岐路
ディザイアの町並みを橙色の夕日が照らし、日が沈み始めていることを告げていた。
オータムストアまでの道すがら、すれ違うプレイヤー達の表情は、何かを模索しているように見えた。生き抜くための最善の方法、フラメルと同様に彼らもまた、独自に考え出そうとしていた。アキとクオンがオータムストアへ着く頃には、店の外にまで長蛇の列が出来ていた。
「な、なんだこりゃ……」
アキは以前店を訪れた客の言葉を思い出した。
『ほら、ペナルティタイム過ぎるとよ、今んとこ拠点に復活出来ねえって話あんだろ。だがペナルティタイム中に復活薬使えば、そりゃとりあえず回避出来るみたいなんだわ。アキって言ったか、あんた良いとこに目付けたな』
「復活薬の効果は、ペナルティタイム中限定の蘇生……。蘇生してしまえば死亡確定せずに済む……! そうか、なんで今まで気づかなかったんだろう!」
HPがなくなれば、ここでも現実でも死ぬと思っていた。でも違った。HPがなくなっても、ペナルティタイム中に復活薬を使えば、死亡確定はしないからそのまま生き返る! 事実そういうことでなければ、この客の数は説明がつかない。
店内へ入ると、血眼になって復活薬を求めている客と木箱を引っ張り出して、復活薬をテーブルに並べるベルの姿があった。その復活薬を片手に持ち、エンジェルは接客に徹している。
「ア、ア、アキさぁぁん! 一体全体どうなってるんですかこれ! てんてこ舞いですよぉ!」
「ベル、復活薬の在庫は!」
「え? えーと……あとこの箱含めて二つですよ。並び始めたのはついさっきからでしたので」
復活薬が出回れば、もしかしたら被害を最小限に抑えることができるかもしれない。
「在庫がなくなるのは避けたいな。クオン、復活薬を量産するから手伝ってくれないか」
「もっちろんよー!」
このときは呑気に手を上げて答えたクオンだったが、いざ錬金術の手伝いが始まると、効率良く材料をフラスコに詰め込んでいきアキの横に並べていく、優秀な助手としてよく働いた。その間もアキは『復活薬生成』のインターバルタイムである三十秒ごとに、復活薬をひたすら作り続けた。
レジの裏にある部屋に二人きり。復活薬を置いたクオンの手と、復活薬を取ろうとしたアキの手が触れ合った。
「あっ、ごめんね……」
か細い声で謝ったのはクオンだった。いつもと違い、しおらしく頬を染めている。
アキは、こんな典型的なシチュエーションもあるものなんだなあ、などと考えながらひとまずクオンに頭を下げた。
「いや、こっちもよく見てなかった、ごめん」
「あの、今日……森に来てくれてありがとね」
いつもは快活に笑い、大袈裟に相手の背を叩いて礼を述べるような女が、突然もじもじと上目遣いで見つめてくるものだから、さすがのアキも首を傾げた。
「そりゃ、大切なパートナーだしな。急に改まってどうしたんだよ」
「森に一人でいるとき、アキに探しに来てほしいって、考えてたんだ」
「まずは自分の心配したらどうなんだよ……。あんなところに立ってたら、あの男達に襲われてたかもしれないんだ」
「……それも、そうだね」
「よし、ようやく一箱分できた!」
「あ、じゃあ運んでくるよっ!」
「ああ、頼んだ」
立ち上がったクオンの背中をアキは眺めた。華奢。その一言がここまでぴたりと当てはまる背中も珍しい。その印象に反して、自らの横幅以上の木箱を、力強く両手で持ち上げている。クオンはそのまま、ドアを開けようとしたところで立ち止まり一言、アキに質問してきた。
「アキは、この世界に閉じ込められて、どう思う?」
「さっきからどうしたんだ」
「いいから」
それを聞かれたアキは、現実世界を思い出していた。ハリボテだらけ、代用品だらけの世の中。木の一本も街中には生えていない。嘘も格差も差別も当然のようにふんぞり返っている社会。そういえば、いつもそれらに辟易していた、とアキは思い出した。
「────この世界も、悪くないかもしれない」
それを聞きしばらく動かなかったクオンは、一回頷いてからドアを開けて売り場へと出て行った。一人、部屋に残されたアキは、ふっとため息をついて、先程の言葉に付け加える。
「……今のところは、な」




