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エタニティオンライン  作者: 足立韋護
崩壊
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運営の困惑

────ポニーエンターテイメント、エタニティオンライン運営部。


 この時既に、事件発生から丸一日経過し、二日目の深夜一時を回っていた。運営部はマスコミの追求を逃れつつ解決策を模索していたが、事態は一向に改善していなかった。

 そんなとき、警察の記者会見が開かれ、運営部ですら知り得なかった事実を発表していた。


「修、一体どうなってんだこりゃ……」


「わからない。しかし、嘘ということでもないのだろうな」


 西倉修と相良良太、そして運営部一同は宙に浮かんでいるスクリーンに釘付けになっていた。警察は『ログアウト成功者』の実名及びプレイヤー名の発表を行っている。それは一人どころではなく、十数人にも及んだ。しかしそのどれも衰弱しており、聴取の時期は経過を見て判断するらしかった。

 ログアウトしていた人間が居たこと、それを先に運営側へと伝えていなかった警察、これらが運営部の社員を困惑させていた。


「恐らく独自の情報網を使って、向こうは向こうで捜査をしていたのだろ。俺らは疑われている身、当然と言えば当然の話」


「事件を解決する気あんのか警察はよぉ」


「……三枝(さえぐさ)、お前のソースコードを見る力が必要だ。今すぐログアウトホールが開いている場所を探してほしい」


「お、美月の人力ソースチェッカー久々に見る気がするな!」


「わかりましたけど、ひどく目が疲れるので先輩方も手伝ってくださいよ? プレイヤーの命かかってんですから」


「へいへい。修、俺らもやるか」


「……アビスだ。アビス周辺を探れ」


「え、アビスって、港町アビスですよね。どうしてですか?」


 修は表情一つ変えずにスクリーンを指差した。


「発表されているプレイヤー名は、アビス周辺で活動している者ばかりだ。クラッカーがオープンアクセス型のログアウトホールを、故意に出現させているのかもしれない」


「さっすが部長! すぐに探ります」


 三枝美月はすぐさま、自らのデスクに表示されているスクリーンに張り付き、ソースコードの変更をくまなく調べていく。

 美月は乗っ取られた後に変更されている箇所に、一定のパターンがあることを知っていた。『出血の表現』や『身体部位欠損』、『NPCとの恋愛要素』など、元々運営部が用意していたが、後々になって廃止したコードが使用されているということ。そのソースコードはクラッキングされる前から、プログラムに反映されない形のコメントアウトとして表記され、保存してあった。

 それらが何故廃止されたか、それは美月が入社する前に決まっていたことなので耳にすることはなかった。


「オープンアクセス型……閉じ込めといて、逃がす。どういうこったホントに。まるで、要らない奴は帰してるみたいだ」


「良太、そういうのは警察に任せておけば良い。俺達は事実を報告するまでだ」


 良太は深刻そうな表情で、修の肩に手を置いた。そして、運営部の出入り口を指差す。


「なぁ、修……ちょい連れションしよーぜ! きっとソースコード探すの手間取るだろうしさ」


「まあ、構わないが」


 入り口の警察官に名前を言って通してもらい、二人は数秒で着くトイレへと入って行った。

 用をたしている最中、良太は思い出したかのように修へと話しかける。


「そういや、クラッキングされる直前に実行した『戦闘活性化案』さ。あれ、裏目に出ちまったな」


「ああ。一年経ち、モンスターの攻略法も確立され、フィールドもほぼ踏破され、プレイヤー達の刺激は少なくなる一方だ。新たな、そして持続的な刺激を生み出す方法は、悪のプレイヤーを生み出すことが一番手っ取り早かった」


「新しいモンスター追加すんのだって、デザインからプログラムまでやること多いもんなぁ……。

 あ、話変わるけど、修、同期なのに俺お前のことあんま知らなかったからよ、少し調べさせてもらったわ」


 二人は洗面台へと立ち、手の汚れをしつこく洗い落とす。


「お前、恋人亡くしてたんだな……。いやこれは勝手に調べてたら出てきて、悪かったな」


「いや、別にいい」


「んでよ、精神転送技術の第一人者、西倉(つとむ)博士の息子らしいじゃんか」


「何が言いたい?」




「────なーんか、俺やみんなに隠し事してないかってことだけ、聞きたい」




 良太はじろりと修の細い瞳に目を向けた。こうやって揺さぶりをかけても、修は全く動じない。眼球をピクリとも動かさずに、ゆっくり瞼を閉じた。


「エタニティオンラインは、俺達運営部の夢であり希望であり、金のなる木だ。そんなものを己の手で穢すなど愚の骨頂。頭の悪い行為だ」


 洗面所にはピンと緊張の糸が張り詰めた。

 少しして、良太は歯を見せながらすっきりとした笑みを浮かべた。


「そこまで否定されちゃ敵わねーな。しばらくはそういうことにしとくかね! 個人情報、勝手に調べちまってホント悪かったよ」


 修も毒気が抜けたように薄く笑い、小さく頷いた。

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