強すぎるが故の枷
ダンジョン入口でモンスターの群を退けたボクらは、ダンジョンの奥へと進んでいった。
ダンジョンは外観の通り地下に広がっていた。
緩やかな斜面や階段状の通路を下っていく。
ダンジョンの入口こそ広さと高さがあったが、箇所によっては二人で通れるくらいの幅しかないところもある。
途中、数匹のジャイアントバットやゴブリンが散発的に襲ってきたが、先頭を進むケンが軽く一掃する。
狭いところであれば背後を取られることもないし囲まれることもないので安心だ・・・もっともジャイアントバットやゴブリンに囲まれたところでケンが苦戦することはないのだろうが。
「おっと。」
ケンが立ち止まり、左腕を左やや後方に突き出した。「止まれ」ということだ。
ケンは振り返るとヒョウドに向かって。
「こっから先に広間がありやす。もしかするとボスモンスターがいるやもしれやせん。あっしがボスを引き付けるように飛び出しやす。」
ヒョウドはケンの言葉に頷くと、
「うむ。では全軍、ケン様が飛び出したら広間に突入し左右の壁沿いに展開しろ!」
と命を飛ばす。
ヒョウドの命令から五秒程おいて、
「いきやす!」
と言うとケンは広間へと飛び出して行く。
同時に前衛も動き出す。
ボクがモタモタしていては中衛以降が突っかかってしまうので前衛の動きに合わせてボクも動いた。
前衛の隙間から見える正面にはボスモンスターの姿は見えない、広間の中央まで進んだケンが周囲を見渡し入口側を振り返った瞬間、
「上だー!!」
ケンの叫びが聞こえた。
「え!?」
ちょうどボクが入口から広間に飛び出した瞬間だった。
本来ならば後ろが詰まらないように広間に出たら壁沿いに進まなくてはならないのだが、ケンの叫びに驚いたボクは上を見上げなら直進していた。
入口の上に体長3メートル程はあろうかという真っ黒いクモのモンスター「ダークスパイダー」が8つの足を広げ気配を消すようにして張り付いていた。足を広げた全長は6メートルはあるろうか・・・。
「ひええええええええ!!」
虫が苦手なボクは至近距離で見た巨大グモに腰を抜かす。
「ちいい!!」
そんなボクの頭の遥か上の空中にスキルで見えない足場を作り、その足場を蹴り上げてダークスパイダーに突進しようとするケン。
必殺の鉄柱蹴りをダークスパイダーにくらわそうとしたのだろう。
だが、ケンの動きを察知していたダークスパイダーは赤い6つの目のある顔をケンの方に向け口から物凄い勢いで白い糸のような物を噴射した。
「ぐおっ!!」
足場を蹴り上げた直後のケンは高圧で噴射された白い糸をかわすことができず、白い糸にからめとられながら広間の反対側の壁まで叩きつけられた。
「くうっ!」
ダークスパイダーが放射した大量の糸はケンの体とケンのぶつかった後方の壁にトリモチのようにまとわりつきながら堆積し、ケンの体を覆ったばかりかケンを壁に接着させてしまった。
「ケン様!」
ヒョウドの声が聞こえた。
「くうううう!! 動けん!!」
ケンは手足を動かそうとするも動かすことができない。
幸運にも顔は糸に覆われていないため呼吸はできるようだ。
部隊員全員が広間に入り、ダークスパイダーを囲んだ。
ダークスパイダーは動かない。
こちらも槍が届くような高さにダークスパイダーがいないこともあり容易には動けない。
「デミトリ、コーダ!」
「はっ!」
「はい。」
ヒョウドはダークスパイダーから目を離すことなく、ファイヤーショットを放てる兵士・・・デミトリというらしい・・・と回復スキル持ちのコーダの呼んだ、デミトリもコーダもヒョウドの方を向くことなくダークスパイダーを注視している。
「デミトリ、ファイヤーショットなら、ケン様にまとわりついた糸を溶かせるやもしれん・・・。頼めるか?」
「はっ!」
「コーダはケン様が負傷しているやもしれんので回復を・・・。」
「承知しました!」
「ボッツとシュウは二人の護衛につけ。」
ヒョウドは自身の両脇に控える盾を持った剣兵・・・ボッツとシュウ・・・に指示をだした。
デミトリとコーダはダークスパイダーに正面をむけて後ろ歩きでケンに近づく、ボッツとシュウは盾を正面にかざしながら、デミトリとコーダの正面に立ち二人と同じく後ろ歩きで進む。
「私の弓で攻撃しましょうか?」
いつでもダークスパイダーに矢を放てるように弓を構えているミオナがヒョウドに問いかけた。
ミオナは虫や爬虫類が好きなのでダークスパイダーを見ても気持ち悪さからくる嫌悪感は抱かないようで、いたって冷静だ。
「ケン様が戦線復帰できるまでは様子を・・・。」
とヒョウドが言いかけた瞬間、
ダークスパイダーは突然頭をあげた。
赤い4つの目はケンを助けにいったデミトリとコーダの方を見ているように見える。
恐らく先ほどケンに放った高圧噴射の糸で二人の動きを封じようというのだろう。
だが、二人には護衛がついているから、護衛が身を挺して守れば二人が身動きを奪われることはない。
ダークスパイダーの口から糸が高圧噴射された。
ボクの予想通りだ!
