就活の思い出 その2
「あれはぁ、ボクが就職活動をしている時でした。」
ボクはリッセンとの因果に思いをはせつつ彼との出会いを語りだした。
そんなボクの思いとは裏腹にミオナの素っ頓狂な声が響いた。
「え? ホームセンターのバイトの面接の時ですか?」
「・・・違うと思う・・・。」
ミオナの言葉で呆気にとられていたボクに変わって事務部長が冷静なツッコミを入れてくれた。
確かにボクは就職活動が上手くいかず、最終的には近所のホームセンターで契約社員と称される実質フルタイムのバイトをすることになったのだけども・・・。
「ああ、川本さんも何社か入社試験を受けにいっていたんですね。」
ミオナの言葉、ちょっとひっかかるなぁ。ボクがそんなに行動力がないヤツだと思っていたのか。
ボクは少しイラっとしつつも気を取り直して話を続けた。
「ある会社の二次試験が集団面接だったんですけど、そこで一緒に面接を受けたのがリッセンだったんです。」
「ほう。」
事務部長がボクの話に相槌を打つ。
「面接に挑む前に組ごとに横並びに並んで座って待つんですが、七番の組の席に座って待っていたボクに後から来たリッセンが、ここ、七番の組でいいですよね? って聞いてきたんで。そうですって答えたんです。そしたら今日はよろしくお願いしますって言ってきたんで、あ、よろしくお願いしますって答えたんです。で、一緒に集団面接を受けて。」
「そうなんだ。」
「はい。」
「それから?」
「以上です。」
「え?」
「面接待ちの会場で私語なんてできないですよねぇ。」
「それはそうだけど、面接の後とかは?」
「面接終わったからって面接会場である会社の社内で私語する人なんていませんよ。」
ボクの返答に事務部長はなぜか少しイラついた様子をみせながら、
「そういう事じゃなくて。立仙さんとのその後の関りは?」
「ないですよ。」
「・・・。」
なぜか無言になる事務部長。
するとミオナが、
「川本さん、それって面識あるって言うんですか?」
と怪訝そうな顔で聞いてきた。
「え? あ、話したことはあるんでぇ・・・。」
ボクはミオナからのツッコミにしどろもどろに返す。
そんなボクに向かってミオナはさらに、
「それで面識があるって異性と二人で食事に行ったら、相手と自分は付き合っていると勘違いしちゃうのと同じレベルじゃないですか? それどころか話したってレベルのやり取りでもないですよね?」
と強めのトーンで言ってきた。
「え、あ、うん・・・。」
ボクは図星を突かれた上にミオナの勢いに押され、まともに返事ができないでいた。
ボクが視線を泳がせていると、ボクとミオナのイチャつきとも取れるやりとりを見てヤレヤレといった表情を浮かべている事務部長が目に入った、事務部長はそんな光景を見兼てか、
「集団面接ってグループワークとかグループディスカッションとか、参加者が互いに意見を交わすものだったのかい?」
と聞いてきた。
「え・・・違いますけど。」
事務部長がなんでこんな質問をしてきたのかわからない。
「そうか、なら立仙さんは面接で、こんな事ってあるのかってくらい印象に残るような事したってことだね。」
「え、あ、はい、そうです。」
そうなのだリッセンは面接で圧倒的な存在感を放っていた。でも部長はなぜそれが分かるんだ?
「何で部長はそんな事が分かったんですか?」
ボクに変わってミオナがボクの疑問を聞いてくれた。
「ふふ。」
事務部長は軽く笑いを浮かべると、
「およそ他人に興味のない川本君が、面接で同じ組になっただけの人の事を、名前が珍しいからって覚えていたなんてことはまずないだろうから、グループワークやグループディスカッションのように川本君と立仙さんに直接接点が生じるような事がなかったのであれば、誰が見ても驚くような事を立仙さんがしたのだろうと思ったんだよ。」
「あー、なるほどー。確かに。」
部長の分析に感心したのかミオナが大きく頷いてみせた。
およそ他人に興味がないって・・・確かにそうだが口に出して言われるとバカにされているようにしか思えないし、そもそも話し初めの軽い笑いはあきらかに嘲笑。ミオナもなるほどーって感心するところじゃないだろ!
