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エタニティオンライン  作者: 足立韋護
日常
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エタニティオンライン

 夕食を食べ終わった暁影は、いそいそと自室へと戻って行った。その後ろ姿を見た京子はテーブルに肘をつき、顔を手に乗せ、深々とため息をついた。

 父が事故で死亡した光景を目の当たりにしてから、暁影は頻繁に部屋へこもるようになった。学校には登校しているものの、京子はその先々を心配していた。


「お気持ちをお察しします、キョーコ」


「ロボ太郎……」


「ジャクソンです」


「そうだっけ? まあいいわ」


 ぷいっと顔を背けた京子が机をパンッと軽快に叩くと、淡い緑の半透明の球体が浮かび上がってきた。球体を宙に浮かせたまま、ジジッと音を鳴らしながらそれを指でくるくると回し、ある位置をつつく。

 リビングの何もない空間へとその球体から光が当てられ、平面の映像がその空間に浮かび上がった。映像はニュース画面のようであった。


「まさかテレビとリモコンを一緒くたにしちゃう時代が来るとはねえ」


「キョーコ、ブラウン管の時代には、テレビにチャンネルが付属されていました」


「そんな太古の話なんざ知ったこっちゃないわよ。しっかし便利よねえこれ。原理は知らないけど」


「では解説しましょう。入出力複合式超音波ホログラムとは、空気と電磁の揺れに反応することが大前提として作られ、その入出力複合の過程には様々な────」


「あーもう、わかったわかった。私はね、科学者じゃないの。どちらかといえば芸術家なのよ。だから便利なものが出れば使うし、原理がわからなくても納得するの。オーケー?」


 一人と一台が会話している最中も、ニュースの音声は球体から垂れ流されている。球体はスピーカーの役割も担っていた。


 SMP内装デザイナーの第一人者である真田京子はこうやってニュースをラジオ代わりにしながら仕事をすると、無音時より捗るというジンクスを持っていた。しかし科学技術が発展し、様々な分野で確実性が求められてきた今の世ではジンクスという言葉は死語でしかない。


『では、最近噂になっているという西倉先生の理論、精神転送による不死の実現というのは────』


「あーあ、さてお母さんも仕事しますか。ロボ助、食器と残飯の後片付けお願いねー」


「ジャクソンですよ、キョーコ」


 その頃、暁影は自らのベッドに座っていた。『エタニティオンライン』をプレイするために直径四メートルはある、この半ドーム型カプセル、通称『エタカプ』は脳に負荷がかかるため、一日に三度以上のログインは出来ないよう設定されていた。


 現在の時刻は午後九時半。今日はもうトイレと夕飯で二度ログアウトしてる。一日のカウントは十二時ちょうどに行われる。今から始めて十二時過ぎにログアウトすると……はぁ、明日のログアウト分が一度減るんだよなぁ。


 しかし暁影はどちらにせよ自分がログインすることをわかっていた。今やらずしていつやる、とエタカプに乗り込む。中では両手足と頭がアーチ状のもので優しく固定され、首の裏に埋め込まれている数センチの電子チップに何かが接続された感触があった。


 その瞬間、意識が落ちていくような感覚に襲われる。これがログインした証であった。この独特の感覚から、一部ではダイブインとも呼ばれているようだ。


────落下する感覚がいつの間に消えたかと思うと、自分が目を閉じていたことに気がついた。


 ゆっくりと瞼を開いていく。木製の部屋の中。窓の向こうからまさにファンタジーの代名詞ともいえる大自然に恵まれた大地が視界に飛び込んできた。


 隆々とした山々に、風になびく青い草木、遠方には森や林も見え、その中に開けた栄養の豊かな大地もある。その手前には大小さまざまな家々が壁の中に立ち並んでいた。

 暁影にはその世界がどうしようもなく輝いて見えた。


 これを待ってた……!

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