「松田様!!」
ヒョウドが叫ぶと同時にミオナの弓から矢が放たれる音がした。
「うわわああああああああああ!!」
広間に絶叫がこだまする。
ダークスパイダーの糸により繭玉のようなものが地上にできている。
絶叫は繭玉の中にいる者の声・・・。
ボクの声・・・。
この場にいる誰もが思っていたハズだ・・・ダークスパイダーはデミトリかコーダを狙っていたと・・・。
だが、ダークスパイダーだけは違った。
ボクの眼前はネバネバドロドロした白い糸で覆われ、何層にも重ねられることでボクの目に光は届かなくなり暗い繭の中に閉じ込められる。
だがボクは希望を失ってはいない・・・。
あの糸にやられたらケンでさえ身動きがとれなくなるが、ボクには肉体強化のSランクスキル『せいどうの鎧』がある!
ボクは体をかがめた。
動ける!! 繭の中でもいつもと同じ感覚だ!
やはり『選ばれし者』の持つスキルは違う。
「ダークスパイダーが飛んだ!? 槍兵! 槍を突き出して川本様を守れ!」
ヒョウドの声が繭の厚さのせいだろう、遠くに聞こえる。
ボクは繭玉を割って脱出しようと、かがんだ姿勢からジャンプをし右手を上空に突き出す!
ボクの頭上を覆っていた糸は、ボクの右拳が振り上げられると拳に触れる前にドロドロと溶け出す。
『せいどうの鎧』で肉体強化をされているボクのジャンプは通常のジャンプより遥かに高く、ボクを守るためにボクの周りで上向きに突き出されている槍の高さを悠々と越えた。
そしてボクの頭上には繭で身動きがとれないボクにトドメをささんと繭玉目掛けて飛び込んできたダークスパイダーが!
ダークスパイダーの気持ち悪さに目を抑えたくなる衝動に駆られたが、ボクは体勢を崩さなかった、
グシャアアア!!
ダークスパイダーの胸にボクの突き出された右拳がめり込んだ。硬さのあるダークスパイダーの外殻を突き破ると中には柔らかい肉と体液があった。
ダークスパイダーというだけあって、外殻だけでなく内部の肉も体液も真っ黒だ・・・。
(ここならば!)
「せいどうの・・・剣!」
ボクの声に反応してダークスパイダーにめり込んだ右腕前腕に光が収束する。
光に触れたダークスパイダーの体の部分は即座に消滅する。
ボクのジャンプはまだ続いていたので、右手前腕に収束した光の輪がダークスパイダーの胸を貫通する形となった。
ゴオオオオオオオオオオオ!!
『せいどうの剣』の光の照射が始まる。
実は出発前にケンにある事を提案していた。
ダンジョン攻略の目的はダンジョンの破壊なのだから、ダンジョンの入口で『せいどうの剣』をぶっ放せばダンジョンもろともボスモンスターも消し去ることができるだろうから、いちいちダンジョンに潜らなくてもいいのではという提案だ。
ケンは少し考えた後、確かにダンジョンを攻略するということだけを考えれば有効な手段だが『せいどうの剣』の破壊力・貫通力がどれくらいのものか把握できない以上、迂闊には使えないと言ってきた。
もし、地中に向かって『せいどうの剣』を照射した場合、ダンジョンを突き抜け地中の奥深くまで貫き、大地に大穴を開けた場合、この世界の地中がどのような構造になっているか分からないので、大穴から地中奥深くに眠るマグマのようなものが溢れ出てくるかもしれないし、地球のように世界が球形であれば、『せいどうの剣』のエネルギーがこちらの反対側の地表に突き抜けて甚大な被害をもたらすかもしれない。
また、ダンジョンに潜り横向きに『せいどうの剣』を照射した場合、射線上に照射した場所と同じ高さの場所に町等があれば、その町は甚大な被害を受けることになる。
となると、『せいどうの剣』は以前放った2回と同様、空に向かって照射するというのが二次災害を防ぐ最善の方法だということになる。
使用できる状況が制限されてしまうのは、強すぎるが故の枷である。
ボスモンスターを頭上に捉えているこのシチェーションこそが『せいどうの剣』を放てる数少ないチャンスなのだ。
光の放射によりダンジョンの上空には大穴が空き陽光が差し込んでくるだろう!!
『せいどうの剣』による攻撃は破壊するというよりも、消滅させるといったほうが正しい。触れた物は音をたてることなく粉々になって消滅する。
「ふーーーー。」
光の照射が終わると同時にボクは大きく息をふいた。ダークスパイダーの全身はとっくに灰になって消滅し、ボクは地上に着地している。
(あれ?)
目の前は暗闇に覆われてしまった。
『せいどうの剣』の猛烈な光量が途切れたので目が暗闇に順応しきれていないためだろうが、ダンジョンの天井に空いた穴から地上の光が差し込んでくるはずだから、こんなに暗くなることは無いハズだが・・・。
ボクは天井を見上げた。じょじょに目が暗闇に慣れてきてダンジョンの、ほのかな明るさを感じ取れるようになってきた。
「穴が・・・開いてない・・・。」
ボクはポツリと呟いた。
『せいどうの剣』の照射を受け続けていたハズのダンジョンの天井は、最初に見た時と何ら変わらないように見えた。




