せいどうの剣の秘密
「おおおーーー!!」
「凄い!! あれが『選ばれし者』の力か!」
『せいどうの剣』が天井を突き破らなかったことに唖然としているボクを差し置いて、部隊員達はボクの圧倒的なパワーを目の当たりにして大騒ぎだ。
「『せいどうの剣』・・・話にはきいておりましたが、ボスモンスターをいとも簡単に倒してしまうとは・・・。なんともはや・・・。」
ヒョウドの独り言のような賞賛の言が聞こえてきた。
『せいどうの鎧』による肉体強化があってこその逆転なのだが、やはり『せいどうの剣』の圧倒的破壊力と光の照射という演出(?)が注目されてしまうのは仕方のないことだ。
「いやあー、川本さん。ボスモンスターを見事に油断させやしたね。」
「?」
ボクの背後からケンが話しかけてきた。
油断させた? どういうこと?
「あ、ケンさん大丈夫でしたか?」
ボクのそばに来ていたミオナがケンに話しかける。
「ええ、川本さんがボスモンスターを倒したとたん、体に絡まっていた糸もボロボロと灰になりやして。」
そう言われてボクは足元を見回した。
確かにボクの体を繭玉のように覆っていたハズのダークスパイダーの糸の塊は跡形もなく消えていた。
「あっしは川本さんの後ろにいたんでハッキリ見えたんですが、ボスモンスターの糸の噴射・・・。バッチリ『せいどうの盾』で防がれてやしたよね。ボスモンスターは、川本さんの周囲を覆っている『せいどうの盾』を糸で覆っただけなのに、川本さんの身動きを封じたと思い込み、トドメをさそうと飛び込んだところを川本さんのカウンターにあったわけだ。」
あ・・・ダークスパイダーが糸で作った繭玉の中でも、『せいどうの鎧』の肉体強化のおかげで、いつも通り自由に動けると思っていたけど、そもそも糸はボクに届いていなかったのか・・・。
「え、ええ・・・。」
ボクが苦笑いをしていると、ボクの様子を見ていたミオナがニヤニヤしながら、
「川本さん・・・ボスモンスターが糸を吐いてきた時に絶叫してましたけど、あれは糸が体に絡まってきていると本気で思っていたからじゃないですかぁ?」
とボクに質問してきた。
鋭いよミオナ・・・。
「ミオナさん・・・違いやすよ、あれはボスモンスターを油断させる迫真の演技ですよ・・・。」
ケンが真顔でミオナの意見に反論してきた。
それを聞いたミオナが口を開こうとした瞬間。
ポンッ!
ミオナの右肩を事務部長が軽くたたいた。
「え?」
ミオナが後ろにいる事務部長の方に顔を向けると、事務部長はミオナの顔を見て小さく首を三回ほど振った。
「あ、はい。」
ミオナは事務部長が言わんとしていることを悟ったようで、それ以上ボクに突っ込んでくることはなかった。
『選ばれし者』として賞賛されているボクに、衆目の前で恥をかかせるような事を言うなということだ。
勿論、二人きりのときであれば、そういうジャレ合いがあってもいい。
ただ、事務部長のボクへの配慮は嬉しいが、ボクでさえ触れた事のないミオナの肩を気安く、しかも、いやらしさを一切感じさせずにスマートに触っている様は腹立たしい。
しばらく広間で休憩をとった後、来た道を逆に辿り外へと向かう。
休憩中、ボクは皆から声を掛けられ続けたので全然休んだ気になれなかった。
ダンジョンの道中、ミオナや事務部長が皆と親しげに話しているのを見て軽い嫉妬を覚えたが、休まる暇がないくらいなら独りでいる方がマシだと思ってしまうボクだった。
ボスモンスターを討伐するとダンジョンからモンスターは姿を消してしまうようで、帰り道にモンスターと遭遇することはなかった。
とはいっても、今まで攻略してきたダンジョンはそうだったということでしかないので、モンスターの襲撃に備え隊列を組み、一定の緊張感は維持していた。
ボク達がダンジョンの外に出ると、ダンジョンに入らず表で待機していた輜重隊がボク達にパンと水を手渡してきた。
ボク達は思い思いの場所に座り食事をとる。
ボクが食事をとり終えると隣に座って既に食事を終えていたケンが、
「川本さん、ちょっといいですかい?」
と話しかけてきた。
「うん? 何?」
疲れていたボクは極力エネルギーを使わないように短い言葉で愛想なく返事をする。
愛想なく返事をするのは疲れて休みたい時に面倒なことを振られたくないからだ。
向こうの世界では仕事中は常にこのような態度でいることで面倒ごとを回避していたのだが、こちらの世界では勝手がわからないので、まだ猫をかぶって愛想よく振舞っていたが、疲労が蓄積しているこの状況下で素が出てしまった。
「『せいどうの剣』のことですが・・・、ちょっと確認しておきたいことがありやして。」
ボクのそっけない口調を気にすることなくケンが話を続ける。
ボクも『せいどうの剣』については確認したいことがある。
「えっと・・・『せいどうの剣』が天井を貫通しなかったこと?」
「そうです。あれは何だったんだろうと思いやして。ちなみに『せいどうの剣』のスキルの効果ってどうなってます?」
