表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/32

19話「課外学習-②」

 あちらこちらが焦げついたり水浸しになっている道を暫く進むと、開けた場所に出た。辺り一面の芝は整えられ、さながら緑の絨毯だ。地面を剥き出しにした所には、キャンプ場にあるような石で組まれた()()()がある。

 少し離れた所には小綺麗なロッジもある。調理器具なんかはあそこか?

 他の生徒が見えないが、十中八九ここが目的地でいいだろう。


「デートは如何でしたか? おにーさん」


 耳のちょうど後ろのあたりで囁かれ、つい()()()()と膝の力が抜ける。片膝立ちの体で、なんとか倒れ込まずにすんだ。


 わざわざ言うのも野暮だが、軽口を叩いたのはヴェルデだった。


 先に着いていたはずの彼女が、いつの間にか背後に回っていた。凄まじいスピードと、驚嘆すべきウィスパーボイスだ。

 既に光速のエクレールを相手取った俺としては、後者の方が恐ろしい。


「あぁ、デートな。意外と楽しめたよ。エクレールが『何でもする』って言ってくれたしな」

「アレやっぱ有効なの!? ねぇちょっと!」


 ロッジから出てきたエクレールが抗議の声をあげる。その手には長机を抱えていた。どうやら先に到着して一人で準備を進めていたらしい。流石は優等生だな。

 いや、ヴェルデは俺に構わず手伝ってやれよ。それ以外にもまだ言うことがある。


「で、なんでこいつらは到着するなり疲れ切ってるんだ……?」


 敢えて触れていなかったが、芝生の上にフラムとシアンが倒れ込んでいた。二人とも息は荒く、かなり消耗し切っているらしい。


「負けたのよ……。アタシ達は負け組よ……」

憑彩衣ストラは勿論、妨害工作までしたのに手も足も出ないとは……」


 ボヤきの内容から推測するに、二人はヴェルデに先着を許したらしい。

 案の定、憑彩衣を使っていたのはいいとして、妨害工作……? こいつの言う騎士の誇りというのが疑わしくなってきた。

 まぁ実際の騎士も自弁(じべん)のせいで略奪行為もあったらしいから、さもありなん。


「つーかフラム負けたのか。お前に賭けた単勝と三連単がパァだぞ」

「やば。なかなか勝負師じゃん? ま、三連単ならウチ、シャル、シアンだったねー」


 勝ち誇るヴェルデ。賭けるには実力が未知数すぎて、俺からすると"穴馬"だったんだよ。()()()になった今になってしまえば言い訳だけど。

 そういえば先程、シアンがこの班を『助平男、怒り、規格外、残念』と評していた。残念がエクレール、助平()が俺。怒り猪がフラムだとすると、残る規格外がヴェルデを指している。

 その口ぶりから察するにヴェルデもA級、もしくはそれに近しい力があるのかもしれないな。


「ほら、ボサっと突っ立ってないで荷物よこしなさい。進まないでしょうが」


 エクレールはそう言って俺のリュックをひったくると、テーブルに食器を並べ始める。


「これ、着いたはいいが何をするんだ? 料理だけでいいのか?」


「何って、そりゃ──」

「……貴様というヤツは、何も聞いていないのだな。ここは自分から説明しよう」


 説明魔(シアン)の登場に、エクレールは何かを差し出すような仕草で『どうぞどうぞ』と主導権を譲る。


「此度の課外学習は"ピクニック"だ。この催しは、元々は貴族の娯楽だった。狩猟というのは元来大所帯で行われるものであり、合間の食事会も豪華なものだった。そのぜいを凝らした食事が、いつしか目的の一つとして成ったわけだな」


「……なるほどなぁ。ピクニックってそんないわれだったのか」


 試験だったら説明の過不足なく満点なんだろうな。シアンのような教えたがりは、この世界に無知な俺にはありがたい存在だ。


「アタシとしては狩猟もしたいのよね。ジビエってのに興味あるのよ!」


 フラムも復活したらしい。燃費の悪かった彼女だが、最近とみに空っぽになってからの復活が早くなっている気がする。

 起きて直ぐに肉とは、なんとも食い意地の張ったヤツだ。


「ハァ……貴様はその貪食(どんしょく)を改めるべきだぞ」

「いや、お腹は減ってるでしょ。ウチも腹ペコ通り越してベッコベコだし」

「あんたら、はしゃぎすぎなのよ。そんなザマじゃ昨日から寝れてないんじゃない?」


 そりゃこれだけ大声出してたら、そうもなるわな。早いとこ調理に取り掛かるか。


「あー、取り敢えず飯を作ればいいんだな。で、何を作るんだ? 材料はどこにある?」


 沈黙。

 腹減り共の騒ぎが嘘のように、誰一人として言葉を発さない。動きすらしない。

「どうした? なんとか言ってくれよ」


 嫌な予感──というか、嫌なことが既に起こってしまっている気がする。


「……少しでもいい。料理出来るやつ──いや料理したことあるヤツ、手を挙げろ」


 伸びた手は一つ。水仕事に慣れ、歳の割にくたびれた手……まぁ、俺の手だった。


「……嘘だろ? 誰一人、出来ないのか? 何も『コース料理を作れ』とかは言ってないぞ?」


 女子はみんな家事が出来るもの──なんて前時代的な価値観は持ち合わせちゃいない。そんなことは思わないが、それにしたって。

 それにしたって少しは居たっていいだろう。バチは当たらないだろう。俺ですら一通りの炊事洗濯くらいは修めている。寮生活で多少なりとも培われるものではないのか?


「箱入り血統書つきお嬢様を舐めんじゃないわよ。厨房に入ったことすらないわ」

「食堂がある環境で自炊する物好きなんてそうそう居ないのよね」

「そーね、右に同じく」

「た、多少は出来るぞ? しかしだな、他人様に披露できる腕などでは決して……」


 包丁(ナイフ)を握ったこともないだろう。そんな物より人斬り包丁の方が似合う、物騒な女子達だ。


「……材料は、あるんだろうな」

「そこについては心配無用よ。机と一緒に向こうの小屋にあったから」


 小屋──というにはいささか大きいが、彼女達のスケールからすると小屋なのだろう。

 俺もそこまで得意ではないが、この腕を振るうしかあるまい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