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エタニティオンライン  作者: 足立韋護
変貌
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嵐の前の静けさ

 結果から言ってしまえば、取引は難なく成立した。時間をかけて話し合い、互いの合意の上で、間違いなく成立させたのだ。取引相手の二人には既に帰ってもらった。気付けばもう夕方。ここまで長くログインしていると、既に現実が今、どの時間帯なのか忘れてしまっている。

 アキはその稼いだ大金を麻袋に入れ、手に持ちながらオータムストアの一階へと駆け下りた。ベルとエンジェルがテキパキと商品整理をこなしている。夕方だからなのか、珍しく店に客はおらず、在庫も尽きそうだ。クオンはどこにもいない。どこかへと出かけてしまっているようだ。


「ベル、もう店を閉めてくれ」


「まだ夕方ですよ?」


「良いんだ。エンジェル、今日はもう帰って良いよ、お疲れ様」


「はぁー疲れた! まあまた必要になったら呼び出してー」


 ひらひらと手を振ったエンジェルを返還した。店の前にかかっている札を『OPEN』から『CLOSE』に裏返したベルは、ため息混じりに問いかけてきた。


「何か、理由があるんですか? 確かにアキさんの手腕で店は大儲けしていますが、怠慢は……」


 アキは麻袋から一枚の金貨を取り出し、ベルに差し出した。目を丸くしたベルは、震える手で受け取りつつも、狼狽しながら金貨とアキを交互に見た。


「ど、どういうことです? お給金は先週いただいたばかりですよ!」


「ここまでお店を回してくれてたことに対するお礼だ。受け取ってくれ。これでハミルさんと美味しいものでも食べてくれ」


「……まさか、お店を閉めるつもりですか」


「少しの間な。ベルにはわからないかもしれないけど、この世界は俺らプレイヤーにとって、とても危ない状況になったんだ。だから、少しの間、この世界が元に戻るまで仲間と引きこもろうと思うんだ」


 ベルは俯き、動揺したように視線を泳がせた。


「何を言っているのか、私にはさっぱりわかりません。でも、アキさんと離れるのは……私……」


 やっぱり、こんな会話設定されてないはず。どうしたっていうんだ。運営が書き加えたのか。ハッカーの趣味なのか。そうそう簡単に出来ないはずだけど。


「私もその仲間に入れてください! アキさんとずっと一緒に過ごしていたいんです!」


 ベルがアキの古ぼけた服の裾を、そっとつまんだ。俯いているせいで表情こそ見えないものの、木の床に数滴の雫が落ちた。アキはベルの肩を掴み、その場で膝を地面につき、ベルの顔を見上げた。表情は人間らしく歪み、悔しそうに涙を流している。


「それは、出来ない。これはプレイヤーだけの問題。NPCを巻き込む訳にはいかないんだ」


「NPCとかプレイヤーとかわかりませんよ! この世界で、私達は同じ『人間』じゃないですか!」


 アキは何かが心に深く突き刺さった気がした。込み上げるものをぐっとこらえ、首を振った。挙動がいつもと違うということは、ハッカーに操られている可能性がある。となれば、一緒に籠城したところで、ハッカーがもしNPCに『プレイヤーへ攻撃しろ』と命令したなら、全滅すら覚悟しなければならない事態に陥る危険性が伴うのだ。

 どうしても、ベルを連れて行くわけにはいかなかった。


「ベル、ごめん。いつか、また迎えに来るから!」


 アキは振り向いて店を飛び出した。そのまま、オータムセキュリティへと逃げ込むようにして入って行く。店内には、少し驚いた様子のミールが、銀髪を揺らしながら近づいてきた。


「アキさん、どうしたの……」


「ミール、オータムセキュリティは、しばらく閉めることにする」


 普段表情の乏しいミールだが、アキにそう告げられた途端、瞳を潤ませながら両手に拳を作って俯いた。アキは金貨を一枚、ミールにも手渡そうとしたが、ふるふると首を振って頑なに受け取ろうとはしなかった。


「なら、私は、ここでアキさんを待ってる……」


 契約を一時的に解除された場合であっても、NPCはあらかじめ用意されている家へと帰るはずであった。この会話も今回の挙動の変化による影響であると、アキは察した。


「ならその間、食べるものが必要だろ。ここに金貨を置いておくから、お腹が空いたら使ってくれ。また、元に戻ったら、迎えに来るから」


 そう言ったアキはテーブルに金貨を一枚置いて、ミールの横を通り過ぎ店の扉を開けようとしたところで、背後からボソリと声が聞こえてきた。


「……応援してる」


 頷いて答えたアキは、すぐさまフラメラーズホテルに向かって走り出した。金貨は奪われないよう、アイテムチェストへ入れ、ひたすら走り続ける。走ってみれば案外近いもので、ものの数分で着いてしまった。辺りは静かだ。夜になると視界が悪くなるため、人が少なくなるのかもしれない。

 しかし、そんなことにいちいち気を取られるわけにはいかない。早速、籠城する準備を始めなければならないのだから。

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