酷使無双
「川本さん!! 行きましたよ!!」
ミオナがボクを呼ぶ声が聞こえた・・・。
そんな大きな声で言わなくても分かってるよぉ・・・。
ボクは右腕を構え声を発する、
「せいどうの剣!!」
ボクの右前腕を囲むように光が収束し、やがて腕を覆う光臨となる。
「グオオオオオオン!!」
ライオンの体に人間の顔を持つモンスター・マンティコアがボクを喰らわんと飛び込んできた。
分かっている分かっているんだ・・・ボクの前には『せいどうの盾』というあらゆる攻撃を防ぐ障壁が展開されていることを・・・。
でも、全長4メートルはあろうかという巨大なモンスターが蝙蝠のような翼を広げ、鋭い歯が何列にも並んでいる巨大な口を開き、地響きのような咆哮をあげながら、自分目掛けて突進してくるのを目の当たりにして腰が引かない人がいるだろうか?
『せいどうの盾』の弱点は障壁が可視化されていないため、相手の姿がハッキリ見えてしまうのと、本当に障壁が展開されているのか不安になってしまうところだ。
「ひぃ!」
ボクは腰が引けて、ついには尻餅をついてしまった。
シュゴオオオオオオオオオオオ!!
ボクが尻餅をついたのと同時位に『せいどうの剣』の光の放射が始まった。
『せいどうの剣』の弱点は光の収束が行われ、暫く経ってから光の照射が行われるところだ。『せいどうの剣』と言ったと同時に光の照射が始まれば、こんな恐怖にさらされることもないのに・・・。
ボクに飛びかかってきたマンティコアは『せいどうの盾』にぶつかる前に『せいどうの剣』の照射を顔面に受け体の中心にポッカリと大穴をあけた。
パシッ! バシッ!
胴体を失いバラバラになったマンティコアの体の一部分がボクの『せいどうの盾』にあたり弾き返される。
やがて光の照射が終わると、地面に落ちていたマンティコアの体の破片は灰になって消えた。
「ふぅーーーー。」
ボクは尻餅をついたまま息を大きく吹いた。
右腕をつきだして『せいどうの剣』と言っただけなのだが、一仕事終えた気分だ。
「やりましたね、川本さん!」
「お見事! 川本君!」
ボクから離れた場所にいたミオナと事務部長がボクの傍に駆け寄ってきた。
「えぇ、まぁ。」
テンションの高い二人と対照的にボクは静かに立ち上がり、お尻の砂を払った。
(ちくしょう・・・何でこんなことに・・・。)
ボクは心の中で不満を呟いた。
「それじゃあ、ボスモンスターも倒しましたし、戻りましょうか。」
ミオナの言葉にボクは無言で頷くと、ミオナの前に出て歩き出した。
そう、ボク達はダンジョン攻略に来ていた。
今回で5回目になる。
あの日、食堂でミサトさんに提案・・・といかホボ命令なのだが・・・されたのは、ボクにダンジョン攻略を専門に行って欲しいということだった。
異界者庁では「異界の戦士」のスキルツリーを自由に閲覧できるようになっている。
これは「異界の戦士」にとっては希少スキルのデータベースとして利用できるものだが、こちらの世界の人間にとっては、特別な任務を異界の戦士の誰に依頼するのか、ダンジョン攻略に同行してもらう異界の戦士は誰にするのかを決める重要なデータとなる。
勿論、任務によっては本人の性格であったり、ダンジョン攻略においては部隊長との相性もあるので、スキルツリーで全てが決まるわけではないが。
ミサトさんの見立てではボクのスキルツリーがダンジョン攻略に非常に適しているという。
狭い場所が多いダンジョンでは、回避系のスキルは自由に動ける場所が限られているため真価を発揮しづらいが、自身の周囲に防御壁を展開する防御系のスキルである『せいどうの盾』は、狭い場所の方が有利。
人一人しか通れないような狭い通路ならば前方の敵の攻撃を完全にシャットアウトできる。