「えっとぉ・・・。」
ボクはスキルツリーを眼前に展開し、『せいどうの剣』のスキルを読み上げる、
「ランク・S/名称・せいどうの剣/効果・モンスターをなぎはらう剣・・・てなってるけど・・・。」
ケンは顎をこすりながら、
「なるほど・・・モンスターをなぎはらう剣・・・もしかしたしたら、モンスター以外には効果がないってことかもしれやせんね。」
と推論をのべた、すると隣で聞いていたミオナがハイテンションで、
「なら、ちょっと実験してみましょうよ! 『せいどうの剣』の効果をちゃんと知っておいた方が川本さんも便利だろうし!」
と身を乗り出しながら言ってきた。
ボクはダンジョン探索で疲れて休みたいのだけど、ミオナのこのハイテンションぶりは何だ・・・ランナーズハイというやつなのか・・・。
ちなみに『せいどうの鎧』は肉体強化はしてくれるが、疲れなくするという効果はないようだ。むしろ、肉体強化の反動で疲れが増しているような気すらする。
本当は「また今度と」断りたいくらいだがミオナが目をキラキラ輝かしてボクの顔を覗き込んでくるので断れない・・・、ボクはしぶしぶ、
「そうだね・・・ちゃんと確認しようか・・・。」
と、他人事のように言って立ち上がった。
「ダンジョン内部の材質は特殊な材質なので『せいどうの剣』が効かなかっただけかもしれやせん。なので、あそこの丘の中腹あたりを狙って『せいどうの剣』を放ってみてくだせえ。」
と言うと、ケンは前方の小高い丘を指差した。
丘の中腹を狙って上向きに『せいどうの剣』を放てば、『せいどうの剣』の放射が丘を突き抜ける事があっても、その先の空に抜けていくので二次被害はない。
ボクは右手を丘の中腹付近にかざし、
「せいどうの・・・剣!」
と口にする。
ボクの右手に光が収束し、やがて光の放射が始まる。
シュゴオオオオオオオオオオオ!!!
丘の中腹に光の放射が激しくぶつかる。
だが、光が丘を突き抜けている様子はない。やはり、ケンが言う通りモンスターにしか効果がないのかも・・・と思ったその時だった、
「え!?」
『せいどうの剣』の光の放射の中にミオナが飛び込んできた!
光はミオナの体を貫通しているようではなかったが、ボクは慌てて右手を上空へと振り上げた。右手の動きに合わせて光は上空へ向かって放射される。
スチャッ!
ミオナは着地すると自分の体を見回しボクの方を向いて、
「体にも服にも何の影響もなさそうです。モンスターにしか効果ないみたいですね。」
と何食わぬ顔で言ってきた。
どうやらミオナは『せいどうの剣』が人間にとって無害かどうか確かめるべく飛び込んだようだ
。
ミオナの奇行にボクがあっけにとられていると、
「松田! 危ないだろッ!」
事務部長が声を荒げてミオナに注意した。
ミオナは事務部長に怒鳴られたのにも関わらず何食わぬ顔で事務部長の方を向き、
「大丈夫ですよ部長! 私、『不死身の戦士』っていう死なないスキルあるんで!」
と笑顔で答えた。
それを聞いた事務部長は呆れた表情で、
「あのなぁ・・・『不死身の戦士』は戦闘不能になったら、戦闘不能のダメージが癒えるまで、どんなところか分からない別次元に送られて傷が癒えるまで痛みに襲われ続けるんだぞ・・・。しかも、復活する安全な場所もどこだか分からないというのに・・・。」
とミオナに言う。
ミオナは、その話を聞いても動ずることなく笑顔を浮かべ、、
「それがどんなものか体験してみるのも悪くないかなって。」
ミオナの答えに事務部長はしばらくあっけにとられると、
「ははは・・・まいったな松田さんには。ふふふ・・・。」
と笑い出した。
『せいどうの剣』の光の放射は既に終わっていた。
「丘を見たところ『せいどうの剣』の放射がぶつかっていたところも、貫通するどころか青々と草が茂ったままのようですし、モンスターにしか効果はないってことでよさそうです。」
とケンが言った。
もしかすると・・・大鉄との決闘の時に『せいどうの剣』を建物や大鉄に当たらないように放ったつもりだったが、当たってたのかもしれないな・・・。
と、ボクが少し考え事をしていると、いつの間にかボクの近くにやってきたミオナが、ボクの顔を覗き込みながら、
「あれだけの威力をもった攻撃なのにモンスターにしか効果がないって凄く便利ですよね! さすがSランクスキル!」
とハイテンションで言ってきた。
「そ、そうだね・・・。うん。」
確かにミオナが言うように便利ではあるが、そうなってくるとダンジョン攻略はボスの間まで歩いていかないといけない・・・。『せいどうの盾』の防御力を合わせれば、ボスモンスターを完封できるということで、今後いいように使われそうで思いやられる・・・。
やがて部隊の休憩が終わりボク達は馬車に乗り帰路についた。
ミオナと事務部長はダンジョン攻略の興奮が冷めないようでケンを交えて話しをしていたが、ボクは疲れたので馬車の中で眠りについた。




