王都
幌馬車に揺らされる事一時間くらいだろうか。
平原の真ん中に高い城壁が見えてきた。
どうやら、あれがボク達の目的地である王都のようだ。
幌馬車の中でボクとミオナと事務部長はそれぞれ自分のスキルツリーを開き、一つ一つのスキルがどんな効果を持っているのかを確認していた。
ボクはスキルが少ない事を恥じていたが「Sランク」スキルが一つで複数の「Aランク」スキルの効果を兼ね備えていたりするため、「Sランク」スキルが複数あると必然的にスキル数は少なくなってしまうのだ。
「まさか、『選ばれし者』に本当にお会いできるとは!」
司教はボクがグリフォンを一蹴してから今に至るまでズッと興奮しきりだ。
「ケンさん、スキルツリーの最下層にスキル名ではなく「☆1,000」とか書いてある黒枠があるのだが、これは?」
事務部長がケンに質問する。ボクのスキルツリーにも同じようなものがある。ただ、☆100,000とか数字の桁がちがうのだが。
「ああ、それですかい。スキルは今もっているものだけでなく経験値をつむことで新しいスキルを身に着けることができやす。☆1,000って書いてあるとこなら経験値1,000をつぎ込むことで、そこの枠にスキルが表示され身に着けることができやす。」
「経験値?」
と、事務部長が聞き返すと、
「スキルツリーの枠外に☆100とかって書いてないですかい?」
ケンに言われて注意してスキルツリーの枠外をみてみると、☆110、G5,100という表示がある。最初にスキルツリーを見た時には多分表示はなかったはずだ。
「☆が経験値、Gはゴールドです。経験値はモンスターを倒して手に入れたり訓練をしたりすると獲得することができやす。」
「なるほど・・・。でも、獲得できるスキルは分からないのかな?」
事務部長の問はもっともだ。経験値を積むという面倒な作業をした上で、ゴミスキルを獲得しては骨折り損のくたびれ儲けだ。
「そうなんですがね。ただ、スキルツリー上で線でつながっているスキルは関連性のあるスキルなので、未獲得スキルと線が繋がっているスキルを見れば、獲得できるスキルの傾向はつかめるかと思いやす。」
「そうか。経験を積んでいけば、どんどん上を目指していけるわけか。経験値もハッキリと数字で表示されるからモチベーションの維持もしやすいな。」
事務部長・・・。
「経験を積んで上を目指す」? これだから就職氷河期世代は・・・。そもそも、この世界でボクらは「異界の戦士」っていう常人を凌駕する存在なんだから、わざわざ苦労してまで強くなる必要なんてないんですよ。モンスターの脅威があるかもしれないけど、ちょっとやそっとスキルを身に着けたとこで飛躍的に強くなるなんてことはないだろうし。
(くくくく・・・、ボクの圧倒的スキルがあれば、モンスターどころか魔王なんて目じゃないと思うけどね。)
ボクは口の中で呟きながらニヤリと笑った。
「せいどうの剣」、あの圧倒的パワーを皆もみただろう。ケンのスキル「鉄柱蹴り」なんて比べ物にならないくらいのスケールとパワーをもっていた。仮に魔王にあれが通用しないのだったら、事務部長ごときが多少のスキルを身に着けたところで魔王に対抗することなんて到底できまい。
「川本さん・・・、さっきからニヤニヤしながらブツブツいってますけど・・・。何か聞きたいことでもあるんですか・・・?」
ミオナが怪訝そうな顔でボクの顔を覗いてきた。
「・・・い、いやぁ、向こうの世界で残してきた仕事の事が心配でぇ。」
とボクは誤魔化した。残してきた仕事なんてないんだけども・・・。
そうこうしている内に馬車は王都の正門前に到着した。高い城壁の中央にある重厚な鉄製(と思われる)の門は大きく開け放たれていて、門の脇には兵士の詰め所があり、門を出入りする人間の身元確認をしているようだ。
ボクらの馬車が到着し御者が門番の兵士と簡単なやり取りをすると、ボクら一行は王都の中へ馬車のまま入っていく。
「王都」というだけあって城壁の中には民家や商店が連なり、往来には人が溢れていた。城壁の外の延々と続く草原と畑だけの世界からは想像できない景色だ。
