せいどうの剣
「きゃあああああ!」
グリフォンによって槍ごと吹っ飛ばされのだろう、ミオナの叫び声が聞こえた。
(ん?)
あれ、痛くない•••。グリフォンのクチバシの餌食にボクはなったはずだが・・・。
恐怖で目を瞑ってしまっていたボクは、恐る恐る目を開ける。
「ひえええええ!」
ボクの眼前五十センチくらいにところにグリフォンの巨大な口が広がっていた。
だが、何か見えない壁のようなものがボクとグリフォンの間にはあるようで、グリフォンの口がボクに届くことはなかった。
「この野郎ッ!」
ケンの野太い声がしたと思うと、グリフォンの首にケンの強烈なキック ―「鉄柱蹴り」という技スキル― が見舞われ、グリフォンの首が明後日のほうを向く。
「大丈夫か!」
事務部長も駆け寄ってきて槍の下敷きになっていたミオナを助け出す。
「くらえ!」
ケンは追撃の鉄柱蹴りを放つ!
バチイイイイン!
「ちぃ!」
すぐにケンの方に向き直ったグリフォンは、前足でケンの鉄柱蹴りを受け止めると、翼をゆっくりはためかせ、体勢を立て直すべく、こちらに視線を向けたまま空に上がっていく。
グリフォンのクチバシの付け根から大量の血が流れているのが見えた。ボクの前方に現れた見えない壁に勢いよく衝突したからだろう。
「こいつぁ、とんでもねぇモンスターだ! あっしが相手をしますんで皆さんは下がって!」
ケンの言葉に事務部長は、
「一緒に戦う!」
「戦い慣れてない皆様がいては足手まといってことです!」
ケン! いいこと言う。腰が抜けていたボクだったが気力で立ち上がった。
「か、川本さんの不思議な力があれば!」
ミオナー! なんてこと言うんだよ! 多分、なんかのスキルなんだろうけど次も防げる保証なんてねぇーし。
「ダメだ! 次も上手くいく保証はない!」
ケンガ言い切った。ならば遠慮なく!
ボクは事務部長とミオナの反対方向に後ずさっていく。
「グオオオオオ!」
グリフォンが咆哮する。
「行くぜい!」
ケンは垂直に飛び上がると、最高点に達したところで何もない空中を蹴る! スキル「見えない足場」によって空中でも地面を蹴ったかのような跳躍ができるのだ。
グリフォンはケンの最初の跳躍が自分のところに届かないと思っていたのかケンの方を見てない。完全にグリフォンの不意をついた。
「見えない足場」を踏んで前方に飛び出したケンは鉄柱蹴りを放つ! が、空振りした!
グリフォンはケンが前方に飛び出るタイミングで急降下していた・・・しかも、ボク目掛けて!
「ええええぇぇぇ! なんでぇ!」
ボクは眉間にしわを寄せ、悲鳴をあげて理不尽さを呪った。
グリフォンは初めからケンを見ておらずボクをズッと見ていたのだ。ケンの動きに注目していたボクが不意を突かれることになった。
「か、川本ーっ!」
事務部長の声が聞こえた。ボクは一人で後ずさっていたので事務部長とミオナからはずいぶん離れてしまっている。
「ひぃー!」
怯えるボク。
「か、川本殿ーっ! スキル、せ、せいどうの剣を!」
事務部長とミオナがいるあたりまで走り込んできた司教の声が聞こえた。
せ、せいどうの剣•••あの、低ランクスキル!? 青銅の剣だろ? 鉄より強度のない金属で、あのモンスターの相手なんて出来るのかよ!
そうこうしている内にグリフォンが迫ってくる。今度はクチバシでなくゾウの足のような太い前足を叩きつけてきた。
「ひえっ!」
ボクは左手を顔を隠すようにかざすと、恐怖で尻餅をついた。
バッチイイイイイイン!
先程と同じように、凄まじい音が発すると同時にボクの前に光が走り透明の壁ができていた。
ま、まぐれじゃない・・・。ボクは目の前に広がる光景に高揚感を覚え始めていた。
「せいどうの剣をーっ!」
再び司教の声が聞こえた。
よし、こうなったらやってみるか!
