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エタニティオンライン  作者: 足立韋護
変貌
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孤高のソロウィザード カトレア

 広告を貼り出したことによる反響は思っていた以上にあった。ゲーム内時間で、二時間の間に五人ものプレイヤーが、アキに既存物件取引の相談を持ちかけてきた。売り出し価格は買った時の五割増し。それでも元々が安かったために、別段相場より高くなったという印象はない。

 この相談を持ちかけてきた五人の内一人は、対多取引を望んでおりその取引人数は合計六人。アキはひとまずこちらを優先しようと決めた。

 残りの四人はそれぞれ一人で買えるという話だったが、内二人は転売目的であったため、あっさりと断った。高く売らせるために売るのではない。安全を確保してもらうために売るのだ。


 店の外に貼り出された広告は、クオンがすぐさま剥がし、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へと放った。店には相変わらず客が押し寄せており、次々に買い込んでいく。在庫もあと半日程度で切れそうだった。


 既に取引が決定した対多取引の男性の客は、二階の奥の部屋へと待機してもらい、残りの転売目的でない二人からアキの自室にて話を聞いていた。

 一人はファイターの古参プレイヤー、ミスガルド。天馬騎士団に所属しており、ユウを落ちこぼれ扱いしていた短髪の男だ。腰には大振りの剣を下げている。もう一人はウィザード、金色の長髪を持つ女性、カトレアだ。レアアイテムを身体中に身につけている古参プレイヤーである。ミスガルド、カトレアともに、この状況を期に貯めていた金を有効活用しようと踏んでいるのだろう。


「なあアキさんよ、俺は転売目的じゃないんだ。何ならもうちっと金出す。だから頼む、買わせてくれよ」


「というより、何故対多取引のプレイヤーを優先したのかサッパリなのだけど。まあ良いわ。ならこちらも、もう少しだけならお金を上乗せするわ」


 残るは十五ゴールドでハミルさんから購入した家だ。どちらも条件はほぼ同じ。古参プレイヤーの場合、いくら相手がPKであろうと大抵負けるようなことはないはずだ。天馬騎士団の団員達のように、最悪、クランの所有する建物に引きこもれば良い。


「お二方、クランには?」


「入ってる。お前も知ってんだろ、天馬騎士団だ。けどあそこの辛気臭い連中とは一緒に居たかねぇんだ」


「入ってないわ。ソロのほうが気が楽だもの。ねえ、早く決めてちょうだい。時間が勿体無いわ」


 カトレアはソロプレイヤーだったのか。妙に装備が堅固だと思った。ウィザードのソロなんて、特に色んなことを想定して戦わなくちゃならないからな。

 カトレアは女性というのもあるし、ソロプレイヤーならばもう答えは決まった。


「ごめんなさいミスガルドさん、今回はカトレアさんと取引させてもらいます」


 ミスガルドは眉を歪めながら席を立ち、怒声をアキにぶちまけた。


「あァ? こっちが下手に出りゃ調子乗りやがって。んでこんなワガママ女なんかに取引しやがんだよ!」


「ごめんなさい。理由は色々とあるんですが」


「謝って済む問題じゃねぇだろうがよ! そーかわかった、あの落ちこぼれのユウに対する俺の態度が気に入らなかったんだろ、そうだろ! 天下の天馬騎士団が黙っちゃいねぇぞ!」


 ミスガルドがアキに掴みかかろうとしたところで、カトレアが杖をミスガルドの頭に突きつけた。


 この二頭の蛇が巻きついた杖は『カドゥケウス』。ソロで激レア武器を持ってるなんて、相当な実力者なのか。スペルの補正値を格段に高め、純粋なスペル強化を見込める。上級者ダンジョン最奥部の毒地帯でしかドロップ出来ない武器だ。


「そんな騎士団から支給されたヘボの武器を使っているようなあなたには、この武器の価値がわからないでしょうね」


「だ、だからどうしたってんだよ! お前ら二人くらい、近接武器でぶっ叩けば────」


「お黙り。あなたが胸倉を掴もうとしている男の、腰に携えてある武器は、紛れもなく『水神鞭』だわ。わからない? あなたとはレベルの違うプレイヤーが、目の前に二人もいるのよ?」


「そそ、そんな脅し、俺には効果ないぞ! こんなボロ装備してる奴が強いわけがないだろうが!」


「水神鞭にはねぇ、喚起したモンスター達を癒す効果と、ショートレンジに踏み込んできた敵をオートで捕縛する能力があるのよ。ここであなたが、このアキに攻撃を加えたなら、その場で捕縛され、私のスペルで丸焦げにだって出来るのよ?」


 水神鞭の効果まで熟知してるとは、大したプレイヤーだ。カトレア……覚えておこう。


 ミスガルドは下唇を噛み締めながら、ジリジリと後退し、部屋から走って出て行った。足音が徐々に遠ざかったところで、カトレアがため息をついた。


「まったく、身の程を弁えない愚か者には、ここまで説明してあげないといけないものなのね」


「ありがとうございます、カトレアさん」


「あなたもあなたよ。実力を隠すような真似をして、何が楽しいの? 騎士団のような変態ロールプレイ集団と同じというわけ?」


 カトレアはその長いまつ毛を揺らして瞬きしながら、アキを高圧的に指差してきた。


「はは、そんなつもりは……。あ、隣に待たせている方を呼んできますね! 取引はそれからまとめて行いましょう」


 何はともあれ、取引は上手くいきそうだ。このお金を稼いだら……オータムストア、オータムセキュリティはしばらく閉めよう。運営が現状をなんとかしてくれるまで、引きこもる。クオンの言ったとおり、きっと大丈夫だ。


────そう、きっと全て上手くいくはずなんだ。

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