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「大変だな、佳奈も」
「そう、最近は仕事よりこっちの方がやっかいだなとか思い始めてきた」
「そんなにか!…仕事は楽しいの?」
「うん。いい人たちばっかじゃないけど、楽しいよ。いろんな人がいて」
「そっか、ならよかった」
佳奈は床に座ってあぐらをかいた。
「そういえば、小説の方はどう?」
「うん、コンクールにはださないけど書いてるやつが一つ」
「ジャンルは?」
「恋愛」
「うっわ、直樹でも恋愛書くんだ」
「ちょっと書いてみようかな、とか思った。」
「じゃあ、書けたらまた読ましてね」
佳奈は立ち上がってまた冷蔵庫からビールを出してきた。佳奈はいつも小説のことはついでのように聞いていく。でも、俺がコンクールで落ちた時は精一杯慰めてくれる。二十歳も過ぎた男が幼馴染の女に慰められるなんてすごく情けない光景だが、人は見ていないので別に気にしない。それよりも、
そっけないふりをしていても気にかけてくれている佳奈にただただありがとうという言葉しかでてこない。それが好きな人とくれば、なおさらである。
「大丈夫?二本も飲んで」
佳奈もあまり…てか、全く酒に強くないので一応言っておく。
「大丈夫、大丈夫。明日は土曜日だし、ここは直紀以外いないからどうなっても大丈夫」
そう言って佳奈はまたぐびぐびと勢いよく喉に流し込んでいく。そろそろ酔ってきたのか耳まで真っ赤だし、目がとろんとしている。