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桂の本音

(この状況は、一体何なのだ!)


 それが、桂の素直な本音だった。


 当然の反応ではある。昨日、いきなり持ちこまれた縁談の話。それを了承し、いつでも来ていいと言ったのは確かに桂だ。

 嫁いでくる祓い屋が、そのうち暗殺を仕掛けてくる可能性はもちろん考慮していた。色仕掛けなどで桂を籠絡しようとしてくる可能性も、三大妖怪の一角である桂の監視の可能性も、妖怪に嫁がされる怒りで世話係に暴力を振るう可能性も考えていた。


(だが、流石にこれは想像つくわけないだろ!)


 妖怪に嫁がされる祓い屋がいきなり襲ってきて、さらに処断しろ、と言い出すとはさすがの桂にも想像つかなかった。予想外というよりは、規格外というべき人間。


 今も香澄はキラキラと目を輝かせ、桂が自分を処断するのを待っている。

 桂はどうするべきか頭を悩ませた。そもそも桂は香澄が暗殺を仕掛けてきただけで、彼女を殺すという選択肢は取らない。暗殺、までは桂の頭にもあったからだ。


 というか、嫁いできた祓い人を殺すのはまずい。初日なら尚更である。


 人間と妖怪の仲を取り持つ縁談なのに、初日で妖怪が人間を殺したとなれば、祓い屋達に戦争の口実を与えてしまう。

 桂も不毛な争いを終わらせたいという思いがあったから、この縁談を受けたのだ。それを自分の手で壊す選択を取る愚行を犯す気はなかった。


(この女は、そこまで考えているのだろうか……)


 多分、考えていないのだろう。期待を込めて桂を見る香澄が、そんなことを考えているようには到底見えず、桂の頭痛がさらに酷くなる。

 とりあえずこの状況をどうするべきか。痛む頭で考えた結果、桂は「細かい話は中でするとしよう。早く中に入れ」と暗殺のことをスルーし、先程の続きを始めた。


 桂の言葉に香澄も蘭も驚く。蘭はこの人を家に入れてもいいの、という驚き。そして香澄は処断しないの、という悲しみも内包した驚きだ。

 向けられる視線に込められた本音に桂も気づいていた。気づいていて知らないフリをする。


(この女、香澄の事情を知らないことには、今の暗殺の件を判断することも出来ないからな。まずは話を聞かねば)


 この暗殺未遂事件――いや、人目がある以上暗殺ではなく傷害に当たるのかもしれないが、ともかく今回の件が香澄の意思なのかを確認しなければ。もしかしたら脅され、殺されて戦争の火種になってこいと命令された哀れな少女なのかもしれない。


(……いや、これが彼女の意思にしろ、そうでないにしろ、哀れなのは変わらない。俺のような妖怪に嫁がされるなど、哀れ以外の何があるという)


 香澄は倉橋家の外に出た。それ即ち、倉橋家を継ぐ資格が失われたということだ。万が一、桂との間に子供が生まれたとして、その子供にも倉橋家の継承権は与えられない。理由も桂という妖怪のせいだ。


 哀れで可哀想な女には変わりない。だから知らなければ、と桂は改めて香澄を見据えた――と同時にまた短刀の刃が迫ってきていたので、とりあえず刃を受け止めて、反対の手で彼女の首に手刀を打ち込み気絶させた。


 糸の切れた人形のように地面に倒れ込む体を支えてから、桂はまた空を仰ぐ。


(本当に哀れな女なのか!? この女は!!)


 もっともである。

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