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集団戦

「さあ、おいでなすたぜぇ!」


 ケンの飛び蹴りが炸裂する!!


「グギャアアア!!」


 子供くらいの大きさの小鬼のモンスターであるゴブリンの顔にケンの横蹴りがめり込むと、その勢いでゴブリンは奥へとふっとばされ、奥から湧いてきたゴブリン達に激しく衝突した。


 ボク達がダンジョンに侵入した瞬間の出来事だった。モンスター達はダンジョンの外には出ていなかったが侵入者に備えてダンジョンの中に潜んでいたのだ。


「かかれええ!!」


 ケンの動きを見ていたヒョウドが掛け声をかえると前衛の槍を持った兵士達が槍を前方に構えゴブリンの群れに襲い掛かった。


「あっしらもいきやっせ!」


 ケンはボクに向かって声をかけると、ボクらの横を通過していった槍兵に先行するように突っ込み、ゴブリンの群れに蹴りをくらわしていく。ケンの強烈な蹴りを受けたゴブリン達は次々と灰になって消滅していく。


 ダンジョンというと鍾乳洞のような狭い洞窟をイメージしていたがここのダンジョンは片側一車線のトンネルくらいの横幅があり、天井までの高さもあるので、槍のような長柄の武器でも使うことができる。


 また、原理はわからないがダンジョンの床面、壁面、天井を構成する石は、ほんのりと光を放っており、顔の表情まではハッキリ見ることはできないが、誰がどこにいて、どんな動きをしているかは十分に把握できる明るさはある。


「ファイヤーショットォ!!」


「!?」


 後方から聞こえた声に後ろを振り返ると炎の塊が尾を引きながら天井の近くの壁に向かって打ち上げられた。


 壁に炎がぶつかった刹那、


「ギャアアアアア!!」


 というモンスターの悲鳴が聞こえると炎がぶつかったところから巨大な蝙蝠・・・ジャイアントバットが次々と飛び出してきた。

 どうやら壁に奥まった所がありそこにジャイアントバットが隠れていたようだ。


「ファイヤーショットォ!」


 中衛にいる兵士の手の平から先ほどジャイアントバットを炙り出した炎の塊が放射された。

 

 ボクの『スキルビュー』によると、炎の塊を放射する『ファイヤーショット』というスキルで、発動にはスキル名を発声する必要があるそうだ。


「グギャアアアア!!」


 ジャイアントバットの何匹かはファイヤーショットの炎にまかれ消滅する。


「ギャッ!」


 別のジャイアントバットが短い悲鳴をあげて落下する。その体には矢が刺さっている。

 ボクが地上に視点を戻すとジャイアントバットに向かって弓を構えるミオナの姿があった。


「シャアアアアアア!!」


 ジャイアントバット達は中衛のミオナとファイヤーショットを放つ兵士めがけて急降下をしてきた。


「中衛槍部隊上空に向かって構えい!」


 ヒョウドの掛け声で、ミオナとファイヤーショットを放った兵士を囲むように配置されていた槍を持った兵士達と事務部長は上空に向かって槍を突き出した。


「グギャ!!」


 突き出された槍に気付いて引き返そうとするも、勢いをつけて降下してきたジャイアントバットは勢いを殺せず、槍の串刺しになって消滅する。


 ジャイアントバットの何匹かは中衛の側方に降下し、横方向から中衛に襲い掛かるろうとするが、槍を持った兵士達を囲むように直径60センチくらいの盾と剣を構えた兵士達が配置されていた。

 側面を狙ってきたジャイアントバットは剣兵達と乱戦となった。


 剣兵と槍兵は少し距離を置いて配置されている。

 槍兵は声を掛け合いながら、剣兵の邪魔にならないところから側方のジャイアントバットに槍を繰り出す者と、頭上から襲い来るジャイアントバットを、迎撃、けん制する者とに別れて動いていた。


 そして上空から降りてこないジャイアントバットに対してはミオナとファイヤーショットの使い手が応戦する。

 だが、両名の攻撃はどちらも直線的な動きなので、数が減り横方向に十分な移動スペースがを確保できたジャイアントバットは難なく攻撃かわしている。

 

「上空に残っているヤツは後でケン様にお願いするか・・・。」


 とヒョウドが呟いた瞬間、


「ギャッ!?」


「グギャ!?」


 上空にいるジャイアントバットの側方から弧を描くように飛んできた何かが二匹のジャイアントバットにぶつかり、まきこみながら地面へと落ちていく、


「今だ!」


 ミオナの声だ!

 仲間が謎の攻撃を受けたのを見てとまどっているジャイアントバットめがけ、ミオナが矢を放つ。

 矢が放たれる方向を見ていなければ当然、かわすことなどはできない。

 ジャイアントバットはミオナの矢の直撃を受けて落下する。


 ガシャアアアン!!


