忘れていた感覚
クオンはホワイトタイガーの目の前まで走ると、そのままホワイトタイガーの尻尾まで跳躍した。それはアキ達への攻撃指示の証でもあった。
ホワイトタイガーは攻撃対象のクオンを目で置いつつ反転し、着地点を狙って爪を振りかぶる。クオンは体を捻り、その爪に自らの手袋を突きつける。爪から勢いと威力が消え失せた。肩から地面に落ちたクオンはその隙に受け身をとって、態勢を立て直す。
間髪入れずにテンマが右後ろ足を斬りつけた。鮮血が飛び散り、濃紺の鎧が血に濡れる。
ホワイトタイガーは怯むことなく、テンマのほうへと再び反転した。その瞬間、テンマの後方から鞭の先端がひゅんと音を立てて飛んでくる。
鞭は器用にテンマを避けながら、的確にホワイトタイガーの顔面を狙っていく。三発目が顔面を捉えたとき、ホワイトタイガーの体がふっと宙へ浮いた。途端にはるか上空へと舞い上がった。クオンが腹の下から上空へ向けて殴り飛ばしたようだ。
「うん、キマイラよりは軽いね。アキー、アレアレ! 大技決めよ!」
「アレやるのか……」
「大技……何をするつもりなのだ?」
まだ上昇しているホワイトタイガーを確認したアキは、仕方なく長い鞭をクオンの目の前に垂らす。クオンがそれを両手で掴んで跳躍した。アキは思い切り引っ張りクオンを引き寄せる。目の前に降りたクオンはアキへと手をかざす。
「『オールグロウ』『デストラクションアーム』発動!」
クオンは珍しくアキへとエンチャントをかけた。アキの両手から腕の周囲が赤いオーラのようなものに包まれ、体全体がほのかに黄金色に輝いた。すべてのステータスを上昇させる『オールグロウ』と、両腕の力が著しく上昇する『デストラクションアーム』によってアキの体は一時的に強化された。
アキが両手の指を絡ませ、受け皿のような形で構える。クオンが水神鞭の先を握りしめたまま、少し跳躍してその上に乗った。ホワイトタイガーの位置を確認したアキは短く息を吐き出してから覚悟を決めた。
「高度よし。っせーのぉ!」
アキは全身に力を込める。体の底から湧きあがるような感覚に興奮しつつ、クオンを真上のホワイトタイガーのもとへ振り飛ばす。それと同時にアキは水神鞭の柄を固く握った。
「ふふふー、おまたせ」
にやついたクオンは空中でホワイトタイガーの首に水神鞭を結びつけた。クオンがホワイトタイガーの腹部を蹴り上げ、先に落下する。アキは落下してきたクオンと手を掴み、遠心力を使い後方に投げ飛ばして落下の衝撃を逃がした。
アキは振り向いて、地面を滑って止まったクオンの位置を確認する。アキは水神鞭を前方へ大きく思い切り振り下ろした。ぐんっとホワイトタイガーは半円を描きながら急落下を始める。
「『スティールアーム』発動!」
クオンの両手から腕までがみるみるうちに鉄と化していった。鞭に操られるがまま上空から急降下してくるホワイトタイガーの視認しつつ、右足左足と交互に跳ねてリズムを作りながら位置の調整を行う。
「劇的必殺……!」
クオンは両足から体の幹、そして両腕から指先にかけて神経を研ぎ澄ました。遠心力を伴って高速落下してきたホワイトタイガーの頭めがけて、渾身の一撃を振り上げた。
「鉄腕アッパァァア!」
振り上げた拳はホワイトタイガーの顔に直撃し、ホワイトタイガーの肉と骨の砕ける音が響く。その巨体は力なく地面に落ちた。やがて塵となったホワイトタイガーの倒れていた場所には、数枚の銅貨と虎肉が置かれていた。
アキは大きなため息をつきながらその場に座り込み、途中から傍観していたテンマは興奮したように声を上げた。
「うおおぉ! ブラヴォー! ブラヴォー!」
「いぇーい! ナイスアキ―!」
「高度調整とか位置調整とか大変なんだからな! まったく……」
しかし、アキはクオンと久々に共闘し、懐かしい感覚がした。スリルがあり、達成感があり、その上で楽しい。興奮しっぱなしでプレイしていた、かつてのエタオンの本来の姿を少しだけ思い出した気がした。




