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3.私の一歩は

 目に赤い光が宿る。まず動いたのは私の右腕。無音の女を殴り飛ばす。強烈な音とともに結界の男と魔法の女を巻き込んで吹っ飛んでいく。なるほど、吸収できる音の大きさには上限があるらしい。知ったところで意味はないが。そして、左側にいる扉を開けた男を左手の裏拳で薙ぎ払う。が、その手は空を切り壁に突き刺さる。クソ!しゃがんで回避された!

「ロット!アルテ!リーリア!動けるなら返事をしろ!」

 しゃがんだ反動を生かしてバネのように男は短剣を私の喉に突き刺しにきた。激しい金属音を伴って短剣が砕け散る。こんなん生身の人間だったら首が吹っ飛んでるぞ。今までの対応からして殺意はなく取り押さえるだけだと思っていたが、それは私がただ逃げるだけだったからか。


 さっきの衝撃で留め具が外れて重い音とともに私は地上に降り立つ。大丈夫だ。しっかり立てる。男は瞬時に距離をとって私を警戒している。私と最初に殴り飛ばした奴らの間に立つようにしながら、私が壁から左腕を抜き取る様を観察している。


「おい!動けるなら返事をしろ!」


 男の再度の呼びかけに結界の男と魔法の女は呻きながら起き上がる。無音の女は起き上がれない。まだ魔力が身を包んでいる様子から死んではいないはずだ。何年この世界にいようと私の倫理観は元の世界由来だ。なるべく人は殺したくない。


「アルテは上に知らせに行け!ロットはそこで防御壁を作れ!」


 なるほどロットが結界の男で、アルテが魔法の女、リーリアが無音の女か。そして、私の前に立つこの男がリーダー格と。アルテは急いで一つしかない地下室の出口まで走りに行き、ロットがそんな彼女を守るように結界を張る。そして、リーダー格の男は私の足止め。アルテに地下室の状況を上の連中に知らされると大変マズい。私は逃げるつもりなのだ。穏便にとは言えなくなったが上の連中が臨戦体制になるような情報を持って行かれるわけにはいかない。幸い、地下室は深夜にも激しい音を出す作業が行えるように、防音には一際注意を払っている。今の戦闘音が外に漏れた心配はいらない。


 私がやりたいのはアルテを止めること。そのためにはリーダー格の男を倒し、ロットの結界を突破しなければいけない。内部ギミックは試し撃ちしてからの実戦投入をしたいから、まだ使えない。


 素のステータスってものを試す良い機会だ。簡易的に自分の状況をチェックする。首には傷や凹み一つ付いていない。防御力は十分。足を一歩踏み出す。リーダー格の男が腰を低くする。気にせずもう一歩。さらに一歩。一歩。一歩、一歩一歩。


 そのままドンドンと走り抜ける!まるでラグビーのように私を止めに来た男を吹き飛ばし、結界にタックルをしてぶち破り、驚嘆の眼差しでこちらを見るアルテに向かって走る。右手を引き、彼女の顔面に向かって拳を振り切る。彼女の拳に魔力が溜まる様子は見てとれたが、その魔法は間に合わない。


 鮮血と轟音を伴って吹っ飛んだ彼女は壁に当たると同時に意識を失っている。彼女の顎は左半分が吹っ飛び、赤黒い血の中に白い歯と骨が見え隠れしていた。壁にぶち当たった後頭部からは血が流れ出ている。


 まだ生きているが、明らかに重症だ。今すぐ手当をしないと彼女は死ぬ。いや、後頭部が深く陥没していた場合はもう助からないかもしれない。


 そんな彼女を後目に、私は地下室の階段を跳ね上がり地上に出る。彼女の手当のために2人ぐらいは足止め出来るだろう。地上の人たちは突然、出てきた私に驚いていたが、すぐさま膝裏を切りつけてきた。さすがはプロというわけか、判断が早い。まぁ、今の私の見た目はメタリックな外観に赤く光った目、右手は肘まで血がべっとりだ。敵にしか見えない。地下室への隠し扉の周りには3人。さっきの膝裏への攻撃は当然の如く効いていない。


 そのまま窓から外に出る。目の前に1人、右側に2人見える。この調子だと家の反対側にも3人いそうだ。相変わらず関節部に攻撃を貰うが効かない。彼らには私の姿がフルアーマーにでも見えているのだろうか。関節部を攻撃しようが意味はないというのに。


 無視して走る。当然、何やら喚いて追ってくる。元の体で逃げる時は魔道具や道中に潜ませていたゴーレムとトラップによってギリギリ逃げてきたが、今回は違う。ただ走るだけ。人間だった時では考えられないパワーで地面を蹴る。地面にヒビが入ったり砕けていっているのが分かる。一回一回の踏み込みが全力で踏み込める。疲労なんて感じない。グングン加速していく。素晴らしい。私の体はなんて素晴らしいんだ。


 目の前にこの城下町を守る門が見える。私の報せを受けたのか衛兵が立ち塞がっているが無駄だ。門を閉じても意味がない。ただ突っ切る。今の私にはそれが出来る。


 衛兵の壁をタックルで蹴散らす。右腕と右肘で目の前にあるものを全て破壊し進む。


 こんなの無敵ではないか。


 圧倒的な存在感。柔な人体を超えた存在。心が弾む。嬉しみが込み上げてくる。


 真に私はなった。


 私は真の私となった。


 ずっと!ずっと!ずっと!ずーーーーーーーと!夢見てきた!絶望していた!奇跡が私の手の中にある!


 そのままの勢いで城門も破壊する。この一歩が、この国を飛び出た瞬間の一歩が私の新たな覚醒の一歩だ!


 そして、そのままの勢いで堀に落ちていった。





 ハイになりすぎて、橋上げられていたのに気付かなかった。この堀なんと10m近くあるらしい。昔モルさんが言ってた。高いところ苦手で怯える私に笑いながら言ってたからよく覚えている。あの時ほど人を憎んだ時はない。

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