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向島署を占拠する傭兵たちに殴り込みをかける武藤と由加里。

そして、凄絶な銃撃戦が開始される……。

次回は……遂に武藤たちの前に姿を現した城島との対決です。


次回は3月6日(日)深夜零時の更新を予定しています。

よろしくお願いします。


では、ごゆるりとお楽しみください。

「待たせたな」

「遅いよ、お前ら」

 一階医務室に兵士達が辿り着いたとき、岩代はベッドに腰掛けて彼等の到着を待っていた。足下には医務官と監視の警官の屍体が転がっている。外の騒ぎに気を取られた隙を突き、近接格闘術(C Q B)で襲いかかって殺害したのだ。

「下手を打ったのはそっちの方だろうが。こっちは短時間でいろいろ仕込みを済ます羽目になって、大騒ぎだったんだぜ」

「バカ、その辺の警官相手にやられるほど、こっちも抜けちゃいねえ。報告書にあった例の秘密部隊に、灰色鷹(グレイホーク)──武藤さんいたんだよ」

「武藤さんが? まさか。そんな情報は……」

「そのまさかだ。この指も武藤さんにやられた。おい、もしかすると、俺達はあの女に嵌められ──」

 言い終えるより前に、医務室の外から烈しい破裂音(スネア)と叩き付けるような銃声(ビート)が聴こえてきた。

「来たか」岩代は舌打ちして言った。

「早くボスに伝えろ。とっとと引き上げないと、無駄に損害が増えるぞ」



 タボールAR21に装着された擲弾発射器グレネード・ランチャーから、武藤は階下の敵兵目掛けて、奪ったグレネード弾を三発立て続けに撃ち込んだ。スチール製のデスクやロッカーで組み上げられた急拵えのバリケードが紙細工のように吹っ飛ぶ。その爆風が()むよりも早く、武藤は由加里を引き連れて吶喊(とっかん)する。

 グレネード弾から撒き散らされる金属スラグを間近で浴びても、優れた防弾装備に防がれて装備の下の身体には傷ひとつ付かない──勿論、そうと判っていても、さすがに普通は臆するものだが、武藤の行動にはみじんも躊躇する素振りがなかった。人間として云々というより以前に、生き物として明かに重要な何事かが欠落しているのではないか、と思ったものの、由加里の側にも突っ込みを入れる余裕などない。

 一気に敵の内懐に飛び込んだふたりは、至近距離でタボールAR21を乱射しながら、どさくさに紛れて発煙筒を床に放り出した。たちまち辺りを白煙が覆いつくす。武藤が交通課に立ち寄った際に「何となく」くすねてきた代物である。どこまでも手癖の悪い上司だった。

 無論、敵も素人ではない。犠牲をひとりに留めて、撃ちまくりながら即座に通路を後退。距離を取るや、手早く火力を束ねて反撃してくる。

 殴り込みの強襲で得られた主導権(イニシアティヴ)が数十秒と持たずに失われたことを悟るや、武藤は即座に意識を切り替える。

「潮っ!」

 腰溜めの姿勢でタボールAR21を必死に連射している由加里が、気付く様子はない。敵から奪ったノイズキャンセラーを使っているので聞こえているはずだが、そもそもその余裕が無いのだろう。武藤は小さく舌打ちすると、由加里の襟首を引っ掴む。

「な、警部?」

 驚く由加里を無視して最寄のドアを蹴り開けると、由加里もろとも室内に飛び込んだ。

 明かりのないオフィスには、整然とスチールデスクが並び、その上にパソコンや資料類が思い思いに積まれていた。庶務か事務系の部署のオフィスらしい。

「潮、消火器!」

「あ、はい!」

 あらかじめ打ち合わせた通り、慌てて立ち上がった由加里が部屋の隅にある防災設備のコーナーに駆け寄った。

 武藤が飛び込んだのとは反対側のドアが蹴り開けられ、腰を屈めた兵士達が突入してくる。

「警部!」

 叫びながら由加里が小型の粉末消火器を放り投げる。宙を舞う消火器に武藤が発砲──赤いタンク部の一部に穴が開き、そこから白い消火剤を噴出させながら、消火器がえぐり込むようにスピンしつつ、兵士達の下へと突っ込んでゆく。

