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婚約!?

「川本様! 皆様! お疲れ様でございました!! それでは皆様の勝利に・・・乾杯!!」


 領主・ヤコスの発声で宴が始まった。


 昨日の宿舎の食堂では狭いとみえて、町の中心の広場に作られた特設会場で宴は開かれた。


 あたりは夕闇に包まれはじめてきており、各所に松明がくべられている。


 こういう雰囲気は嫌いではない。


 宴席のテーブルはコの字型に配置されていて、ボクはコの字の背にあたる部分のテーブルの中央の席に案内された。

 このテーブルは上座にあたり領主を始めとする領内の有力者であろう人々の席だ。


 他の部隊員達は左右のテーブルに別れ座っており、ボクから向かって右の列の先頭から部隊長、副部隊長、以下部隊員、左の列の先頭から事務部長、ミオナ、以下部隊員の順にならんでいる。


 事務部長もミオナも異界の戦士なので部隊員の中では上席だがボクとは明らかに扱いが異なる。

 というか、部隊長達が座っている位置から考えると、ボクが座っている場所は本来は領主が座る場所であり、そもそもダンジョン攻略の遠征部隊の人間を座らせることはないのではないか・・・。


 ボクは乾杯の飲み物を口にした。


 アルコール? が入っているようだが甘くて飲みやすい。


 ボクはアルコールが飲めないわけではないが、飲み会等は尽く断っていたし、飲みにいくような友達もいないし、晩酌もしないので、アルコールというとイヤイヤ出た成人式でちょこっと飲んだビールの苦い味の記憶くらいしかないので正直苦手意識をもっていた。


 そういえば、ミオナが甘いお酒もあると言っていたことがあるが、向こうの世界にも飲みやすいアルコール飲料はあったのかもしれない・・・。


「ささ、川本様、もう一杯いかがですか?」


 ボクがグラスを半分まで空けたのをみて、ボクの左手側に座っているすヤコスがすかさず声をかけて来た。


 するとボクのグラスを持っている右腕が柔らかな感触に包まれた。


「え、ええ、では・・・。」


 ボクはヤコスの問いに答えたがそれどころではなかった。ボクの右側にはキャミソールのような服の上にレースの羽織物をした二十歳前くらいの若い女性がお酌をするためにピッタリくっついて来たのだ。


「かしこまりました。」


 彼女は透明感のある声で返事をすると先ほどと同じ飲料をボクのグラスに注ぐ。


 うつむいた彼女の青色のロングヘアーからいい匂いが漂ってくる・・・。


 この女性・・・ヤコスの三番目の娘さんでシィルと言う名前だ。


 ボクの接待役ということでボクの隣に座っている。


 乾杯の時も同じようなシチェーションで彼女がグラスに飲み物を注いでくれた。


 ボクはアルコールが苦手なので、ソフトドリンクでと言おうと思ったが、彼女がボクに体を寄せながら、


「当地の名産のお酒です。いかがですか川本様・・・?」


 と囁くように上目遣いで言ってきたので、ついカッコつけて、


「是非・・・。」


 と言ってしまったのだ。


 年齢=彼女ナシのボクにとっては全く免疫のないシチェーションだ。


 接待役の女性はボクのところだけでなく部隊員達のところにもついているが、マンツーマンではなくドリンクサービス係といった感じの動きをしている。


 ボクは色気のある女性にドギマギしているボクをミオナがどう見ているんだろうと思い、ミオナに目をやるとミオナは珍しい食べ物を頬張りながら事務部長と談笑していた・・・。

 

 美しい女性が隣にいてボクの接待をしてくれてはいるものの、ヤコスがこの食材は王都でも大人気だとか、この料理はこの地の名物だとかと言ってきたり、ボクについての質問をしてくるので、ボクは一々それに受け答えをしなくてはならない。

 これではまるでボクがヤコスの接待をしているようなものだ。


 ミオナの隣に座っている事務部長の席がボクにとっては特等席にみえる・・・。


「お食事中ではございますが、皆様、祝いの舞をご覧ください!」


 宴がはじまって一時間ほどした頃、司会者のアナウンスが聞こえた。

 

