俺が中学生だったころ
side A
中学生のとき―――
「今日はみらいマップを書くぞー!」
そう言って先生は四角がたくさん書いてあって、すごろくのような紙を配りだした。
「そこにたくさんマスがあるだろう?そこに、将来の自分を想像していろいろと書くんだ」
例えば、と先生が黒板に四角をたくさん書いて、それを埋めていく。
ゴールと書いてあるところに“生徒みんなから好かれる先生になって退職”と書いてある。
「こんなふうに、一番最後のゴールって書いてあるところには自分の将来の夢を書いて、そこに行くまでにどんなことがあるか想像して書いてみて」
先生の言葉を聞き終わらないうちに俺はもうゴールのますを埋めていた。
「へぇ、直紀って作家になりたいの?」
隣の席に座っていた女子が顔を伸ばしてきた。
俺が返事をする前に、そのとき後ろに座っていた幼馴染の佳奈が返事をした。
「そうだよー。直紀ね、すっごい面白い小説書くんだよ」
「へぇ、佳奈は読んだことあるんだ」
自分で書いたものは誰にも見せていない――佳奈以外は。
佳奈も、どうしても俺の小説が読みたいと粘り強く迫ってきたので仕方なくという感じだった。
最初の頃は。最近は感想などももらうようになって、佳奈が読んでくれていることをありがたく思う。
「おっ、居山は早いな。もう少しでできるな」
周囲の人達の会話に耳も貸さず、ただ黙々とマスを埋めていった。
「…できた…」
すると、再び周りの友達が覗き込んできたので慌てて両手で紙を隠した。
「えー、いいじゃん見せてよー。参考に」
そう言ってきた隣の女子の未来マップをみてみると、まだゴールのマスしか埋まっていなかった。
それでも、見せるつもりはない。
「絶対に見せない」
「直紀はこういうともう何をしても見せてくれないから、あきらめた方がいいよ~」
佳奈が味方してくれる。
「じゃあ、無理やり奪い取ってやれ!」
「そんなことしたら、直紀怖いよ~」
「佳奈、経験あるの?」
「一回だけ。直紀に「絶対見ちゃダメ」って言われたやつをこっそり見てたのが見つかってね。
…あ~れは怖かったよ。マジで死ぬかと思った。」
…ひどい言われようだ。
「それで、何されたの?」
「何されたって訳でもないんだけど…。次見たら殴るよって、人なんか平気で殺してしまいそうな目で言うんだもん」
「それだけ?」
佳奈はわざとらしくためいきをついた。
「そのときの直紀がどれだけ怖かったか知らないからそんなこと言えるのね」
そこへ、他のところをまわっていた先生が戻ってきた。
「何の話?」
佳奈が答えた。
「直紀の恐ろしさについてでーす」
「居山がそんなに恐ろしくなるときがあるのか?」
「めったにないです。…てか、悪い事さえしなければ全く」
「まぁ、居山と一番付き合いが長いのはお前だしな」
通っていた小学校は、僕たち六年生はわずか十人。そのうち三人は見事私立の中高一貫校に合格していった。この中学校も一年は六十二人しかいないので三クラスにこの七人を振り分けると一クラスにニ、三人しか同じ出身校の人がいない。
「俺だっておこるよ、たまには。…そういえば、佳奈に八つ当たりしたこともあったなぁ」
「あ~、あったねぇ、そんなことも。あれも恐ろしかったなぁ。世界で一番怖いお化け屋敷に入るよりも怖かったかもしれない」
そのとき、隣の女子が口を開いた。
「さすが幼馴染、一緒の思い出が多いね」
「確かになー」
斜め前の男子が便乗する。
そこで先生が「はいはい、お前らまだゴールしか書いてないだろ。早く書け」と軌道修正してくれた。
改めて自分の書いたものを見てみると、なんだこの素晴らしい人生はと顔をしかめた。
第一志望校合格→中学卒業→小説をコンクールに出す(高ニ)→入選→本になって細々と収入が入る→収入が途絶える(高三)→第一志望校合格→高校卒業→小説をたくさん書く→就職先が出版社に決まる→大学卒業→『ゴール』二十五歳、コンクールで大賞をとってそれからずっと書いて食っていけるようになる。