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エタニティオンライン  作者: 足立韋護
日常
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我が家へ

 エタニティオンラインの世界で、暁影の名前は『アキ』とされていた。


 ログイン時には強制的に拠点が設定している街の、自宅がある場合は自宅、店がある場合は店、どちらもない場合は街の入り口、に出現する。複数のある場合は任意で設定出来るようになっていた。


 自宅兼店を所持するアキはその二階のプライベートスペースの窓から、街の外に広がる大自然を眺めることが出来るようにログイン設定をしてあった。


 エタニティオンラインというゲームには特に目的は設定されていない。基本形は酒場にて依頼を受注し、それを達成して報酬をもらうというだが、それはあくまで基本中の基本であった。


 ひたすらに敵を倒して強くなっていく戦士プレイ。農耕を極めてその品物を加工して売る商人プレイ。商人プレイヤーから直接金をもらい依頼を達成する傭兵プレイ。果てはいかにモンスターを鮮やかに倒すかという魅せプレイなど、その幅広さはもはや現実とほぼ大差がないとまで言われている。


 よし、しっかりと五感がある。正常だな。さてメニューで新着情報でも確認しようか。


 瞼をふっと閉じ、「メニュー」と呟くと、宙に自分にしか見えない半透明の板状のメニュー画面が出現した。それぞれの役割に該当する文字が中心に表示された、宝珠のような形をしたアイコンが、横一列に規則的に並んでいる。

 メニュー画面の上部には、HP(ヒットポイント)MP(マナポイント)がゲージにて簡易的に表示されていた。その右に『!』と小さく表示されており、それが新着メッセージを受信していた証でもあった。


 新着メッセージ、誰だろ。


 指を使い、アイコンを左にスライドさせ、右奥にあった『メッセージボックス』のアイコンを指でつつく。

 短く淡白な効果音が鳴り、メッセージボックスの画面を表示した。差出人の欄には『クオン』と書かれてあり、件名はなく本文しかなかった。

 そのメッセージの下にも、さまざまな相手への返信済みメッセージが残っていた。ひとまずクオンのメッセージを開いてみることにする。


『アッキー! 今夜十二時までインしてる? 返事よろしくねー!』


 クオンは現実で仕事があるから夕方までログイン出来ない。うーん、この時間から十二時までしか一緒に出来ないのが惜しいなあ。すごく優秀なんだけど。


 『返信』と書かれたアイコンを押し込み、返信画面を表示する。手元にパソコンに使われているキーボードがそのまま出現し、それを使って入力出来るようになっていた。アキは立ったままキーボードをタッチタイピングしていく。


 小学校で全生徒が覚えさせられる、キーボードを見ずに入力するタッチタイピングの技術をここで発揮することになるとは、当時のアキには想像もついていなかった。

 ブラインドタッチという呼称は和製英語であることと、差別的意味にも捉えられるため半世紀前に衰退していた。


『ログインしたよ。まだ街にいるなら俺の店に来て』


 『送信』と書かれたアイコンに触れ、すぐに表示された送信完了という文字を確認した。再び目を閉じ、「終了」と呟き、瞼を開けるとメニュー画面とキーボードが視界から消えていた。


 多くの書類が積み重なる床や机と、簡易的なベッドしかない部屋を見回して、掃除への意欲を減退させてから部屋を後にした。木造建築の建物であるために、歩くたびに鳴る、木の軋む音が心地良く脳内に響く。


 この小汚い感じに、この木造独特の趣きがたまらないんだよなあ。


 ニヤつきながら階段を降りるとそこは既に店内であった。閑散とした売り場には、受付役のNPCノンプレイヤーキャラクターがぽつりと立っていた。


 NPCとは、プレイヤーの操作していないコンピュータ制御によって動かされているキャラクターのことである。

 『エタニティオンライン』でもさまざまなNPCが存在し、主に街の中で商いに関する仕事をしていることが多い。中にはアキのよういプレイヤーがNPCを月給で雇い、プレイヤーがクエストを受けている時やログアウト中でも取引出来るよう工夫する場合もある。


「こんにちは。アキさん」


「ベル、お疲れ様。どう、売り上げの方は」


 ベルは前で慎ましく手を組み、苦笑いを浮かべた。艶やかで長い黒髪を少し揺らしながら首を傾げた。


 コンピュータ制御とはいえ、どう見ても人間だ。とてもプログラムで動いているとは思えないな。

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