 鈍器が肉に叩きつけられる嫌な音とともに、噴き出し続ける消火剤の粉末が周囲を白く覆う。

 思わず身体を起こして身を曝してしまった兵士に、武藤が容赦なく銃撃を加えた。消火剤の白煙の向こうでのけ反って倒れる兵士のシルエットが見えた。

 直後に、後続の兵士が戸口からこちらに銃撃を加えてくる。射線上の遮蔽物をはじき飛ばしながら、ライフル弾が襲いかかる。だが、こちらを狙っているというより、頭を上げさせないための銃撃らしく、机の上すれすれの高さで左右に弾を散らしながら発砲している。

 となれば、次は──

 ノイズキャンセラー越しに耳を澄ませると、ごそごそと床を擦る音が聴こえてくる。床を這って、兵士達が近づこうとしているのだ。

 話しかければ声が届く距離から撃ち込まれる銃撃。そこから更に、こうして這い寄ってまで自分達を殺そうと向かってくる殺意の存在に、由加里は吐き気すら覚えた。自動小銃やグレネード弾などの強力な武器を使いながら、あまりにも彼我の距離が近すぎる。距離の短さが状況の推移を加速させ、神経をきりきりと責め苛む。防弾ベストやノイズキャンセラーといった装備品の機能向上が、現代戦にこうした異常な事態をもたらしていた。

 武藤はタボールAR21の弾倉(マガジン)を手早く交換すると、傍らの由加里に声を掛ける。

「潮、行くぞ!」

「はい!」

 蒼褪めた表情で、由加里は肯いた。

 肯いて、自ら飛び込んでゆく以外、この期に及んで他に選択肢はなかった。



岩代(フォックス・リーダー)の身柄を確保しました。それと、敵に灰色鷹(グレイホーク)が──」

「聴こえている」城島は部下の報告に肯いた。

「懐かしいな。発砲のリズムで判る。銃声からすると、こちらから奪った銃を使っているようだな。得意の接近戦(インファイト)に持ち込んだはいいが、腰が引けているのは何故だ? 残弾を気にしている所為か、一緒に組んだ兵のレベルに合わせてるのか……。

 まあいい。RPGは後、何発残っている?」

「二発です」

「いいだろう。分隊支援火器(S A W)班も一班、一緒についてこい。他の者は撤収を急げ。

 さぁ、我が盟友との二年ぶりのご対面だぞ」

 そう言って、城島は冷たく嗤った。



 由加里と武藤は、机ひとつ隔てた距離で殴り合いにも似た激しい銃撃戦を敵と繰り広げていた。

 鋭い銃火(マズルフラッシュ)が引っ切りなしに閃き、まともに覗き込むと視力を潰されかねない。うかつに頭を上げれば、銃弾が飛んでくる。ノイズキャンセラーがなければ、彼我の銃声で耳もおかしくなっていただろう。

 おまけに口径が大きく初速も早いライフル弾には、個人の防弾装備など効果はない。ましてや、こんな至近距離で喰らえば、当たり所が悪ければ即死、良くても神経がショック症状を引き起こして半身が麻痺状態に陥りかねない。こんな状況下で半身麻痺など引き起こせば、確実に命はない──つまり、一発でも当たったらオシマイということだ。

 そんな強力なライフル弾が、薄皮を一枚づつ削ぐような精度で襲い掛かってくる。自身も無我夢中で銃を撃ちながら、由加里は気が変になりそうだった。

 一方、目の前の相手と撃ち合う内に、敵の一部が背後から廻り込もうとしていた。その動きを察した武藤が、器用に足で引っ掛けた回転椅子をそちらに蹴飛ばす。移動しようと机の間の通路を渡りかけた兵士に直撃し、体勢を崩したそこへ武藤が容赦なく銃撃を加える。

