商人魂
オータムセキュリティでは、店番をしているNPCであるミールが仏頂面で出迎えてきた。口数の少ない、銀髪がトレードマークのミールは、冷めた眼差しでアキを見つめる。
「アキ、さん……」
「ミール、ここのすぐに用意出来る資産が何ゴールドか教えてくれないか」
ゆったりと帳簿をめくったミールは、ぼそりと微かに呟く。
「……二十八ゴールド」
「じゃあその二十ゴールドを今すぐ用意してくれ。なるべく早く!」
表情一つ変えないミールは、二階へと上がって行った。オータムセキュリティの店番を全てミールに任せる代わり、二階の部屋に住み込ませている。
少し待つと、ミールが金貨の入った麻袋を持ちながら、一階へと帰ってきた。麻袋にはそれほど多く入っているように見えない。星マークの入った十枚分の価値のある星金貨が二枚と、八枚の金貨が入っているのみなのだから、当然であった。
「……何に使うかは、聞かない。応援してる」
「ありがとうっ。たまには休んでも良いんだからな?」
「いい……。ここで、十分」
ミールは目を少し細めながら、カウンターの木目を指でなぞっている。
「わかった。じゃあまた!」
続いてアキが向かったのは、ライバル店であるはずのNPCが経営する薬の店であった。メインストリートを少し進んで行くとすぐに着いた。オータムストアの二階を削り取ったような内装の店であった。中に入ると、店主の禿げ上がった男が、アキがライバル店の店主であることを知ってか知らずか、快活に話しかけてきた。
「兄ちゃん兄ちゃん、薬どうだい?」
「景気良さそうだな」
「お、わかるかい? なんでかは知らねえが、今日は妙に売れ行きが良いのよー」
「そうなんだ。例えば……何が売れてる?」
「そうさなぁー……最大HPの三割を回復する回復薬、それにMPを一定量回復する精霊の水。あとはー……お前さん、死亡後から拠点に復活するまでのペナルティ時間があんのは知ってっか? ペナルティ時間である五分間のところで死んだ奴に使えば、たちまちHPの半分まで生き返っちまう復活薬! ま、この辺りが売れ筋かねえ」
やっぱりか。このバトルキャンペーンは今現在、それも盛んに行われているみたいだ。多くのプレイヤーが戦闘を行えば、その分アイテムの消費も激しくなるはず。そうとなれば、絶対にアイテムの需要は必ず高まる。
エタオンのNPCの商売は至って単純だ。需要が高まり、供給が減れば、値段は際限なく自動的につり上がって行く。逆に供給過多になってしまえば、値段は下がって行く。しかし今はまだ、このライバル店の値段は俺の店と同じ。それじゃ、ベルやエンジェルの努力は水の泡だ。だけど、打開策がないわけじゃない。
「じゃあ、買うよ」
「何をいくつ買うんだい?」
「とりあえず回復薬を二百」
「にひゃ、に、に、二百ぅぅ〜!?」
店主は目を回しながらその場に倒れた。すぐに正気を取り戻したのか立ち上がると、その表情は怪訝なものとなっていた。
「冷やかしならやめてくんな」
「冷やかしだったら、こんなもの用意しないだろ」
アキはおもむろに、手に持っていた麻袋から金貨をカウンターに並べた。その金貨を目の当たりにして、店主の視線は商売人のそれに変化した。
「……他にいるもんは?」
「まずは回復薬二百個を計算してくれ。その後、残額を復活薬に全てつぎ込む」
俺の知識がアップデートによって覆されてないなら、NPCの経営する店は、基本的に在庫は無限。会計後に売れた商品の量や頻度を計算して、値段の上げ下げを行うはずなんだ。三十分から一時間の間、客が来なければまたいずれ下がる。客はつり上がった値段を見て、もっと安い店を探すはず。その時、上手く俺の店に誘導できれば、品物が売れることは容易に想像出来る。元々この店で買ったものは、多少高く売れば問題はないな。
アキはテーブルに用意される回復薬をアイテムチェストへと入れていく。五百種類ものアイテムが入るアイテムチェストは、同種類のものがいくら手に入ろうとも満たされることはない。それもアキの考えの中にあった。
やがて膨大な量の回復薬と復活薬を購入したアキは一度店を出た。そして、こっそりと窓から店内を覗くと、予想通り値札が付け替えられていた。その額は、今までの値段の十倍にまで膨れ上がっており、ここまでの値上がりはアキですら見たことがなかった。




