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エタニティオンライン  作者: 足立韋護
日常
21/157

宣伝戦略

 一度に買い占めてしまえば値段もその分上がることを知っていたアキだったが、十倍もの値上がりは嬉しい誤算であった。しかしながら、ここで満足して店で待機するだけでは、恐らく繁盛の期待は出来ないだろう。

 人は人に集まるもので、客のいない店は評価されていない店であると判断する傾向がある。評価されていないということは、品揃えや値段などが客の要望に応えていない。つまりは他の店を探すという判断に繋がってしまう。逆に言ってしまえば、多くの客を呼び込むことができたなら、大いに売り上げが期待出来るということになる。

 もし、ここで出遅れてしまえば、極々僅かである他の薬屋に出し抜かれてしまう。冷静な判断で、確実に名を広める必要があった。


 次なる作戦を練りつつ、アキはひとまずオータムストアへと戻ることにした。未だにベルの姿はなかったが、店の中には仮面をつけた女性客が一人、薬の並べられた棚を眺めている。それを横目で確認しつつ、カウンターの奥にある木箱を数箱引っ張り出した。

 客の目もあったが、今はそれを気にしている暇はない。その木箱へと先程大量に購入した瓶型の回復薬と復活薬を種類別に詰め込んで行く。一つの箱に五十ほど入るので、復活薬は約四箱積み重なった。回復薬は敢えて五十個手元に残したので、ちょうど三箱重なる。


「あら、なに、面白いことしてるじゃない」


「エンジェル、今までに来た客の人数は?」


「珍しくもう三人。みーんな、回復薬やら復活薬やらを買っていくおかげで、売り上げ好調なのよ」


 思いの外、広まりが早いことをアキは悟った。一度メニュー画面を開いてから店舗設定の画面へと移り、回復薬と復活薬の値段を五カッパーほど上げた。その画面を閉じると、先程の仮面の客がアキへと近づいてきた。


「あの、あの……」


「あ、はい! いらっしゃいませー」


 ブロンドの長い髪を持つ、狐の仮面をした客は、大きなリュックを背負っていた。仮面の装備は、ボイスチェンジの機能を持っており、身分を隠したい時に使われている。PKの常習犯などで、顔や名前が広まっている場合によく使われるアイテムであるため、仮面のプレイヤーはあまり好まれない。キュータなどの行商人がよく持っている大きなリュックは、アイテムチェストに入りきらないアイテムを持つための工夫である。


「どうして、値上げしてしまうんですか……?」


「あー、行商の方ですか。ここだけの話、これから需要が高まる見通しなんですよ。恐らくこれでも安いと思えるほどのね」


「そ、そうなんですか……」


 その客はしばらく黙り込んでから、ちらちらとアキの様子を伺いつつ回復薬を一つだけ購入して出て行った。不思議な客だと思ったが、すぐにアキは次なる作戦を実行するべく店を後にした。裏道でスキルメニューを素早く表示し、表示されている中の二体のモンスターをタッチした。これで喚起の準備が完了する。


「『アイアンゴーレム』『サキュバス』喚起」


 手をかざした地面から、鈍い銀色に光る鎧で身を包んだ、アキの二倍はある大きさを誇るアイアンゴーレムが現れた。中は空洞のためか、闇に満たされている。その姿はさながら、怨霊の取り付いた騎士の鎧のようだ。続いて、股間部と豊満な胸部にのみ謎の黒い布を纏っている、妖艶な格好をした女が姿を現した。その背中には、悪魔を彷彿とさせる漆黒の羽根が折りたたまれている。その青黒い口紅を塗ってある唇が柔らかく動いた。


「アキちゃん、久しぶりねぇ?」


「ご無沙汰、二人とも。今回は、店を宣伝しつつ、一つあたり四十五カッパーで売ってもらいたいんだ。それもメインストリートを歩きながら」


「いつかの宿で頼まれた店番以来ね、そんな地味なこと。んー、ねぇん、そんなことより、お姉さんと遊ばなぁい?」


「遊ぼうとすれば、規約ギリギリの範囲で反撃されるだろ」


 サキュバスは身をよじらせながら口を尖らせた。


「だってぇ、誘惑するのが仕事なんだもん」


「その誘惑で、客引きして欲しいんだ。頼むよ」


 アキは、アイテムチェストの中にある大袋と書かれたアイテムを取り出した。巨大なアイアンゴーレムまでも包み込めそうなほどの大きさがある。その中に、先程買った、洒落た瓶に入っている回復薬を五十個ほど放り込み、アイアンゴーレムへと持たせた。サキュバスには、売り上げとお釣りを入れるための小さな麻袋を用意した。


「んー、でもこれって、このゴーレムちゃんが話せないから、いちいち私が声出さなくちゃいけないんでしょぉ? 手間よねぇ」


「そうは言われてもなあ……」


 暫しの間の後、サキュバスは手を叩いてアキへと美しく整った顔を向けてきた。喜びの表情から、何がしかの策を思いついたようだ。


「じゃあ、こうすれば良いんじゃなぁい?」


 サキュバスは胸の谷間に挟んであった青黒い口紅を取り出し、アイアンゴーレムのくすんだ銀色の鎧に、『満員御礼、売切御免!オータムストア、四十五カッパーで回復薬販売中!』と書き込んでいく。アイアンゴーレムはそれを、頭部を全て覆う兜で見守っている。


「ゴーレムちゃん、これ消したら承知しないわよん?」


 鎧に指を突きつけられたゴーレムは、サキュバスを格上と悟り、ゆっくりと首を縦に振る他なかった。

 モンスター二体をメインストリートで宣伝運動させている間、アキはひとまずユウに連絡をとり、会うことにした。

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