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召喚

「おお、今回は三人も!」


 目を開けようとしたボクの耳に聞きなれない人の声が聞こえた。


 ボクはすっころんだ勢いで四つん這いになっていた。四つん這いの態勢のまま、ゆっくりと目を開けた。


(えっ!? どういうこと!?)


 目の前には二十代前半の若い男に抱きかかえられているミオナがいた。


(あの男は誰だー!)


 ボクは怒りに震えたが自分の両手両ひざから伝わる冷たさと硬さを感じたので、視線を手元から垂直に上方向に動かした。


 目の前にあったのは先ほどまでいた会社の廊下ではなかった。石畳に覆われたフロアーを20メートルほどの石壁が覆っている。石壁のところどころに明り取りの穴が空いているが室内を十分に照らすほどの数はなく、薄暗い空間が広がっている。


(え? ここどこ・・・。)


 ミオナを解放した若い男が右手側に向きなおって声を発した、


「こ、ここは・・・一体?」


 若い男の声は事務部長の声だ・・・え?


「ここは、パレモ王国・・・。」


 先ほどの聞きなれない声。ボクは顔を左方向へ向けた。


 そこには、白いローブをまとった初老の男性がいた。男性の後ろには鉄の鎧をまとい槍を持った兵士達が横並びで立っていた。


「あなたたちは神のご意思によって当地に召喚された異界の戦士。」


(ええええええ?)


 ボクには何が起きているかさっぱりわからなかったが、すぐに逃げれるように立ち上がった。恐怖のためかキビキビと体を動かせた。


 事務部長の声色をした男も状況を呑み込めないようで、しどろもどもに、


「しょ、召喚!? どういう・・・。」


と言葉を発した途端、


「おう、ここは、あっしにお任せを!」


と割り込む声が響いた。声の主は槍を携えた兵士と兵士の間を抜けてこちらにやってきた。


「あっしは加地かちケン。君たちと同じ日本から来た者だ。」


 ケンと名乗ったゴリラ顔の男はそういうと、右手に握ったカードを事務部長の声色をした男に差し出した。

 事務部長の声色をした男はカードを受け取りまじまじと見る。ミオナもカードが気になるようで、カードを見るために事務部長の声色をした男に密着した。


(おい! 何やってんだ! 誰だかわからんやつにくっついたりしたら危ないぞ!)


 だが、ボクは槍を持って整列する兵士に何かの拍子に串刺しにされる可能性を考え、動くことも言葉を発することもできないでいる。


 ミオナはカードを覗き込むと事務部長の声色の男に向かって呟く、


「う、運転免許証・・・ですよね・・・!?」


「ああ、間違いない。私たちと同じ時代の日本から来ている人だ・・・。ん? 松田さんどうした?」


 松田はミオナの苗字だ。ミオナは事務部長の声色の男の顔に目を向けたまま固まっている。


 しばしの硬直の後ミオナの口から出た言葉は、


「え、ええ・・・、じ、事務部長ですか・・・!?」


「そうだが・・・どうして驚いている?」


 事務部長の声色をした若い男は事務部長だったのだ。そのやりとりをみていたケンはニヤリと笑って、


「まあ、突然の出来事で全く理解できないでしょうが、あっしと同様に君らはこの世界に召喚されたってことだけ、まずは分かってくれ。ちなみに、元の世界に戻る方法は今のところわからないって事も付け加えておきやす。」


