

 奴らはエサを狩りに出る時は集団を作る習性がある。連携も戦略もなく集団で囲ってしとめるという原始的な狩りだ。

 それに対し今回の俺たちの作戦は一番基本的な挟撃である 

 

 俺は素早く最初のシューティングポイントに移動する。オッドたちの左前方である。

 開幕の魔法で怯えて逃げるやつがいたら仕留めるのも俺の役目だ。

 ゴブリンを狙える位置につき右後方のオッドに手をあげる。


「偉大なる風の精霊シルフよ我が敵を滅ぼす刃となり給え! ウィンドブラストォォォ!!」

 

 すぐにライアーノの呪文詠唱が始まった。

 突然の人間の声に飛び上がって驚いたゴブリン達が一様にオッド達の方を見て警戒態勢に入る。

 次の瞬間。

 群れの中心にカマイタチを伴う小型の竜巻が発生したのである。

 

「グギィエェェ!」「ギュグゥゥゥ!」「ギャウゥゥゥ」


 奴らは大混乱に陥ったがライアーノの全体魔法では致命傷を与える程の威力はなく、徐々に収まる風とともに奴らの混乱も収まった。

 次の魔法が来ないと知れるや奇声を上げながらオッド達の方へ走り出す。2匹を残して。

 すぐに1匹が反対方向に走り出したので、予め矢をつがえていた俺は逃げていく奴に狙いをつけて、


『スキル! アイテム使用!』


 スキルを発動させて矢を放った。

 

 このスキルは武器や盾、当然弓にも効果がないのだがなぜか矢だけには効果がでるのだ。直進性と矢じりの硬さが5倍になるからかなりすごい。

 

 もっとも命中率が5倍になるわけではない。いくら真っ直ぐ飛んでも狙いをつけるのは俺であり矢が狙いをつけるわけではないのだ。同じ理由で有効射程や威力も変わらない。それらは弓の性能に依存しているのだろう。

 ただし矢じりの硬さ5倍に関しては効果が顕著で、矢勢さえあればプレートメイルやタワーシールドのような金属製の防具でも容易に貫く。

 

 スキルと共に放たれた矢は深々とゴブリンの背中に突き刺さった。間違いなく致命傷だろう。

 もう一匹はハンターの存在を悟り茂みに隠れようと身を屈めるが、こちらから丸見えなのでこれもスキルを発動して一矢で倒す。

 

 俺はすぐさま踵を返した。急いでオッド達の所に戻ると、カイトシールドとバスタードソードを使うオッドに3匹のゴブリンが相対していた、残りの奴らは横から強襲したザックが全て仕留めたようだ。

 オッドとザックに防御力上昇の補助魔法をかけ終えているライアーノは杖を使って応戦している。

 仲間たちの元までもうすぐ、俺は短剣を抜こうとしたとこでソレに気付いた。


「ライアーノ後ろだ!!」


 大声で警告しながらすぐさま矢をつがえる。

 恐らくザックとは反対側に回り込んだ奴がいたのだろう、ライアーノの斜め後方から今まさに襲いかかろうとしているゴブリンに狙いを定める。

 ライアーノは俺の警告ですぐに後を向いたが眼前まで迫ったソレに驚き堪らず尻もちをついた。


『ナイス!』


 ライアーノがコケた事で射線が確保できた俺はそのゴブリンに矢を放った。

 しかしなにぶん咄嗟のことで狙いを外した矢は、どうにか肩に刺さりはしたが致命傷には及ばない。

 仕留めきれなかった事は悔まれるが敵の突進を止める事ができたのは僥倖だった。

 ライアーノは初級魔法ならば詠唱省略ができる為にすぐに座ったままゴブリンに杖を向ける。


「ウィンドスラッシュ!!」


 初級魔法とは言え適性と熟練度によって十分な威力の風の刃がゴブリンを襲い、深い傷を与えると共に吹き飛ばした。

 駆け付けた俺が短剣でとどめを刺して振り返るとオッドの相手をしていた奴らも最後の一匹がザックによって倒されたところだった。


「みんな無事かっ?」


 ザックが皆を見回しながら確認をとる。


「問題ない」「大丈夫だ」「ああ」


 オッドがバスタードソードを持っていた方の手首を引っかかれて怪我を負っているが「問題ない」の言葉通り血塗れではあるが大丈夫そうだ。

 ザックが腰のポーチからポーションを取り出し少量をオッドの傷口に直接かけた。こうする事で消毒、止血、回復の効果がある。

 そこまでひどい傷でもないし俺がしゃしゃりでる程でもない。


「ジョージ! さっきは助かった。礼を言わせてもらうおう。ありがとう」


 ライアーノは気障な口ぶりが玉に瑕だが根はいい奴なのだ。

 

「ああ、間に合って良かった」


 こうして今日3度目の戦闘が終わった。


 ゴブリンは素材として使える物が無いため討伐証明部位の右耳を切り落とし、魔物の証である魔石を取り出して残りは放置する。

 

 魔物というのは必ず体内に魔石を持っており、一部の魔物を除いてほとんどは心臓の中にある。 

 ゴブリンの魔石は直径5mm程度の大きさしかないし純度も低く濁っている為にほとんど価値はないのだが、魔石を抜かずに死体を放置するとアンデッド化することがある為、魔石回収は必須の義務なのだ。

 

 その後に残った死体は放置しておけば小動物やスライムなどが平らげてくれるので問題ない。


 使った矢を回収し解体を終えた俺達は、十分な数のゴブリンを倒していたため早めに村に引き上げる事にした。

 時間的にはもう一戦いけるがライアーノの魔力が切れそうなのもあり今回の任務はこれで終了となったのだ。

 

 俺達は意気揚々とジキールの村に向かって歩きはじめた。  



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