 だが、どれだけ犠牲を払っても、敵の攻勢は一向に緩む様子はない。ここまで敵に肉薄され、残弾も残り少ない。この期に及んで岩代奪還はまず無理としても、生きて脱出することさえかなり困難な状況になりつつあった。

 ほとんど背中合わせで銃を撃ちながら、由加里は叫んだ。

「警部! どうすんですか、これから!」

「うるせえ、黙ってろ! 今考えてる所だ!」

「今考えてる!?」由加里が愕然とした口調で繰り返す。

「何でそう行き当たりばったりなんですか!」

「状況なんざ現場の流れ次第でどうとでも変わる。前もってちまちま考えても始まらねえだろが!」

「だから、そーゆーのを、行き当たりばったりって言うんですよ!」デスクの陰から頭を出してこちらを覗き込もうとする敵にライフル弾を撃ち込みながら、怒鳴った。

「警部はいっつもそればっかじゃないですか! 付き合うこっちの身にもなってください! 皆が皆、警部みたいなデタラメな人生送ってるんじゃ、ないんですよ!」

「誰がデタラメだ!」

「元傭兵で刑事なんて設定、デタラメすぎてマンガですよマンガ! それも四コマ・マンガ誌の巻末手前に載ってる一番つまんないやつ。島流し刑事(デカ)のほうが、人情ネタが使えるだけよっぽどましです!」

「手前ぇ……」

 武藤が怒りで口許を引き攣らせる。どうも、由加里には戦闘下の異常な興奮状態に陥ると、口の悪さに加速度がついて止まらなくなる性癖があるようだった。……まぁ、普通にミニパトの婦警をやっていれば、死ぬまで気付く必要もない性癖のはずだったわけだが。

「もうヤダ、こんな職場! 絶対、辞めてやる、辞めてやる、辞めて──!?」

 遊庭が空の薬室を叩く音──またやった。残弾数を忘れて、撃ちすぎた。

 即座にそれを察知した敵兵が、距離を詰めようと身を乗り出す。

 予備の弾倉(マガジン)は? ──そんなものはない。元より武藤が二階通路で(たお)した敵から奪った分しかなかったのだ。短時間とは言え、烈しい銃撃戦の中ですべてを使い切ってしまった。

 拳銃。これも敵から奪った拳銃が腰に──これもダメ。両手でホールドしている自動小銃を放り出して、腰のホルスターから拳銃を抜き、親指で安全装置(セイフティー)を解除。その上で引き金を引き絞る、なんて複雑なアクションを積み重ねている余裕はない。その頃には、懐まで飛び込まれて、ライフル弾で穴だらけにされてるだろう。

 武藤に助けを──無理。武藤もまた、目の前の敵と気の抜けない銃撃戦の真っ最中だ。今度ばかりは部下の窮地を救う余裕は、多分、ない。

 どうする? どうすればいい? このまま殺されるのか?

 嫌だ、嫌だ、いやだ、いやだ、イヤダ、イヤダ──

 身に迫る絶対の窮地を前に高速に思考を巡らせながら、由加里の身体はそれとは一切関係なく、自動的に動いていた。

「こっち──」足元の分厚いバインダーの背を無意識に掴む。

「くんな、バカーっ!」

 下手投げ(アンダースロー)で力任せに投げつけられたバインダーは、敵兵の頭部に直撃。そのままひっくり返る。

「やるじゃねぇか」

 ほとんど始めてではないかと思われる武藤の称賛の言葉に、由加里はきっと睨みつけた。

「嬉しくないです、そんなとこ褒められても!」

 だが、武藤は取り合わずに言った。

「待て、敵の動きが妙だ」

「妙って……?」

 言われて見れば、敵の攻撃が()んでいる。それどころか、傷ついた仲間を引きずりながら、後方に引き上げようとしているかのようだった。

「助かった……?」

「バカ野郎、逆だ! ──伏せろ!」

 武藤が叫ぶや、凄まじい銃撃で周囲の備品やパソコンが吹き飛び始めた。

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