『せいどうの剣』も先日の実験でモンスター以外の物には全く効果がないことが証明されたので、ダンジョンを破壊することもないし、乱戦になっても味方に当たることを気にせずに使うことができる。
そして『侮られし者』。常に自分がボスモンスターの攻撃ターゲットになるというクソスキルに見えるのだが、ボスモンスターの攻撃は『せいどうの盾』で防ぐことができるし、ボスモンスターがボクを狙ってくる・・・裏を返せばボクからも狙える位置取りを自らしてくれるので『せいどうの剣』を容易に当てることができる。
しかも、強力な攻撃力を持っているボスモンスターの攻撃に味方が晒されることもないので、部隊のボスモンスター対策は、ボスモンスターの攻撃の巻き添えにならないように、ボクから離れることだけでよいのだ。
かくして、ミサトさんがボクのスキルの有用性を公表してくれたお陰で、ミサトさんの狙い通りダンジョン攻略を行う各部隊からボクへの参加要請が殺到した。
通常、ダンジョン攻略に参加した異界の戦士は、ダンジョン攻略の翌日から最低でも五日間の休息期間を挟まないと次のダンジョン攻略に参加できないようになっている。それはボスモンスターの強さがどんなものか分からないため、異界の戦士といえども常に万全の状態でダンジョン攻略には臨まないとならないためだ。
だが、ボクはダンジョン攻略の翌日のみ休めばよいという設定にされてしまった。
ミサトさんいわく「ボスモンスターに苦戦することはないから」とのことだ。
確かにボクはボスモンスターに苦戦することはないが、ダンジョンを歩かないといけないダンジョン攻略は疲れるし面倒くさい・・・。それを一日おきにやらなくてはならないとは、これが「選ばれし者」の仕事だろうか・・・。
対してボクとの決闘に敗れた大鉄は王都の防衛任務についている。
王都の防衛任務は王都に襲いかかってきたモンスターを迎撃するものだが、王都にモンスターが襲ってきた場合、まずは衛兵がモンスターと戦い、衛兵では手に負えない時だけ「異界の戦士」が呼ばれるというものだ。
強力なモンスターが王都に襲い掛かってくることは、ほとんどないそうだが万が一の事を考えて実力者を配備するようになっているので、ボクの次に強い大鉄が任されているというわけだ。
ナンバーワンのボクがドサ回りをやらされて大鉄は王都でヌクヌクしているというのは納得いかないぞ・・・。
ちなみにボクのダンジョン攻略にはミオナと事務部長が常に同行している。
二人の同行はボクがミサトさんに付けた条件だ。
決してボクがダンジョン攻略に駆り出される間、二人が王都でヌクヌクしているのが腹立たしいとか妬ましいということだけではない。
ダンジョン攻略はこちらの世界の攻略部隊と行動を共にしなくてはならなくなる。
そうなると部隊長と事前の打ち合わせが必ず発生してくる。
ボクが一人で参加となると当然ボクが打ち合わせをする必要があり、打ち合わせ自体は長時間ではないものの、休息日であるハズのダンジョン攻略の翌日にやる羽目になる。
また、ダンジョン攻略部隊も常に固定の部隊ではないため、打ち合わせの時に部隊長と初顔合わせというパターンになるだろうから、人見知りなボクは緊張を強いられてしまう。
ということで、その手の仕事を得意とする事務部長に、部隊長との初顔合わせからの打ち合わせ、当日の部隊長とのやり取りを任せることにしたのだ。
ボクは事務部長が部隊長と打ち合わせてきた事、話してきた事の報告を簡単に聞くだけでいい。
ミサトさんと事務部長には、英気を養うために休息日は休養に専念したいし、ダンジョン攻略の際には戦闘に集中したいから事務部長に以上の仕事を任せたいと言った。
二人は即座に快諾してくれた。
ボクの戦闘力を考慮すれば、戦闘に関しない雑事をやらせるべきではないと当然なる。
