噂
アキがやって来たのは天馬騎士団の本部である、城のような造りの建物だ。そびえ立つ建物の正面には、堅牢な鉄門が備え付けられ、その横には高い石壁が建物の四方を囲っていた。門の前には番兵として、騎士団加入者と、初心者の指導の受付を担当する短髪の男性プレイヤーと、それらの説明係である三つ編みの女性プレイヤーが木の椅子に座っていた。
戦闘区域ではない場所に門番のようにプレイヤーを配置し、自警団を買って出る天馬騎士団の根幹には、ロールプレイという観念が備わっていた。騎士団は、そのロールプレイを個人的に楽しんでいるプレイヤーが大半を占める。
「騎士団加入者か?」
門の前にまで歩いてきたアキは首を横に振った。期待の眼差しを向けてきた二人は、途端に素っ気ない態度で、話を続ける。
「なんだ。じゃあなんか用か?」
「ユウっているか? ボロの刀を持ってる」
「あの落ちこぼれの客かよ。まあいいや、少し待ってな。クランの伝言板に書き込んでおいてやる」
男はメニュー画面を開き、クラン専用の掲示板に移ってから何かを打ち込み始めた。事前に待ち合わせの約束をしていたが、恐らく準備が間に合っていないのだろうと勝手に予想した。男が打ち込んでいる間、もう一人の女が興味津々に話しかけてきた。
「ねぇねぇ君、そんなオンボロの服着てさ、なんかになりきってんの?」
「え、ああ、違うよ。いつも街で商人をやってるから、無駄な装備は重いだけなんだ」
「なーんだ。ユウ君もさ、あれってなりきってると思う?」
「あれのどこにロールプレイ要素があるんだよ」
女は楽しげに足をバタバタさせながら、声色を高くした。
「えぇー! 全然あるよ! 今は実力を隠してるけど、本気を出せば最強クラス、そしてあのボロ刀は伝説の武器でした……ってな具合よ」
「はは、ユウには悪いけど、ないない」
「何が僕に悪いの?」
声のする背後に振り返ると、門番の二人と同じような紺色の鎧を着込んだユウが、首を傾げながらアキと女を交互に見つめている。その背中には、相変わらず長い大太刀が備えてある。門番の男が苛立った様子で、ユウを睨みつけた。
「おい落ちこぼれぇ! 俺に手間取らせんなよ!」
「あ、ああ、ごめんなさいミスガルドさん。さ、アキ行こう行こう」
ユウは頭を何度も下げながら、天馬騎士団の本拠地を後にした。アキはそれを気にしつつも、街中に設置してあるベンチに座り、ユウとイベントに関しての話をし始める。
「なあ、イベントについてなんか知らないか?」
「んー、確かに異色のイベントではあるよね。でも『竜狩りの秘宝』みたいな突拍子もないイベントも、エタニティオンラインの醍醐味なんじゃないかな」
「それは俺も考えた。でも、今回はなんだか方針自体が違う気がするんだよ」
「でも、イベントは開催されてるし、実際多くのプレイヤーが積極的に参加してるんだ。確かに、闘技場はあまり意味をなさなくなるけれど、たまには良いんじゃないかな」
「気にしすぎ、か……。天馬騎士団の中での噂とかは?」
ユウはメガネを上げつつ、メニュー画面を開いた。クランの掲示板を大雑把にスクロールしながら、口ごもった。
「あんまり信用してないんだけど……ちょっと気になる話があるんだ」
「どんな話だ?」
「普通はさ、プレイヤーが死んだ場合、復活薬とか使えるペナルティタイムを経てから、自分が設定した拠点に復活するよね。クエストのメンバーの場合は、クエストメンバーからは除外されずにさ」
「ああ。ログインした時に出てくる場所と同じだよな」
ユウは周囲にこちらの話を聞いているプレイヤーがいないことを確認してから、そっとアキの近くにその怪訝な顔を寄せた。
「このイベントが始まってから、どうやら復活してないみたいなんだ。クエストメンバーからも除外されてるって話だよ。今日の掲示板に、たまーに書き込まれてるんだけど、どうなんだろうね」




