禁忌
翌日の朝、アキは擬似睡眠から目覚めた。窓から眩い日差しが差し込んでいる。ベッドが二つしか置かれていない質素な部屋の、もう一つのベッドにクオンが擬似睡眠している。先日は帰宅後、特に何をすることもなく擬似睡眠した。その後、いつの間にかクオンも帰ってきていたようだ。
そこでステータス画面を開き、初めてメッセージが届いていたことを知った。
誰かからメッセージが来てるけど……待ち合わせ時間の八時まで残り少ない。みんなと合流してから確認しよう。
ステータス画面を閉じてベッドから立ったアキは、未だに寝ているクオンの頬を試しにつついてみる。本物の肌のように柔らかいが、何ら反応はない。
本当なら、擬似睡眠はするべきじゃないんだよな。鍵をかけられないこの建物内じゃ、擬似睡眠中は無防備なんだ。
もしかしたら、用心深い精鋭隊の中にも擬似睡眠せず夜明けを待った人もいるかもしれない。眠気は来ないのだから、それが最善なんだろうな。
「むぅ……アキ?」
「おはようクオン」
寝ぼけ眼のクオンは、にへらと心地良さげに笑ってきた。そして勢いよく起き上がり、ベッドの上に立って大きく身体を伸ばした。
「ん~! よし、今日もがんばろ!」
「そこまで勢いがあると見てるこっちが清々しくなるなあ。じゃあ、玄関前に行こう」
二人が木製の両扉である玄関前にやってくると、そこには誰もいなかった。既に待ち合わせ時間である八時だが、玄関前にいるのはアキとクオンだけである。そんな時、アドルフが焦った様子で玄関から顔を出してきた。
「お二方、ついて来て下さいっ」
支部の奥へと進むアドルフの後ろを歩きながら、アキは戸惑いつつ質問した。
「何かあったんですか?」
アドルフは早歩きで、こちらに見向きもせず答えた。
「────ディザイアの騎士団がほぼ壊滅状態となりました」
「か、壊滅……? どういうことですか!」
「それを今、テンマさんが精鋭隊の皆さんに報告しているところです」
「なんか、遅刻してないのに遅刻した気分だねー。壊滅って、どの程度の壊滅なの?」
「昨晩、騎士団の本部内で擬似睡眠していた団員が、次々に殺害されました。擬似睡眠中に攻撃された場合はすぐに目覚めますが、目覚めた時にはペナルティタイムに入っており、身動きが取れなかったとのことです。これ以上詳しくは、テンマさんから伺ってください」
アドルフが堅牢な鉄扉を開けると、そこには鈍色の金属で作られた重々しい印象の円卓と椅子が並べられていた。その椅子に青龍、白虎、カトレア、アドルフ、テンマが順番に座っていた。
「カメのお二人さん遅刻ぅ~!」
「遅刻じゃないもんね! 時間通り玄関前に行ったんだよ!」
青龍に煽られたクオンは、頬を膨らませながらじたんだを踏んだ。
「青龍、よせ。今はそんな話をしている暇ではないのだ」
「へいへい」
「急に場所を変えてすまなかった。適当に腰掛けてくれ。アドルフ、二人に説明は?」
「ほんの少しだけです」
「……わかった」
隣同士の席が埋まり、円卓はちょうど埋まった。テンマが改めて皆に説明を始めた。
「先程も話したとおり、ディザイアの天馬騎士団が壊滅の危機に瀕している。同時にこの事件によって、街に被害が及ぶかもしれない。そうでなくとも、戦々恐々としている様は予測できる。よって、私はこのまま調査を続けるわけにはいかなくなった。一度、単独でディザイアに戻り、犯人を見つけ出さねばならない」
「それでこの精鋭隊が解散なら私達は徒労に終わるわけね。ま、玄武は大きすぎる収穫があったようだけれど?」
「いちいちトゲがあるなあ。第一、犯人の目星はついてるのか?」
周囲の空気が一瞬、冷えた気がした。テンマは言いづらそうに、一拍おいてから低いトーンで話し始めた。
「……どうして、目覚めた時にペナルティタイムに入っていた報告が来たと思う?」
「誰かが助けたってことか?」
「一度全員をペナルティタイムで行動不能にし、その中から『ある条件』に当てはまらない者だけを拘束してから復活薬で回復させる」
「まさか、犯人自ら……。殺害するプレイヤーを選んでるんだな」
カトレアがいつもの呆れ顔でため息をついた。最初、アキはその場に合わないため息に違和感を覚えた。しかしよく見ると、カトレアだけでなく青龍やアドルフ、白虎までもが、どこか哀れんだような視線をこちらに向けてきていた。
「そこまで言ってしまったのなら、さっさと全部話してあげなさいよ。それが彼のためでしょう?」
「え、どうしたんだよ」
「私達は既に事件の全容を、さっき教えてもらったのよ。それをテンマがもったいぶっているだけ」
「テンマ、何か言いたくないことでもあるのか」
アキの問いかけに、テンマは眉をひそめながら瞼を閉じた。
「犯人に殺害されたプレイヤーが当てはまる『ある条件』とは、その犯人を過去にいじめた経験があるか否かだ。そして、顔も隠していない犯人は当然、復活薬で回復させる際に目撃されている」
「いじめた……?」
「複数の目撃者と動機、タイミング。全てを考えるなら犯人はこの一人に絞られる」
アキは思わず立ち上がり身を乗り出す。
「そんな、バカな……!」
「今回の事件、犯人は────ユウだ」




