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☆☆☆
「ところで直紀って好きな人いるの?」
全くの不意打ちだった。
お前だよ。
そうは思ったが、とりあえずは濁しておく。
「…いると思う?」
「わかんないから聞いてんじゃん」
そしてしばらくの沈黙が流れた後「ただね」と佳奈が続けた。
「いたらショックだなぁ、って思っただけ」
俺は驚いて佳奈を見た。
佳奈もしばらくして、「あ…」と口を塞ぐ。
「あ、ごめん。今のはただの酔っぱらいの戯言として…」
全部は言わせなかった。
その時間は、とても長い時間のように思えた。
「明日の朝になってお前が忘れてたら、ただの酔っぱらいの戯言と認識しとく」
佳奈はこっくり頷いた。
恥ずかしくなって、佳奈の顔は見れなかった。
その日は二人ともすぐに布団へ行った。
ただ、明日の朝になって佳奈がこのことを忘れていませんようにと願わずにはいられなかった。