馬車に揺られることさらに二十分。
ボクらは王都の中央にある王宮に辿り着いた。ここからは歩いていくようだ。建物も大きいし当然エレベーターもないだろうから正直歩いていくのだるいんだけど・・・。
でも、若返ったボクの体はボクの意思と異なり機敏に動いていた。
大理石のような床面の王宮を奥へと進んでいく。奥に行くにつれて壁面や天井には華美な宝飾や絵が飾られている。
そして厳かな装飾の施された重厚な門が目の前に現れる。
門の脇には王宮の入口にいた兵士とは明らかに出で立ちの異なる、実用性より装飾を重視した鎧と槍を携えた兵士達が控えている。
隊長らしき兵士が司教に話しかけてきた、
「ナモン司教、王がお待ちです。」
「うむ。」
すると、門の両脇にいた兵士が門の左右の取っ手をそれぞれ両手で掴んで、奥側へと押し込み、扉を両開きにした。
扉が完全に開くと、ボクたちは司教とケンに先導されて扉の奥の間へと入っていった。
扉の間口から真っすぐ奥に向かって赤い絨毯が敷かれている。
絨毯の先には二、三段の階段があり、その先には王冠を被った人物・・・この国の王であろう・・・が座っており、王の右脇には妖艶な雰囲気を漂わせる、長い黒髪に褐色の肌をした女性が立っていた。
女性は赤いエナメル製のビキニのような物を身に着け、その上から黒い法衣をマントのように羽織っていて、表情は微笑みをたたえている。
ミオナにはない大人の色気を感じたボクは、相手に見ていることがバレないように巧にチラ見しながら歩いていった。
だが、チラ見する度に、女性の顔に一瞬ノイズのような物が走る気がする。彼女の顔をコッソリ覗き見しているボクの罪悪感が、彼女の顔を直視しないようにとそうさせているのだろうか。
ナモンとケンが赤い絨毯の途中で歩みを止めたのでボクらもそれに倣って歩みをとめた。
そして、ナモンとケンがその場で立膝で跪いたのでボクらもそれに倣う。
「第一教区司教・ナモン。只今、三名の新たなる異界の戦士を連れて参りました。」
「うむ。ご苦労であった。」
威厳のある王の声。髪も眉も口ひげも顎ひげも全て白い。毛はみるからに剛毛でボリュームが多く、髪はくせ毛なのもあってか余計に毛量が多く見える。顔の半分以上は毛ではないかという顔だ。
「して。」
王は急に立ち上がるとボクらの方にズカズカと向かってきて、
「報告の者の知らせでは巫女の予言にあった異界の戦士の『選ばれし者』が召喚されたと聞いたが・・・、お主が!?」
王は興奮気味に話しながらビッと手の平を事務部長に向けた。突然の事に驚いた事務部長は、
「い、いえ私はございません!」
と慌てて否定する。間髪いれずに王が、
「そうか・・・、ではお主か!? 女性の戦士が『選ばれし者』というのも・・・よいな!」
事務部長の時よりも明らかに興奮している。
このオヤジ・・・自分の孫位の年齢のミオナに邪な感情を抱いてんじゃねえだろうなあ・・・。
ミオナも自分が指名されるとは思わず慌てた様子で、
「い、いえ私ではございません!」
と両手を振って否定する。
王はボクのほうを向きなお振って
「そうか・・・・、では・・・お主なのか?」
事務部長とミオナの時よりも明らかにテンションが低い・・・。
「え・・・あ、はい、ボクです・・・。」
王のテンションが低いせいでボクはどぎまぎしながらテンションの低い返事をしてしまった。
決してこういう場面に全く耐性がなくて緊張に飲み込まれているわけではないのだ。
そんなボクを見る王の目には落胆というか疑念の光が宿っている気がした。
「王。」
王の右隣に立っていたセクシーな女性の声だ。女性は王の右隣まで歩み出てくると王に向かって笑みを浮かべたまま、
「どうでしょう。今夜の食事会の際に、この御仁と大鉄殿とで力比べをさせるというのは? さすれば王もこの御仁の実力をお認めになるのでは?」
と提案した。
王は女性の提案を聞くと豊かな顎ひげの上から顎に手をあて、ニヤリと笑いながら。
「ほう、面白い提案だ。それがよい。」
と女性に向かって呟いた。
御仁・・・ってボクのことだよね・・・。力比べ・・・ボクが・・・するの!?




