待機と金稼ぎ
喫茶店の中にいたほとんどの客がメニュー画面を開き、オーブ型のアイコンを左へとスライドしていく。アキもまた同様に、メニュー画面の一番右から二番目にあるアイコンを見つけ出していた。そこには『入出管理』と書かれた銀色に輝くアイコンがあり、そこを指で押し込むと、『自己入出履歴』、『フレンド入出履歴』、『ログアウト』と縦に並べられている画面が表示されている。
本来ならば、このログアウトという欄を押せば黒いワームホールのような『ログアウトホール』が出現し、そこへ入るとすぐさまログアウトすることができる。しかしこの時、この場のプレイヤーの誰一人としてログアウトホールが出現した者はいなかった。
「お前もダメか!?」
「ダメだ。ここの人全員がログアウトできないらしい」
先ほどまで絡んできていた男が、焦った様子でアキへと聞いてきたので、アキはゆっくりと首を横に振った。しかし前例のない事態であっても、アキは特別焦っているわけではなかった。それがバグの一種だとしても、エタカプに強制ログアウト機能がある限りは、セーフティネットが張られているのだ。死ぬわけではないのだから、それほど躍起になることでもない、と冷静にこの状況を判断していた。
「アキさん、どうしましょう?」
さすがフラメルさん。こんな時でも冷静だ。
「ひとまず問い合わせフォームから、運営に報告をして早急に修正してもらいましょう。運営から何かあるまで、自由行動で構わないでしょう。もし個人的な返答があったら、コピーして俺のメッセージに送っておいて下さい」
「的確ですね。わかりました」
結局アキはココアを飲むことも忘れて、フラメラーズホテルを後にした。街の様子見る限り、特別変わりはない。まだ気付いていないプレイヤーのほうが多い証拠であった。アキはメニューを再び開き、ユウへとメッセージを送った。
『もうわかってるかもしれないけど、少し厄介なことになってる。ログアウトが出来ない。その旨を天馬騎士団の団長に伝えておいてほしい。暇が出来たらまた会おう』
俺にはあまり関係はないけど、ない時間をやりくりしてプレイしてる人にとっては、大変なことなんだろうなあ。
「アッキー!」
「うお、クオンか」
メニューを閉じたアキの正面から、クオンが手を振りながら駆けてきた。既にログインしていたようだ。クオンは、ログイン時にいつもメッセージを送ってくるが今日は何もなかったので、アキは意表をつかれた。
「ねぇねアキ、今何故かログアウト出来ないよね」
「あれ、もう知ってたんだ。思いのほか広まってるんだな……。そうだよ。今は運営からの連絡待ち」
「お店のほうにいないから、フラメルさんとこかなーって思って、走ってきちゃった!」
いつも以上に明るい笑顔で、アキを見上げてきた。こういったトラブルをクオンが好むことをアキは知っていた。高揚している理由など、ログアウト以外ないだろう。
「そういえば、お店のほう結構混み始めてたよー」
「ああ。でもログアウトの件が解決しないことには……」
「うーん、ベルちゃんとエンジェルちゃん大変そうだったけどなぁー」
確かに運営側から何か発表がない限り、ひとまず身動きは出来なくなる。この街のトップクランである天馬騎士団のメンバーでもないため、この状況に何をできるわけでもない。この状況下であっても、プレイヤーはいつも通りプレイするだろう。やがてアキは、オータムストアへと向かって歩き出した。
「……なら俺だって、いつも通りのことをするだけさ」