そんなボクのムカつきを気に止めることもなくミオナはいつもの調子で、
「で、立仙さんは面接で何をされたんです?」
と聞いてきた。
「えーーと。」
ボクはミオナの問いに即答せずに少し考えた後、
「・・・センリツ工業社長の孫っていう事が面接中に分かっちゃって・・・。それで、その会社、センリツ工業が主要取引先だったんで、面接官の態度も一変しちゃって・・・。結局、そこにそのまま就職できちゃって・・・。」
「へー、本人からしたら期せずしてコネ入社みたくなっちゃったて事ですね。」
「うーーーん。でもぉ、本人も匂わすような事を言ってたから期せずしてかどうかは分からないよ。むしろ、最初から言えばいいのに途中まで黙ってて、僕が誰だか分かりますよねっていう雰囲気と言動が感じられたから、悪意を持ってやってたんじゃないかなぁ。」
「そんな感じの人には見えませんでしたけどね・・・。」
ミオナよ。ああいう爽やかなヤツに限って裏があるというものなのだよ。したたかさがあるからこそ王女に上手く取り入って側近になっているのだろうし。
そんな人を疑うことを知らないミオナが王女の臣下となりリッセンの同僚となったら、リッセンにいいように利用される気がする・・・。王女の臣下にミオナがなる話が現実味を帯びてきたらボクが阻止してミオナを守らねば・・・。
食事を終えるとミオナと事務部長は明日のダンジョン攻略のための打ち合わせに出て行ったので、ボクは部屋に戻りベッドで一人横になっていた。
「リッセン・・・。」
ボクはリッセンの事を思い返していた。
思い返すといってもリッセンと会ったのは面接会場のみ。
だがボクはホームセンターで働いていた頃から面白くないことや仕事を辞めたいと思った時にリッセンのSNSを覗いたりリッセンの名前で検索をかけたりしてリッセンの事を調べていた。
自分と同列でありながら実力ではなく圧倒的なコネだけで就職活動を楽々クリアしたリッセン・・・。そんな彼が就職先や私生活で上手くいかず不幸になっていないか・・・そんな情報を求めて・・・。
しかしその度にボクの希望は打ち砕かれた。
リッセンは順調に大きな仕事をこなしていっていた。だが、それはリッセンの実力ではない。
リッセンは事あるごとに「周囲の協力があって」「自分だけの力では到底できなかった」等、自分の実力ではなく周りが凄いだけだということをコメントしていた。
そう、リッセンは実力では無く他力本願で成功を掴んでいたのだ。センリツ工業の社長一族という威光により、同僚、上司はおろか取引先さえもリッセンのために動く。少なくともリッセンの行手を阻んだりしてセンリツ工業と敵対するような行動をする者はいないだろう。
対してボクにはリッセンのような強力なコネがないから周囲が協力してくれることなど、ほぼ無い。
ボクにもリッセンと同じくらい強力なコネがあれば、周囲が我も我もと頼んでもないのに力を貸してくれ、ボクは何もせずともリッセンと同じくらいの成果を出せたはずだ。
ボクがホームセンターで正社員になる話が消え、これからもずっとバイトでいてねと言われたので、バイトを続けながら転職活動を始めた頃、リッセンは新卒で入った会社を辞めセンリツ工業に部長待遇で入社した。
リッセンはボクのように転職にあくせくすることもなく、今の仕事が嫌になれば親の会社に役職者として就職する事ができる。
リッセンの人生はコネによって専用道路が敷かれているのだ。
ボクは彼のSNSを覗くたびに自分の境遇を呪った。
「それって面識あるって言うんですか?」
ミオナの言葉が思い出されて頭に響く。
ボクはリッセンのSNSを事あるごとに見ていたからボクはリッセンの事をよく知っている。だから親しみのようなものをいつの間にか抱いて、面識があるかのように思い込んでいた。
実際、ボクが一方的にリッセンの事を見ているだけで、リッセンはボクの事など覚えているはずもないのに。
面接の時の事を思い出していた。
面接官2人と就活生5人の集団面接。
就活生のうち1名は体育会系の学生、1名はバイトやサークルで充実した学生生活を送っていたアピールをする学生で、ボクを含めたあと3人は慎まやかな学生生活を送ってきたであろう大人しめの学生だった。
リッセンはボクと同じ慎まやかな学生側だった。