ミオナに関しては、事務部長がどう思っているかは別として、ボクは事務部長を信頼していはいるが、仲が良いわけではないので、ボクと事務部長の間のコミュニケーションを円滑に取ってもらったり、部隊員とボクのコミュニケーションを円滑にとってもらうために同行してもらおうと考えていた。
だが、ミオナはボクがミオナの同行を口にするよりも先に、二人が行くのなら私も! と自発的に参加を申し出てくれた。
ボクは渡りに船とばかりに、可能であれば彼女の意向を尊重していただきたいですとミサトさんに頼むと、サトさんは事務部長に何かあったときのバックアッパーとして同行してもらいましょうということで許可を出してくれた。
そのため、ダンジョン攻略前日の部隊長との打ち合わせには事務部長だけではなくミオナも参加している。
「今回は宿泊なのでゆっくり休めますね。」
ダンジョンから出るとミオナが中衛から最前列のボクのところに駆け寄って来て、そう言った。
「そうだね。」
ダンジョン攻略の際は『せいどうの盾』を持つボクが常に前衛の先頭・・・要は全部隊の先頭・・・を歩き、ミオナが中衛の部隊長の脇に、事務部長が後衛の最後尾という配置になっている。
今回攻略したダンジョンは王都から日帰りで攻略できる距離にあるダンジョンではないため、ダンジョン近くの町に前泊し、ダンジョン攻略後もその町に宿泊し翌日王都へ帰還する流れになっている。
そのため、日帰りのダンジョン攻略よりもゆっくり過ごせるというわけだ。
「今日は領主様が御馳走を用意して待っていてくださるって朝おっしゃってましたから、楽しみですね!」
歩き詰めのダンジョンから出てきたばかりだというのにテンションが高いなぁ、ミオナは。
だが、ミオナのハイテンションぶりとは反対にボクは憂鬱だった・・・。
昨日、領主はボク達が町に入ってい来るのを、町の入口でわざわざ待っていてくれて、馬車から降りたボクの顔を見るなり「選ばれし者」がこの辺境の地に降臨なされた! といって叫んでいた。
領主がそんな具合だから町の住民達もボクの事を知っていたのだろう、ボクの顔を一目見ようとする人だかりが町の入口から宿舎にいたるまでできていた。
領主は昨日も歓待の宴を開きたかったようなのだが、異界者庁よりダンジョン攻略に万全の体制で臨むために、ダンジョン攻略前日の宴や必要以上の面会・面談は固く禁じられているとのことだったので、領主の熱烈な挨拶を受けた後は、領内の要人と面会することもなく、町の宿舎で食事をとった後、床についた。
だが、ダンジョン攻略後は「翌日の王都への帰還にさしつかえないように」という、あってないような制約しかないため、出発前に領主から、ダンジョン攻略から戻ってきた際には盛大な祝勝会を開きますと、わざわざボクに言ってきたのだ。
この感じからすると特等席みたいなところに座らされ、何か挨拶してくれとか言われかねない・・・。苦手なんだよなぁ・・・そういうの・・・。
ボクにとってはダンジョン探索よりも酷かもしれない・・・。
馬車の幌に乗り込み町に向かっていると、幌の後方の幕が開いた。
「川本さん! もうじき到着です! 入口で領主様が待ってますよ!」
開いた幕の間から顔を出したのはミオナだ。
ミオナと事務部長は『乗馬の知識』というスキルがあるので、馬に乗ることができる。
部隊長や部隊員との連絡や偵察、移動中のモンスターの襲撃等に備えて移動時は、どちらかが必ず馬に乗っているようにしている。ちなみに今は二人とも馬に乗っている。
尚、ボクには『乗馬の知識』は無い。
「じゃあ・・・そろそろ降りる準備するね・・・。」
別に領主の館まで馬車で乗り入れてもよいのだが、町の入口で領主が待っているとなれば話は別だ。
やがて馬車が動きをとめた。到着したようだ。
ボクは幌から降りると、領主に挨拶するために下馬している部隊の列に合流した。




