湿地帯の死闘
テンマは右手側に歪みを作り出し、以前とはまた違う燃え盛る剣を取り出していた。また新たに作り出した前方の歪みへと斬撃を繰り出した。それによってアースイーターの触手が次々に落ちていった。
青龍は伸びてきた触手にわざと捕まり、捕食寸前のところで触手を強引に切り落とし懐に潜り込んだ。双剣の乱舞がアースイーターの胴体をズタズタに引き裂いていく。
「み、みんなさすがだなあ」
「ほら他の人見てないで、ちゃんとアキも鞭でペチペチして!」
「植物系に水系は相性悪いな……モンスターも節約しておきたいし」
「もー。じゃ、お先行くからねー!」
クオンは両拳に火炎属性のエンチャントの『フレイムエモーション』と、そして全てのステータスを少しずつ上昇させる『オールグロウ』を自身にかけた。
それから湖沼の水面から所々飛び出している、何かの亡骸の山を器用に跳んでいき、アースイーターの花弁へと取り付いた。
白虎は何も怖気づくこともなく、湖沼へと潜っていった。平泳ぎで近づいて行くが、触手が白虎へと襲いかかる。
「……ふん」
重すぎて持ち上がらない白虎を、アースイーターは触手をしならせて攻撃するがびくともしない。悠々と平泳ぎで、アースイーターの触手で出来た足のようなところへと上陸した。
大槌を振りかざし、足元の触手を抉り取っていく。
一方で、三人の味方が取り付いてしまったせいで、大技のスペルを使うことが出来ないカトレアは、つまらなさそうに小さな火球をちまちまとアースイーターに当てていた。
アキも狙いづらさにヤキモキとしながら、丁寧に的確に、味方のいないスペースにぎりぎり届く鞭を当てる。
「よくそんなに長い鞭を扱えるわねあなた」
「はは、平凡な俺にも、これだけは才能があったみたいなんだ」
「見た目以上にギャンブラーなのね。この世界は一度決めたら職業を変えられないというのに」
「始めた当初は何も考えてなかったからな。あ、アースイーターのあの動き、そろそろ毒花粉振りまくんじゃないかな。
みんなー! 毒花粉そろそろ来るかもしれないから一旦後退しよう!」
体を小刻みに震わせ始めたアースイーターは、ある段階まで到達するとその口から周囲に毒効果を持つ花粉を散布する。それを一度吸ってしまえば、体中が痺れ始め、全身に痛みが走る。
さすがに手慣れているのか、危険を察知したクオン、白虎、青龍がアースイーターから離れようと湖沼へ着水した。
しかし、青龍の足首を掴んだ触手は、逆さに吊るし上げた。突然の出来事に、青龍は双剣を湖沼の中へと落としてしまった。
「へ、な、なんでボクがぁ? だ、誰かぁ! 助けろよお!」
まずいな。アースイーターが毒花粉を放った後、通常行動に移る。アースイーターは通常行動の際、完全に捕らえた獲物を最優先で捕食する。モンスターに捕食された場合はペナルティタイムがなく、そのまま死亡確定する。
つまり今助けなければ、青龍は現実で死んでしまう……!
「テンマ早く青龍を!」
「やっている! しかし……」
歪みの向こう側から、テンマは触手を断ち、青龍を解放していた。しかし、湖沼へと着水するまえに他の触手にてまた拾い上げられてしまっている。それをまたテンマが切り裂く、という行為を繰り返していた。
クオンや白虎をアースイーターのもとへ戻らせるわけにいかない。二人が毒にやられたなら、陣形が大幅に崩れる。それじゃあアースイーターと有利に戦えなくなってしまう。
「くそ、死なれるよりマシだ! 『サキュバス』『エンジェル』喚起!」
サキュバスとエンジェルがぬかるむ地面から現れ、互いに睨み合っている。
「ちっ、いけすかない天の犬め」
「黙れ、公然猥褻のケダモノ」
「二人とも喧嘩してる場合じゃないんだ! アースイーターの触手を可能な限り切断して欲しい!」
互いにメンチを切りながら、サキュバスとエンジェルはアースイーターの触手へと光線を解き放った。紫色の光線と、白く輝く光線が、まるで競い合うようにして触手を次々に焼き切っていった。しかしそれでもアースイーターは青龍を手放さなかった。
そしてアースイーターの震えが止まり、背筋が凍るような笑みでこちらを見つめてきた。
「みんな集まって! エンジェル、全方位プロテクト展開してくれ!」
「人使いの荒いことで」
テンマ、アキ、クオン、白虎が一つにまとまると、エンジェルが空に向けて両手をかざした。頭上から半球状の薄く黄色い膜が張られていく。
それと同時に、アースイーターの口から吐かれた黒々とした花粉が周囲一体を覆い尽くした。