面接官は体育会系の学生と充実した学生生活をアピールする学生とは話を弾ませていたが、ボクら3人にはそっけない返答をとっていた。
面接官は学生時代のアルバイトの話を聞いてきた。
ボクは古本屋のアルバイトの話を語ったが例のごとく面接官には軽くあしらわれてしまっていた。
それはさておき面接官の一人がさっきからスマホを弄っているのが気に障る。
「それでは立仙さん。」
スマホを弄っていないメインの面接官がリッセンを指名した、
リッセンは一呼吸おいて話し始める。
「はい。私は給料としてお金をいただくアルバイトはしていませんでしたが、お金を稼ぐということであれば、工場を営む祖父が自身の経験を元にした本を出版するにあたって、祖父が直接文章を書くのではなく、私が祖父の話したことを文章にまとめて書いていました。祖父の言葉そのままでは読む方に話の意図が伝わりにくいのでは? と思うところに関しては祖父と対話し事例を引き出したしりて、より具体的に伝わる内容になるよう努めました。また、読者の方に祖父の考えをより良く理解していただくためには、私自身が祖父の思考を理解していく過程が役に立つと思い、長期の休みの時には祖父の鞄持ちとして祖父に同行し祖父の工場だけではなく取引先を回らせていただいたりし、祖父の行動から祖父の思考を少しずつですが理解していくことができました。」
ほー。町工場を営むおじいさんの自費出版の手伝いをしていたと。果たしてその本は「稼ぐ」というほど売れたのだろうか。
ボクは面接官がその本は売れたんですか? という卑下た笑いを浮かべながら質問するのを期待して待っていた。もっと、ボクと時ど同様、特に質問もなく終了になるかもしれないが。
「部長・・・。」
スマホを弄っていた面接官がメインの面接官に小さな声で声がけすると自身の持っていたスマホ画面を、メインの面接官の前にかざした。
メインの面接官は画面をしばし注視しすると今度はリッセンの顔を注視した後、隣の面接官の方を向いて小さな声で、
「間違いないか?」
と言った。小さな声とは言っても静寂に包まれている面接会場ではハッキリ聞こえる。
「間違い無いかと・・・。」
するとメインの面接官はしばらく目を閉じた後、目を見開くとリッセンに向かい、
「おじい様のお手伝いした中で一番印象に残っている著作は何ですか?」
ん? さんざん二人で思わせぶりなやりとりをしておいて、なんでこんな質問をするんだ? と疑問に思うボク。
「はい。『三代目社長の作り方』という本です。これは二代目社長である祖父の父から、祖父が三代目社長としてどのような教育を受けたか、『会社を潰す三代目』とならないように、どのような思考・行動を行ってきたかを記したもので、時代は違ど、若かりし頃の祖父の悩みが等身大のものに感じられ、非常に勉強になりました。」
ん・・・『三代目社長の作り方』・・・? どっかで聞いたような陳腐なタイトルだな。
「はい。立仙さん、ありがとうございます。」
面接官は話を広げず打ち切ったが、心なしか丁寧な口調になったような気がする。
そこから面接の雰囲気が変わった。
今までボクともう一人同様にモブキャラだったはずのリッセンの話に面接官達は異様に食いつくようになった。序盤で話しを盛り上げていた体育会系学生とリア充学生の話に対する面接官の反応は明らかに薄くなり、彼らもモブキャラと化していった。
リッセンと面接官の話は面接というよりも、リッセンをお客様のように扱っているように感じさせられる場面もあった。
面接が手応えなく終わった帰り道、ボクは『三代目社長の作り方 リッセン』をスマホで検索しようと、『三代目社長の作り方』まで入力した、すると。
「え?」
検索予測に現れたのは
「三代目社長の作り方 立仙武雄」「三代目社長の作り方 センリツ工業社長」
そう、リッセンの言っていた祖父とは日本有数の大企業であるセンリツ工業の社長だったのだ。
サブ面接官がスマホを弄っていたのは、リッセンの話の内容とリッセンの姓を聞いて思い当たるものがあり、もしやと思い調べたのだろう。
「コネは強いんだな・・・。」
その会社からは集団面接の通過者にのみ連絡が来ると言われていたが、ボクに連絡は来なかった。
そしてリッセンはその会社に就職した。
圧倒的強者のリッセンと同じ組になったが故にボクの芽は摘まれてしまったのだ。




