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エタニティオンライン  作者: 足立韋護
深淵
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大罪

 地下都市の建物はダークネスドラゴンだけが壊すことができた。市街戦になり戦力が分断されると、指示が届かなくなることや支援役である後衛職の配分が偏ることが予想された。

 そのため蒼龍月華は初めのうち、ダークネスドラゴンの攻撃を誘い戦場を整えることから始めた。


 ある程度、戦場が整ったところで前衛職が前列、ダメージを受けたメンバーが中列、後衛職が後列になるよう三の字に陣形を取り、戦闘を開始した。

 しかし、ダークネスドラゴンのHPは今までのモンスターとは比にならないほど膨大で、いくら攻撃を食らわせようがビクともしない。それにもかかわらず、攻撃力が絶大で攻撃パターンも多く読みづらい。

 蒼龍月華の面々は、苦戦を強いられた。


「前衛職は攻撃を続けるんだ! 食らい過ぎたなら適当なタイミングで後衛職の元へ下がって! モンスターテイマー、スカウトは無理をせず距離をとりつつ確実に攻撃を当て続けてくれ!

 プリースト、エンチャンター、ウィザードは遠距離からスペルを絞り出して!」


 ハインは状況に応じて指示を出すため、声を張り上げ続けた。

 ダークネスドラゴンの周囲には前衛職であるファイター、ナイト、モンク、スカウト、そしてモンスターテイマーの喚起したモンスターが入り乱れる。


 ダークネスドラゴンとの戦いは数日間にも及んだ。日を跨ぎ、一度撤退しても減らしたHPは変わらないというのは、今までのイベントで既に知れ渡っていたことだった。

 ちょうど学生にとっては夏休みの時期であったため、中高大学生を中心に暇な時間を見つけてはダークネスドラゴンへと戦いを挑んだ。


 『竜狩りの秘宝』終了まで残り一日。

 ダークネスドラゴンのあまりの強さに根負けし、直前の迷宮で狩りを始めるクランが目立ち始めた。モンスターは頻繁にリスポーンし、更には経験値も高いことから、良い狩場として攻略サイトで紹介されたためだった。

 狩場で安定した経験値を稼ぐか。それともいつ倒せるかもわからないドラゴンと戦い続けるか。蒼龍月華は選択を迫られていた。


「もう無理だ! 俺達も狩りに専念しよう!」


 戦闘中にもかかわらず、ヒーラーに回復されながら幹部の一人がそう声を荒げる。それを機に続々と狩りを望む声が上がった。

 ダークネスドラゴンはいまだに倒れるどころか怯むことすらない。アキにもハンスにも、根を上げたくなる理由は痛いほどに理解できた。

 ハンスはそれでも首を横に振る。


「冷静に考えてみてほしい。俺達は実力者の集まる上位のギルドだよ。イベントに備えて戦力をここまで増強した。そこまでして倒せない敵を、運営が作ると思うか?」


「私もハンスに賛成だ。それに、ここで諦めてはロマンがあるまい」


 軽装のテンマは槍を担ぎ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。「ま、そういうことだ!」、とハンスも豪快に笑ってみせる。


 ダークネスドラゴンを前にしてここまで余裕を見せたハンスやテンマにもはや反論する者はいなかった。

 仲間への信頼を胸に、最後の一日、クランメンバーは全身全霊をかけて戦い続けた。


 イベント終了まで残り半日となったところで、ダークネスドラゴンがようやく倒れこみ、体を捩らせ始めた。

 アキは握り拳を作り勝利を確信する。しかしそれも束の間、すぐさまダークネスドラゴンは起き上がり、けたたましく喚き散らしながら暴れ回った。口からは涎を垂れ流し、舌をだらしなく出している。

 無差別に暴れ回ったため、残っていた建物が倒壊し、周囲に薄茶の粉塵が舞い上がった。


 せっかくみんなの士気が上がったんだ。このまま押し切って、早くこんなイベント終わらせたい。

 多少の時間稼ぎにしかならないけど!


「当たれっ!『絶対服従の糸』」


 粉塵が舞って視界が悪い中、前衛職、後衛職合わせて数十のプレイヤーの合間を縫うようにして、アキはダークネスドラゴンへと糸を巻きつけた。

 モンスターに対しては数秒程度の拘束であったがクランメンバー達はその隙を見逃さずに、攻撃を加えようと接近する。しかし、ダークネスドラゴンの異常に気がつき、立ち止まった。


 その場に倒れこんだダークネスドラゴンは、最期の遠吠えを地下都市中に響かせながら息絶えた。


「やったのか……!」


 ハインがダークネスドラゴンへと近づいていく。瞳を閉じ、息をしている様子もない。次第にダークネスドラゴンの体が光る塵と化していった。

 その瞬間、クランメンバー達の歓声がこだました。粉塵によって視界が悪く、顔すらまともに判別がつかない中、喜びで抱きしめ合う者もいた。


「おい! ドロップアイテムは!?」


 突然誰かがそう叫んだ。例えイベント報酬があるとしても、それとは別にモンスターを倒した際のドロップアイテムが出現する。

 それは公式にも発表されていることだったが、光る塵の跡にはドロップアイテムなど一つもなく、その代わりに光球がひとつ浮かび上がっていた。

 それはメンバーの最後尾にいたアキのほうへと浮遊していき、その体の中へと入っていった。


 皆がアキのほうへ視線を向ける。皆の表情は粉塵に遮られて確認できない。だがそれが、良しとしている視線でないことだけは明らかだった。

 アキは体を震わせ、ゆっくりと左手で顔を覆ながら、スキルメニューを確認する。モンスターの枠の中に、先程まで死力を尽くして戦っていたドラゴンがその中に入っている。


 アキは右手でメニュー画面を操作し『ログアウト』を押し込んだ。


 現実世界へと帰ったアキは、冷や汗をどっぷりとかいていた。額に手を当てエタカプの中でしばらく茫然とする。

 頭は徐々に冷静になり、このままではクランメンバーのリストと照らし合わされ、いずれ割り出されると思い、焦りつつも再びログインした。

 ディザイアの門に降り立ったアキは、震える手を抑えながら『クラン脱退』をなんとか押した。


「お、俺、俺はなんてことを……!」


 アキは俯きながらその場に立ち尽くした。

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