第1話 別れ
もう誰も好きにならない。
そう言って人はまた恋に落ちるもの。
二日酔い。
昨日のことが思いだせない。
ぐらぐらする頭の中をどうにかして。
真っ赤に充血した眼はまるでウサギ。
足が痛いな。
歩きすぎたのかな。
ヒールの高い靴のせい。
なんとなく覚えてるのは、あなたの横顔。
怒ってた?それとも泣いていた?
笑ってる顔が浮かばないのはなぜ?。
おそろいの指輪が見当たらない。
どこへいったのかな。
だらしがないのはいつものこと。
そのうち出てくるでしょ。
携帯の電源が切れてる。
充電がなくなったのかな。
なんて
記憶を消そうとしても無駄。
嘘。
本当は覚えてる。
あなたと昨日行った場所。
飲んだいつものお酒。
あなたと話した
くだらない世間話。
はじめは笑って聞いてくれた。
だけどあなたはどこか違ってた。
私にはすぐにわかった。
なにか言いたげな顔してる。
目がおよいでる。
わざとお酒を強くしてみせた。
「あんまり飲むと、また倒れるよ。」
眉間にシワをよせてあなたは言った。
そんな嫌な顔しないで。
もう倒れたりしないから。
あなたに恥ずかしい思いさせないから。
「お前さ、就職しないの?」
「お嫁さんになるからしないのー。」
………………
なぜ何も言わないの?
ずっとあなたの目を見つめた。
「お前が身体震わせて
倒れて
唇、切って
しゃべるのもなんか変になった時
はっきり言って
もう無理だって
思った。」
「友達にさ
相談したんだ。
やっぱり
病気の彼女は
付き合い大変だって
言われたよ。
お前を嫌いになったんじゃない。
でも怖いんだ。
お前の病気のこと
また目の前であんなになる姿見たら
俺
女の子として
お前を見れなくなると思う。
ごめん。」
頭の中が真っ白になった。
違うよ。
私
病気じゃないよ。
友達に相談?
友達は何を知ってるの。
女の子として
見れなくなるの?
なんで。
泣いて
泣いて
泣いて
わめいて
指輪をあなたに投げつけた。
「バカにしないでよ!!」
一瞬
時が止まったように
静けさにつつまれた。
沈黙。
何かしゃべって
さっきのこと
取り消して。
まだ間に合うから
お願い。
そう何度も心の中で繰り返した。
「すいません
お会計おねがいします。」
あなたが沈黙を破った。
「…私まだ帰らないから。」
手をひいてよ。
「そう…」
「あんまり…飲み過ぎんなよ。」
あなたは
ため息まじりにそう言って店を出ていってしまった。
それから焼酎のボトルを一人で一本あけた。
<ピッ…>
携帯の電源を
切った。
携帯が鳴らないのがわかってた。
もうかかってこない。
電源を切っておけば
変な期待をしなくてすむから。
それから何時間たったのか
店を出ていつも通る事のない道を歩いた。
フラフラと。
鼻歌を歌いながら歩いてみた。
そうしていると、変な虚しさと、悲しみが込み上げてきて
私の涙を止めなくさせた。
「なんでっ〜…」
人の目も気にならなかった。
もう涙が出なくなるんじゃないかと思うほど
とにかく泣いた。
家にたどり着くまで
どれだけ時間をかけただろう。
どれだけ歩いただろう
あまり覚えてない。
私はフラれた。
初めてすべてを見せた人だった。
初めてずっと一緒にいたいと
思えた人だったのに。