スキルツリー
「うわー、おっきいですねぇ!」
ミオナが眼前に広がった事務部長のスキルツリーを見て歓喜の声をあげた。ケンのスキルツリーも大きかったが、事務部長のスキルツリーはさらに大きかった。
「あそこにある『裸眼の記憶』っていう視力を補正するスキルがあるから、事務部長、眼鏡なくても見えるようになったんですね!」
ミオナは事務部長のツリーをみてはしゃいでいる。ボクはそれを横目で見て焦っていた・・・。
なぜなら・・・ボクのスキルは15個くらいしかないから!! コッチの世界の人よりスキルの数は多いが、「異界の戦士」達の保有スキルが30前後ということを考えれば劣等戦士扱いを受けるのは間違いない・・・。
「ほう、『運行管理者・旅客』というスキル・・・初めて見ますな・・・。」
司教は事務部長のスキルを一つずつ注意深く確認していきながら呟いた。
「あ、私もあるよ! 『運行管理者・旅客』!」
ミオナは自分のスキルツリーを確認したのか嬉しそうに言った。
なんてこった! まさか運行管理者の資格がスキルになっているなんて! 当然、ボクは持っていない。ボクは講習を受ければ得られる「運行管理者の補助者」の資格はもっているのだが、そちらはスキルにはなっていないようだ。
「でも、『運行管理者』のスキル、スキルの効果が空白ですが・・・。」
事務部長が疑問を口にする。司教は事務部長のスキルツリーに視線を向けたまま、事務部長の疑問に答えた、
「確かなことは申し上げられませんが、異界の戦士の方々のスキルには効果が空白になっているものがいくつかあります。恐らく称号的なモノで効果を発揮するものではないと考えております。」
自動車があるわけでもない世界で運行管理者の資格は使えないからね。よく見てみれば事務部長のスキルは向こうの世界の「資格」の名を冠したモノが多いけど、その手のスキルは効果が空白のモノが多い。そう考えれば「資格」無保持者のボクがスキルが少ないのは仕方がないよね・・・と言い訳を必死に模索する。
「では、松田殿・・・。スキルツリーを拝見させていただいてもよろしいですかな。」
「はい!」
ミオナは元気よく返事をすると一切の躊躇なく司教の手のひらの間に佇む光球に手を突っ込んだ。光球から光線が発せられたかと思うと、ボクらの眼前にミオナのスキルツリーが現れる。
「ちょっとケンさんや事務部長のより小さいけど・・・。」
ミオナは照れ臭そうにいった。でも、ボクのスキルツリーより大きいんだけど・・・。
「あっしら異界の戦士のスキルツリーは本人の性格や願望、今までの経験が反映されるようでして。年齢重ねてるほうが経験つんでるんでツリーは大きくなる傾向にあるみたいです。」
ケンの説明にボクは焦りを覚えた。ミオナより10歳くらい年上なのにボクのスキルツリーの方が小さいってことは・・・ミオナより人生経験が浅いってコト・・・? ・・・ケンの野郎! ボクのスキルツリーが皆の目に触れる前に余計な話をしやがって! 急に怒りが湧き上がってきた。
だが、ボクには他にも懸念があった。ボクのスキル、ランクがAやBのものもあるが、CやDよりも低いランクの物がチラホラ見受けられるのだ。さらに
「ランク・A/名称・純潔の危機/効果・異性と関係性を深めると警告」
なんていう、ランクばかり高いくせに何の役に立つんだというスキルまである。しかも、ボクの女性経験の少なさ(もっともミオナに会うまでは年齢=彼女ナシだったが)を暴露するかのような恥ずかしいスキルだ。
「川本さん? どうしやした? さっきから変な汗かいてるようですが?」
ケンがボクの焦りを察しったのか声をかけてきた。
「あ、えー・・・とぉ、この自分のスキルツリー・・・目の前にいつもあると落ち着かないなぁと思ってぇ・・・。」
必死で言い訳を絞り出す。
「スキルツリーは自分の意思で目の前に出したり消したりできやす。」
「あ、本当だぁ、消えたぁ。」
スキルツリー消えろって思うとすぐにスキルツリーは消え、スキルツリー出ろ! って思うと目の前にスキルツリーが現れた。
「では、川本殿、スキルツリーを拝見させていただいても、よろしいですかな。」
ミオナのスキルを一通り確認した司教がボクのほうを向いて言ってきた。
「!!」
ボクは焦った。ここで拒否したとしても「何で?」って詰められて、結局見せる羽目になり「恥ずかしいから見せたくなかったんだー。」と口にだしては言われないだろうが失笑を買う事は間違いない・・・。ボクはありったけの勇気を振り絞り、
「じ、事務部長とミオナは向こうの世界では仕事ができる! って言われていたんですが、ボクは・・・そんなにできる方じゃなくて・・・なので二人ほど優秀ではないんでぇ・・・。」
と、敢えて自分を貶めることで予防線を張り、司教に上目遣いをしながら、司教が両手で抱えている光球に手をいれた。光球は光を放っているだけのようで温かさも冷たさも感じなかった。光球から光が発せられボクの控え目なスキルツリーが公衆の面前にさらされた。
恥ずかしスキル「純潔の危機」がミオナの目に触れてしまった・・・。ていうか、「純潔の危機」って恥ずかしいだけでなく、ミオナと関係を深めようとしたら警告が出るってどんな罰ゲームだよ・・・、ケンの野郎、スキルは「本人の性格や願望」が反映されるっていってたけど、そんな願望ないし・・・あー、いやもしかしたらボク、寝取られ気質だったのかなぁ・・・心の底では、ミオナと事務部長が一緒に仕事と称して遊びにいっているのを喜んでたってコト・・・!?
肩を落としつつ、そんなことを考えていると、
「お、おお! こ、これは・・・!」
司教の驚く声が聞こえてくる。そうでしょうよ・・・。異界の戦士でこんなにスキルの数が少なく、しかも低ランクのスキルが点在するスキルツリーなんて見たことないでしょうから・・・。
「川本殿・・・あなたは・・・。」
司教は目を見開いたままスキルツリーからボクの方へ顔を向ける。いや、珍しいかもしれないですけど、そんなに驚かなくても・・・と思ったその時!
ガシャガシャガシャという音を立てながら兵士が倒れ込むように駆け込んで来て、
「た、大変ですッ! そ、外に・・・、空飛ぶモンスターの大群が!!」
と息を切らしながら告げてきた。
「な、何だと!」
とケンが応える。するとミオナが急に恐怖に引きつった顔をして、
「な、何か来る!」
と叫んだ。
え? 何にも見えないけど・・・。ボクがそう思っていると、ケンは兵士が駆け込んで来た、フロア唯一の出入り口に向かって駆けて行き、出入り口の脇で構えをとる。するとその瞬間、出入口から人の胴体を一回り大きくした位の空飛ぶ物体が飛び込んできた、
「ちぃっ!」
「グエエーッ!?」
ケンの強烈な回し蹴りが炸裂! 空飛ぶ物体は完全に不意をつかれ驚きの悲鳴を上げる。
ドガシャアアアアン!
空飛ぶ物体は石壁にめり込むような形で叩きつけられた。
壁の中に押し込められピクピクしている空飛ぶ物体は巨大なコウモリのモンスターだった。
「ジャ、ジャイアントバット・・・。」
ボクはそのモンスターの名前を呟いていた。そう、ボクはこのモンスターを知っている!