 ジャイアントバットを叩き落した物とジャイアントバットがボクらの隊列から離れた地面に落下した。


「うりゃあ!」


 地面に叩き落されてピクピクしているジャイアントバットにケンがトドメのケリを放つ。


 前衛にいるケンがここにいるという事は・・・。


 ボクは前衛側を振り返る。

 いつの間にかゴブリンの一群は一掃されていた。


「グギャアアア!」


 ジャイアントバットの断末魔の声がボクの後ろから聞こえた。


「よし! 片付いたか!」


 ヒョウドの声を聞いて、ボクは辺りを見回した。


 あれだけいたジャイアントバットは一匹もいなくなっていた。


「これは・・・盾。」


 ケンは先ほどジャイアントバットを叩き落した物体を拾い上げながらそう言った。


「思ったより上手くいきました。」


 事務部長の声だ。

 

 先ほどの物体は事務部長が左腕に装備していた盾だったのだ。


 事務部長はケンに手伝ってもらいながら左腕に盾を装着した。


「盾をブーメランのように使われるとは、思いもよりやせんでした。」


「ええ、『武器の知識』があれば、盾をこのように使うこともできるかもと・・・。手元に戻ってくるように投げられるとカッコいいなと思ったのですが、隊列の中に飛んできては危ないので、隊列の外側に落ちるようにしてみました。」


 事務部長は淡々とケンに説明した。


 それを見ていたヒョウドは満足そうに頷くと、全体を見回して、


「皆、モンスターの一団を退けたが、奥にはどんなモンスターがおるか分からぬ。今の戦いで負傷した者あらば治療をするから、こちらにいるコーダの下に来い。」


 すると、ヒョウドの脇にいた槍兵が槍を持った右手を軽く上げた。どうやら彼がコーダのようだ。


「すまぬ。少しやらた。」


 中衛にいた剣兵の一人がコーダの傍にやってきてジャイアントバットに引っかかれ出血している右腕を見せる。


「大丈夫ですよ。ヒール!」


 コーダがそう言うと、剣兵の右腕のキズを包むように翳されたコーダの手の平から白い光が発せられ、しばらくすると、剣兵の右腕のキズは塞がった。


「かたじけない。」


「いえいえ。私の役目ですから。」


 なるほど、回復系のスキル持ちも従軍しているのか。


「他の者はよろしいか? おらぬならば隊列を組みなおすぞ!」


 ヒョウドの声で、武器を置いて小休止していた兵士は武器を持ち直し、隊列の自分のいるべき場所へと戻る。


「ミオナさんは大丈夫ですか?」


 ガチャガチャと武器や防具の金属音がする中でボクの耳は「ミオナ」というワードを聞き逃さなかった。声の主はコーダのようだ。


「ええ、大丈夫です。皆さんが守ってくれたんで。」


 ホッとするボク。


「ミオナさんは軽装備ですので、気をつけてくださいね。」


 そう、ミオナは『防具の知識』や筋力を増強するスキルを持っていないので、重い防具を装備することができないのだ。


「じゃあ、川本さん、いきやっせ。」


 ケンに声をかけられてハッとするボク。

 

「あ、はいぃ。」


 ケンとともに前衛の槍兵の前に進む。


(あれ?)


 そういえば、今の一連の戦いでボクは何もしていなかった事に気付いた。


 ゴブリンに対して前衛部隊が突進していった時、ボクはどうすればいいか分からず、戸惑うだけだった。

 ボクにはケンのように敵陣に切り込んでいけるだけの戦闘技術があるわけではないし、槍のようなリーチの長い武器を装備しているわけではない。


 また、中衛とジャイアントバットの戦いでも有効な攻撃手段を持ち合わせておらず、誰も指示をしてくれないので、ただ見物しているだけだった。


 中衛でヌクヌクしやがってと思っていたミオナと事務部長は自分から積極的に戦闘に参加していた。しかも戦闘が終わると事務部長はケンと、ミオナはコーダと親しげに話している・・・ボクは「選ばれし者」なのに誰も話しかけてこない・・・まあ、何もしていないのだから当然といえば当然だが・・・なんだか悔しいボク。


 一瞬、槍でも持ってこれば、『せいどうの鎧』で強化した筋力で力任せに槍を振ってゴブリンを一掃できたんじゃないかと自分の準備不足を後悔した。

 だが、次の瞬間には、そもそもボクが前衛に抜擢されたのはボクの『せいどうの盾』の防御力を頼られてのことで、攻撃面まで期待されても困るという結論に至った。

 

 さらによく考えてみれば、前座にすぎぬこのような戦いで、ボクが力をふるうことはないのだ。

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