休息の焚き火
アキは頭を振るい、今目の前にいる仲間達に集中することにした。
「この際だから、かなり突っ込んだ質問するけど、ラインハルトは何歳なんだ?」
「えっと、僕は、十九歳で工学部に通う大学生だよ」
げっ、年上だったのか。
「メイン職業はファイター、サブ職業はウィザード。幼馴染のユリカも同じ大学の文学部に通っててさ、僕達は幼稚園からの仲なんだ」
「ユリカって人のこと、大切なんだな。早く行って、安心させてあげないと」
「うん。絶対、守らなきゃいけないって思ってる人なんだ」
ラインハルトは両手の指を絡ませ、握り締める。落ち着いた瞳を揺らぐ火へと向けていた。アキは頷きながら、次は白虎へと話を振った。
「そういや、白虎の兜取ったとこ見たことないな。差し支えないなら、素顔見たいな」
「……む」
白虎はすんなりと動き出した。存外すぐに素顔を見せてくれるようだ。頭部を全て覆っている兜を外し、その顔を露わにした。
素顔を見た三人は、数秒間固まる。白虎は皆の固まった様子に困惑した。
「……なんだ、どうした」
嘘だろ……?
白虎は艶やかな黒い長髪を後ろで一つに束ねている、青龍以上の美男であった。はっきりした目鼻立ち、よく通った鼻筋と顎筋。少しばかり面長でつり目気味なところが、クールな雰囲気を醸し出していた。
それに加えて、兜を外す前と後とでは、全くもって声が違っていた。野太く、くぐもっていた声は、低く程良い落ち着いた美声へと変貌していた。
「ああ、声に驚いているのか。俺が作った兜に、ボイスチェンジャー機能を付与しておいた……。それだけだ」
「え、あ、アキ、こんなのあり?」
「今日一番のサプライズだったな……。びゃ、白虎は何歳なんだ?」
「……二十七だ。メイン職業はナイト、サブ職業はブラックスミス。現実世界での仕事は、まあ、外資系の投資ファ────」
白虎の言葉をクオンが両手で制止した。
「お、追いつけない追いつけない! ひとまず仕事の話はまた今度、ね! ね!」
「……うむ。兜はもう付けて良いか」
「あ、ああ、悪かったな」
ひとまず、とんでもなくハイスペックな人間だってことはよくわかった。こんなの、カトレアや青龍、果てはテンマも知らないんじゃないか。
圧倒されていたラインハルトが、気がついたように身を乗り出してクオンへと話しかけた。
「ところでクオンは、いくつなんだい? あ、年齢聞くのは失礼かな……」
「いーよいーよ。この外見じゃ仕方ないもんね。私は二十四歳。メインはモンクで、サブはエンチャンター。現実じゃあ保険会社に勤めてるよー」
「……保険にも色々あると思うが、どういう界隈の人間なのだ」
いつもの野太い声が、アキ達を妙に安心させた。顔を晒したからか、アキ達に慣れたからか、少しずつ饒舌になってきている。
そんな白虎の質問にクオンは苦笑しながら、両手を目の前で振る。
「あーはは、これ以上は会社特定されかねないから。ごめんねっ。はい、アキの番だよ!」
一番年下ということをどこか情けなく思いながらも、腹を括り、アキは自分について話し出す。
「俺は十七歳、普通科高校の二年生。メインはモンスターテイマー、サブはアルケミスト。この中じゃ最年少だけど、エタオンでは年齢性別は関係ないと思ってるんだ。だから今まで通り、よろしく」
「経験値泥棒に絶滅危惧種! それであの強さ、すごいなぁ~! ああ、あと気になってたんだけど、もし言いたくないことだったらごめんよ。アキとクオンは、もしかして恋人?」
二人はきょとんとした表情で互いの顔を見合った。それからアキは焦ったように首を振った。クオンはその様子をじとっと見つめる。
「いやいや! 付き合ってない!」
「あー、すぐそういう反応されると、なんか傷つくよぉ。確かに付き合ってないけどさー」
「嘘ついたって仕方ないだろ! こういうのはデリケートな話題だし、なおさら嘘なんて!」
一人であたふたと対応するアキを見て、ラインハルトは静かに笑った。白虎はそんな三人の姿を眺めつつ、焚き火に洞窟内でアキからもらった松明の先端を膝で折り、持ち手部分だけをくべる。パチパチと弾ける音が聞こえた。
────夜の間散々話し続けたアキ達は、空が紺色に薄ら明るくなる頃、横穴から出てきた。
「もうすっかり明るくなったなあ」
「んーっ! 清々しいね!」
大きく体を伸ばしたクオンに続いていた白虎とラインハルトは、周囲を注意深く眺め、安全を確認した。
雄大な景色を横目に、一行は山越えを始めた。




