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「──AH-64D(アパッチ)が現場上空を離れました。陸自部隊の戦闘行動も、ほぼ終息したみたいですね」

「………………」

 電子システム戦担当の眼鏡の青年が、モニターから振り返って城島に告げた。

「結局、あれだけの大騒ぎの中、無傷で現場から離脱かよ。相変わらず、チート過ぎんだろ、あの人」

 唸るように岩代が率直な感想を洩らす。

 アジト内の一室に城島と岩代、それと眼鏡だけが集まって、今夜の騒動の一部始終をモニターしていた。

「どう見る?」

 画面上の武藤の映像を眺めながら、城島は訊ねた。

「どうって……」

 訊かれたふたりはいったん顔を見合わせ、先に眼鏡が口を開いた。

「全般的に、状況の変化に対する適応能力が極めて高いです。必要な情報をオンタイムで入手して共有できているだけでなく、戦術アプリの類まで、その場の状況に合わせて組みなおしている節がある。よほど分厚い支援(バックアップ)チームが背後に控えているのか、それこそ魔術師(ウィザード)級のチートなハッカーが仕切ってるのか……。

 だいたい、現場の支援しながら、こっちにも探り入れてきてますしね。油断も隙もないですよ」

「ここは大丈夫なのかよ?」

「さすがにそこまで間抜けじゃない」眼鏡が、むっと顔を顰める。

「ただ、こっちが『見てる』のは感づかれてる。ネット上でこちらが仕込んだサイト群にも、即攻で喰いついてきてるし、並みのハッカーなら引っかかりそうなトラップも全部見抜かれて回避されてる。こっちの撤退(カットアウト)がもうちょっと遅かったら、危ないところだったかもしれない」

「お前がそこまで言うとはね」

 驚く岩代に、城島が無言で発言を促す。

「身体能力はばらばらですが、それを前提に、それなりに有機的に機能してます。練度とか経験値と言うより、ハードウェア──さっきの話じゃないですけど、通信機能や情報処理能力でカバーしてるように感じました。そこを潰せば、付け入る隙は出てきそうですが……」

「今回、連中、どうやって連絡取ってたのか、って話だよなぁ。携帯キャリアの回線は早い段階で潰されてたみたいだけど、平気で動き廻ってたし。連中の組織規模が内通者(ディープスロート)の話どおりなら、自前の通信インフラを持ってるとも思えない」

「おそらく、陸自の通信インフラを利用したんだろう。立場的に警察の通信インフラは利用が難しいはずだ」

 城島が指摘する。

「とすると、そこは手を出すのは難しいかな。まぁ、EMP爆弾でも仕掛けて、その場にいる連中の電子機器だけでも潰すって手もあるけど」

「それだと、こっちの機材まで捲き添え喰うらっちまうだろ」

「そこはやり方しだいってことで」

「じゃあ、そいつは任せる」岩代はそれ以上深入りせず、話題を転じた。

「ただ、引っかかるのが、この女の存在です」

 画面上の由加里の映像を指差す。

「何が問題なの?」

「自分を捕まえたのはこの女ですが、基本、素人です。練兵場(ブートキャンプ)を出たての新兵と大差ない」

「そいつに捕まった人間が言っても、説得力ないぜ」

「うるさい。あの時は、油断してたんだよ。武藤さんの存在に気を取られてたしな。実際に今夜の戦闘を見ていても、こいつは明らかにワンテンポ反応が遅いだろうが」

<グランドスラム>経由で入手した、通信飛行船(コムシップ)からの対地監視動画を、岩代が再生させる。

「何で、こんな女を武藤さんが連れて歩いてるのか、わけが判らない。新人(ルーキー)ってことを差し引いても、武藤さんと一緒に動くにはもっと訓練と経験値が必要なはずだ。現に付いてゆくだけでやっとで、むしろ武藤さんの足を引っ張ってる」