「分かった・・・今は同じ世界から来た可知さんの言うことだけが頼りだ・・・。」


 事務部長はケンに免許証を返しながら聞いた、


「呑み込みが早くて助かる。あっしのことはケンでいい。呼び捨てにしにくいならケンさんで。」


 ケンは免許を受け取りながらそういうと、事務部長、ミオナ、ボクの顔を見回すと、上半身を捻って後方にいるローブの男に向かって、


「司教! 兵士達を表に下げさせてくれ。こんな緊張感の中じゃ客人たちとザックバランな話ができんでな。」


 すると、司教と呼ばれたローブの男は、ズラリと並んだ兵士達の方に振り向いて、


「お前たち建物の表で待て。」


 と指示した。兵士達は整然と左手奥にある通路から外へとでていった。


 兵士達がでていったのを確認するとケンは、


「さてさて、客人たち・・・おっとまだ名前を聞いてなかったな。」


「あ、これは失礼しました。私は蒼騎士郎あおきしろうです。で、こちらの男性が川本かわもとノリヒロ、

こちらの女性が・・・。」


「松田ミオナです。」


ミオナは頭を下げながら自分の名前を告げた。するとケンの後ろに立っていた司教と呼ばれていた男が進み出てきて、


「では、私も自己紹介を。パレモ王国第一教区司教・ナモンと申します。」


ナモンが礼をすると、事務部長とミオナとボクは反射的に礼を返した。


「では、客人達がこの世界にきた理由だが・・・。」


「ケンさんごめんなさい! 一つだけ質問いいですか!」


 ミオナがケンの話を遮った。ミオナはやけにソワソワしている。


「おう、いいよ。聞いてくれ。」


「事務部長が・・・若返ってる!? んですけど・・・。」


 人の話を遮ってするような質問なのか、ミオナよ。ナゼ、事務部長が若返っている? かもしれない事がそんなに気になるんだよ!


「後で聞けばいいかなと思ったんだけど、どうしても気になっちゃって。ケンさんの話が入ってこないといけないから、まず、教えて欲しいんです。」


「気になるよなあ。この世界に召喚された人間は20代前半の肉体で召喚されるんだよ。俺も向こうの世界では37歳だが、この世界ではみての通り20代前半だ。」


 20代前半!? いや、どーみたって30代半ばだよお前のゴリラ顔はよ! と思ったが、恐くて言えないボクがいた。当の事務部長は自分の顔を触ったり、腕をさすりながら、


「若返っているのか・・・!? 鏡がないからわからないが・・・確かに肌の感じは若い時のもののようだが・・・。」


 事務部長は40代中盤だろうから、20代半ばともなれば顔つきも違うだろう。いや、それだけではない・・・、


「事務部長! 眼鏡は!?」


 ボクは叫んだ。そうだ、顔の印象が随分と違うと思ったのは事務部長がかけている眼鏡がないからだ。


「あ、言われてみれば・・・眼鏡してないな・・・。でも、ハッキリ見えている。というか、川本君。君のお腹・・・。」


 お腹!? と言われてボクはワガママに育てた膨れ上がった腹に視線を落としながら両手をあてる。


「ええ!?」


そこには20代前半の頃の、無駄な膨らみを一切帯びていないお腹があったのだ。


「あー、へっこんでるー!」


 ミオナは驚きの声を発しながらボクの方にかけよってきて、ひっこんだボクのお腹を平手でペシペシやってくる。実はミオナはボクの膨らんだお腹を平手でペシペシやるのが大好きなのだ。


「あー!」


 ボクの顔を間近でみたミオナが再び驚きの声を上げる。


「川本さん! 髪の毛生えてるよ!」


「え!?」


 ボクは自分の頭皮に手の平をあてた。エム字禿げが進んで剃り込みのようになっていた場所に確かに毛が生えている!


「うおーー!」


 ボクは喜びの雄叫びをあげた。こんなに大きな声を出したのは何年ぶりだろうか。ボクの肉体も20代前半に戻っていたのだ! そうか、さっき四つん這いの姿勢からキビキビ動けたのも若返ったからこそできた事だったのか!


 ミオナ! お前、最高の質問を最初にしてくれたな。事務部長の事を気にかけて質問した事に関しては平手のお腹ペシペシをしてくれた事で許してやる。


「・・・そろそろ・・・よろしいですかい。」


 ケンがボクとミオナのじゃれ合いを静止するかのように口をはさんできた。ミオナはさっきのボクが若返ったことへの興奮を即座に納め、ケンのほうに向きなおる。ボクとしてはミオナのじゃれ合いに付き合ってやってもよかったのだが・・・。

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