 アナウンスから少し間の後、ボクの後方に控えていた楽団が中東風の音楽を奏でだした。

 すると、ボクの前方の左右の建物の影から色とりどりのブラジャーといっても過言ではないようなトップスと紐パンティーだけを纏った若い女性の踊り子集団が現れ、踊りながらコの字型に並べられたテーブルの中央のスペースにくると、妖艶な踊りを披露した。


「いかがですかな? 川本様。」


 ヤコスは得意気にボクに聞いてきた。


 ヤコスからすればこの手の接待で悦ばない男はおるまいということなのだろう。


 だが、この手のモノに免疫が全くないボクは、こういう時にどういうリアクションを取ればいいのかわからず、逆に居心地の悪さを感じていた。


「え、ええ。いいですね・・・。」


 なんとか言葉を絞り出した。


「ハッハハ、まだこの世界に来て日も浅いとのことなので、いろいろ遠慮なされていると聞いておりますが・・・、川本様、このヤコスの領地では遠慮は無用ですぞ!」


 ボクのドギマギした返事を聞いて、ヤコスは「遠慮している」とポジティブに捉えてくれたようだ。ヤコスにお酒が入っていることもあるのだろうけど、「選ばれし者」の肩書と実力がボクの発言を全てポジティブなものだと周りに認識させるのだおる。


 ふとミオナの方に目をやると、自席で音楽に合わせてノリノリで腕を振っているミオナに向かって。踊り子の一団のリーダーと思しき女性が手招きをしていた。


 ミオナは最初きょとんとしていたが、踊り子はそんなミオナにさらに手招きをする。


 すると、手招きの意味を察したのか、ミオナは立ち上がって跳躍。ジャンプ力を強化するスキルを発動させ易々とテーブルを飛び越えると踊り子たちの輪の中に飛び込み、踊り子たちと一緒になって踊り出した。


「おお!!」


 会場に歓声が沸いた。


 踊りのパターンを見て覚えたのだろうか、ところどころ独自のアレンジのような物も見て取れるがミオナの踊りはサマになっている。

 妖艶というよりはカッコいい。

 他の踊り子たちと同じ衣装を着ていれば艶やかさがでただろうが、キャミソールのパンツスタイルでは無理もない。もっとも、背も低いし胸も控えめなので同じ衣装でもどこまで張り合えるものか・・・。


「ほほほ、川本様はあの『異界の戦士』の女性・・・ミオナ様と言ったか・・・がお気に入りで?」


 ボクのミオナへの視線に気づいたのだろうか、ヤコスが笑いながら聞いてきた。


「い、いえ。彼女は先ほどもお話しましたように、元々同じところで働いていた仲間なので気になっただけですぅ・・・。」


 本当は大好きです! と言いたいところだが、初対面の人の前で言うことではない。


「それは安心しました。シィル、川本様のグラスにお飲み物を。」


「はい。」


 ヤコスに促されてボクの右側にいるシィルが先ほどと同じようにボクに密着しながら、半分飲み物が残っているグラスに飲み物を注いでくれた。


 またしてもドキドキするボク。


 ヤコスはそんなボクの表情を見て、


「どうです? わが娘シィルは? まだまだ気が利かぬところもありますが、気に入っていただけましたか?」


「あ、はい。」


 ボクはよく考えずに何気なく返事をした、それを聞いたヤコスは、目に光を宿すと、


「もし、川本様さえよければ、シィルをお傍においていただけませんか?」


「え?」


 ボクはヤコスの言葉を聞いて固まってしまった。


 お傍においてって・・・娘さんをボクにどうぞって事!?


 生まれて初めて言われた言葉に、腹の底から何か熱いものが込み上げてきた。なんだこの感情は!? 高揚感ってやつなのか!?