ボクの心の中に、熱い感情が溢れてきた。
「せ、せいどうの剣ーっ!」
ボクは叫びながら、右腕で背中に背負った剣を引き抜きグリフォンにかざすような仕草をした。
すると、ボクの右腕の前腕に光が収束していき、前腕は半径一メートルくらいの光の輪におおわれた。そして、光の輪の先端•••ボクの右手の拳の先から猛烈な勢いで光の輪と同じ広さの面を持った光の束が放射された。
ボクの右手の拳の先はグリフォンの体を捉えている。
ゴオオオオオオオン!
光の放射はグリフォンの体をいとも簡単に貫いた。
いや、貫いたというよりは光の放射に触れたグリフォンの体が瞬時に消滅したというほうが正しいか。
光の放射範囲外にあったグリフォンの翼の先端は崩れ落ち灰となって消えた。
光の放射はグリフォンを貫いた後も勢いを失わず青空の遥か彼方まで飛んでいき、それは一本の光の柱のようだ。
10秒くらい経っただろうか、光の放射は終わった。
チャリンチャリリーン!
ゴールドがボクのところに吸い寄せられてきた。少し離れたところからもゴールドが飛んできたところをみると、上空にいたジャイアントバットの何体かが光の柱の巻き添えを喰らったようだ。
ボクだけでなく、ミオナも事務部長もケンも司教、兵士達やジャイアントバットまで何が起こったかわからず呆然ととしていた。
「シャアシャア、シャー!」
沈黙を最初に破ったのはジャイアントバット達だった。
地上付近でボク達と戦っていたジャイアントバット達は上空へと飛び上がり、上空に滞留していたジャイアントバットと合流すると群れをなして、どこかへ飛んで行ってしまった。
おそらく、モンスターの群れのリーダーであるグリフォンが倒されたので引き上げたのだろう。
「川本さん・・・す、凄い・・・凄い凄い!」
我に返ったミオナが興奮した様子でボクのところに駆け寄ってくる。ボクが立ち上がるとミオナはボクの両手を握って激しく上下させる。ミオナの手・・・あったかい・・・。
「川本君・・・今のは・・・。」
「え、えーとぉ。」
事務部長の問いかけにボクは自分のスキルツリーを確認する。
「あ、これかぁ。『ランク・S/名称・せいどうの剣/効果・モンスターをなぎはらう剣』。ランクが随分下だから使えないスキルだと思ってたんですけどぉ・・・。」
「S」なんていったら下から数えた方が早いくらいのアルファベットだ。
「川本殿!」
ボクのほうに近寄ってきた司教が大きな声をあげ、ボクの手をとった。冷たい手だなあ・・・。ミオナの温もりを返してくれ!
「まさか、川本殿が伝説のSランクスキルを保持している方だったとは!」
「へ?」
困惑するボク。
「川本さんのスキルツリーを司教が映し出されたとき『Sランク』ってありやして、何だろうと思いやしたが、あれはAランクをこえるスキルランクってことでしたかあ。」
そういえばボクのスキルツリーを司教が皆の前に映し出してくれた直後にモンスターが襲来してきたから、司教に疑問をぶつける時間はなかったもんね。
「しかも、Sランクスキルを一つならず複数も保有されているとは・・・! 川本殿こそ予言にあった『選ばれし者』!」
「選ばれし者・・・。」
いい響きだ・・・。ボクはいつも選ばれる立場だったけど、「選ばれし」なんて言われたことは今まで一度もない。
ボクは改めて自分のスキルツリーを確認した。「ゴミ」だと思っていた「Sランク」スキルが輝いて見えた。グリフォンの攻撃からボクを守ってくれたのは「ランク・S/名称・せいどうの盾/効果・敵の攻撃を防ぐ盾」ってやつだろう。「せいどうの剣」もそうだけど効果の説明が雑すぎやしないか・・・。
「これは王に一刻も早く報告しなくては・・・。皆様、馬車にお乗りください。王都に御案内いたします。」
司教に促されボクらは幌に乗り込み王都へと向かった。