「本当、あの人のこととなると、目の色が変わるよな。チートな無双キャラの足を引っ張ってくれるってんなら、ハンデになってちょうどいいじゃないの」

「それが変だ、って話をしてるんだよ」話の通じなさに、苛立ちを隠さずに岩代が言った。

「しかもその女が、一瞬だけ、武藤さん並の動きをしている」

「どこ?」

「武藤さんが5人抜きをやった直後だ」

「ああ、ここ?」

 眼鏡がその場面の動画を再生する。由加里が敵の接近を察知して、発砲した場面だ。

「そうだ、ここだ。視線より先に銃口を向けて、姿勢を崩している。表層意識より先に、身体が反応しているんだ。そのまま、倒れながら発砲して、全弾命中させてる」

「そんなに凄いの、これ?」

「敵の位置をよく見ろ。敵が路地の角から飛び出す前、姿が見えるはずもない時点から、この女の身体は反応している。頭がそちらに向くのは、銃口を敵を向けた後からだ」

「足音とか、気配を察した、とか?」

「敵も素人じゃないぜ。奇襲を掛けるつもりで、隠密接近(ストーキング)で近づいている動きだ。そうそう簡単に気づかれたりしないだろう」

「……どういうこと?」

 モニターから顔を上げる眼鏡に、岩代は難しい表情で言った。

観想術(イメージング)──武藤さんが得意としていた戦い方だ。わずかな情報を元に、敵の配置や動きを正確に想定するんだ。訓練ならともかく、実戦で、それも部隊単位で運動する敵を相手にそれをやってのける奴なんて、武藤さん以外に俺も見たことがないが……」

「じゃあ、武藤さんの秘蔵の一番弟子ってことか。それならそれで、あの場にいる理由にはなるわけだけど……?」

「判らん。今夜一晩を通して、あの女がその資質を示したのは、この一瞬だけだ。後はずっと武藤さんの足を引っ張り続けるただの素人だ。この女、いったい何者だ……?」

「もういい」

 城島は話題を打ち切った。

「岩代、任務に戻れ」

「はぁ……」

 まだ納得しきってない表情のまま、岩城が部屋から出てゆく。それを見届けてから、城島は眼鏡に命じた。

「今夜のデータを取りまとめて、クライアントに送れ」

「いいですけど……こんなもの、どうしようってんですかね?」

「さあな。何か、連中の興味を引くものが映ってるのかもしれんが、我々には関係ない。我々にとっては、いい偵察になった──今夜はそれで充分だ」

「そりゃまぁ、そうですが」

 そう答えはしたものの、まだ釈然としない表情のまま、眼鏡が端末上の作業に戻る。

「………………」

 城島は無言で画面上の武藤の映像を見詰め、やがて背を向けて部屋を出た。

陸自対テロ特殊部隊による掃討作戦で駆逐されてゆく、日本人傭兵部隊。

浅田の必死の指揮にも関わらず、容赦なく部隊は殲滅されてゆく──


そんなわけで、今回の連載分、いわゆる「渋谷騒乱編」の最終回です。

全体構成でいくと折り返し地点、第2部までがこれで完了したことになります。

……ここまで4年がかりかぁ。本当に作中の2020年までに完結できるんでしょうか(弱気)。


次は起承転結の「転」の章──少しトーンを変えてゆきます。

……いや、というか、そろそろちゃんと「事件の捜査」をしないと、話がさっぱり先に進まないというorz

一応「刑事もの」なので、面白いからといってすぐに「戦争」ばっかりやってちゃいかんですよ。<誰に言ってるんだw

そんなわけで、また少しお時間をいただいて、ある程度まとまりましたら順次発表とさせていただきます。


次は来年春かまた夏くらいかな。

おかげさまで今回の連載では、PV数を多くいただくこととなりました。

しばらく連載はお休みですが、感想とかイラストとかはいつでも大歓迎ですので、是非お待ちしております。

またツイッター(@yoshitada_n)では、執筆状況や映画の感想などもちょこちょこ書いておりますので、こちらもフォローいただければ、幸いです。


では、次回連載でお会いしましょう。

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