 ボクはハッとして右手側にいるシィルの方を向いた。


 飲み物が入った容器を胸元で両手で抱えるように持っていたシィルは、ボクと視線が合うと照れくさそうな表情を浮かべながら視線を下にそらしたが、しばらくして視線を戻すと、恥ずかしさと喜びが混じったような笑みをボクに向けながら、


「私でよければ・・・是非。」


 とボクに向かって呟いた・・・。


 松明の炎に照らされているせいもあるだろうがシィルの頬が紅くなっているように見える。


(えええええええ!!)


 人生未踏の衝撃の展開に自分の顔の全パーツが全力で外に引っ張られているかのような驚きの表情をボクは作っていた。


 どうやら彼女も満更ではないらしいッ!!


 この手のパターンだと父親は乗り気だが娘は全く気が無いパターンもあるが、そうではない!!


 人生初のモテ体験に胸の鼓動は一層激しくなり体中から熱が込み上げてきた。高揚感は倍加され、興奮が全身を駆け巡っているのを感じた。


 演奏が終わった。


 ハッと正面に目をやると踊り子達は踊りの締めのポーズを取っていた。


 ワーッという歓声と拍手が会場から湧いた。

 ボクも拍手を送る。


 踊り子たちは、大きく礼をした。踊り子たちと一緒に踊っていたミオナも一緒になって礼をする。


 それを受けて拍手が一層大きくなった。

 よく見ると広間を囲むように建っている建物沿いに町の人々が並び拍手を送っている。どうやら、音楽につられ見物に集まってきたようだ。


 拍手が一段落すると踊り子達は自分の立ち位置の近くの観客に挨拶をしだした。


 なぜかミオナも踊り子達同様、観客に挨拶をしている。


 ボクの一番近くにいたのは踊り子のリーダーと思しき女性。彼女はボクとヤコスに笑顔を向けながら近づいてくる。


「ヤコス様、本日はお招きいたただきありがとうございました。」


 褐色の肌に黒いストレートのロングヘアー、しっかりと上がった口角とやや釣り目気味の半目は、踊り子の衣装と相まって妖艶な雰囲気と色気を漂わせていた。


「おおー、ミズホ殿。相変わらず素晴らしい舞だったわい。」


 ヤコスの賛辞を受けるとミズホと呼ばれた女性は、


「ふふふ、ヤコス様。私共の舞を本当に見ておられましたか? 川本様と熱心におしゃべりされていたようですけど?」


 と意地悪そうな笑みを浮かべつつ、ヤコスのグラスにお酌をしながら言った。


「ははは、さすがはミズホ殿。よく見ておられる。」


 そういうとヤコスはミズホが注いだグラスを一気に飲み干した。


 ミズホはボクの方に向き直って、


「川本様。私、本日舞を披露させていただきました一座のリーダーを務めております、ミズホと申します。以後、お見知りおきを。」


 と自己紹介すると笑みを浮かべた。シィルのあどけない笑みもいいが、ミズホの妖艶な笑みもいい!!


「あ、宜しくお願いします。」


 ボクが返事をするとミズホは軽く頷くとヤコスの方を向き直り、


「ヤコス様・・・異界者庁を通さずに『異界の戦士』と約束したことは後でなかったことにされてしまうことはご存じでしょうに。」


 ミズホは少し呆れた顔で言った。


「それは承知のことよ。だが、私程度の者では異界者庁経由で『選ばれし者』である川本殿と接触することなどまずできぬ。この遠征は千載一遇の好機ゆえ。」


 そういえば、ミサトさんが「異界の戦士」と話をしたければ「異界者庁」を通じてと言っていた。

 ただ、今回のように「異界の戦士」の遠征の宿泊先として指定された場合は、そこの領主は異界の戦士と話や食事をしてもよいが、異界者庁に届け出をしていない約束事等を異界の戦士とした場合は「無効」にされてしまうということなのかな・・・?

 そんな疑問が湧いたが、この場で質問して長くなると面倒なので胸の中に押しとどめておくことにした。


 ん? でも、娘さんをどうぞって言われたけど、ボクがシィルをもらい受けるって約束しても、無かったことになっちゃうって事!?


 ハッとしたボクはシィルのほうを振り返った。


 シィルは先ほどと同じ熱い眼差しでボクを見つめていた。

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