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隠れスキル

「おはようございます。皆さん。昨日はよく眠れましたか?」


 王宮の敷地内の一角にある建物にボクらがやってくると、その建物の入り口近くにいたミサトさんが声をかけてきた。どうやら、ボクらを待っていたようだ。


「おはようございます。」


 ボクらは挨拶を返す。


「天啓の巫女に会われたそうで・・・。巫女は何かおっしゃっていましたか?」


 ミサトさんの問いにボクとミオナ、事務部長はナモンの方をむいた。ナモンはボクらの視線の意味を察し、


「ああ、天啓の巫女のお告げは、巫女から禁じられない限りは誰に話しても大丈夫です。ミサト殿、巫女は川本殿を『選ばれし者』であると認定されました。そしてその力で多くの者を導けば、魔王との戦いにおいて勝利は間違いないと告げられておりました。」


 そうか・・・驚異的な実力から皆がボクを「選ばれし者」と言っていたけど、今日、天啓の巫女がボクの事を「選ばれし者」と言った事で公式に「選ばれし者」になったってことか。


 ミサトさんはニッコリ微笑むと、


「天啓の巫女は川本殿を『選ばれし者』と認定されたと。しかも、魔王との戦いの勝利まで約束されるとは・・・。昨日の力比べの圧倒的な勝利もすばらしかったですし・・・本当に素敵でした・・・。」


「あ、ありがとうございますぅ・・・。」


 ミサトさんに面と向かって褒められてドギマギするボク。ミサトさんの顔を直視できなくて視線が泳ぐ。


 そんなボクを見てミサトさんは再び微笑んだ。あまりの眩しさのためかミサトさんの顔に靄がかかったかのように見えてしまう。


(す、素敵な人だなぁ・・・。)


 ミオナがいるのにミサトさんに心が動いてしまうピュアなボク。ミオナ、今のボクの顔を覗いてはダメだよ。

 もし、ミオナがボクの顔を覗いていたとしたらどんな形相をしているのろう、そう考えるとボクはミオナの顔を見る事が出来なかった。


「それでは異界者庁の案内をいたします。」


「え? ミサトさんが案内するので?」


 ケンがミサトさんの言葉に疑問を投げかけた。


「ええ。川本殿は『選ばれし者』。私を含む『その他の異界の戦士』とは一線を画すお方。『選ばれし者』にふさわしい対応を異界者庁にはお願いしてあるゆえ。」


「そういうことですかい。」


 どうやら普段は異界者庁を異界の戦士に案内する仕事はナモンとケンでやっているようで、ミサトさんが案内をするのは異例のことのようだ。

 『選ばれし者』たるボクに対する異例の対応ということか。


「・・・ミサト殿、蒼騎殿と松田殿の案内はどうされる?」


 ナモンの問にミサトさんは、


「お二人は予定では川本殿と共に動いてもらう事になりますので、川本殿と一緒に私が案内いたします。ナモン司教とケンも川本殿への対応を共有しておいていただきたいので同席ねがいます。」


「わかりやした。」


「承知いたしました。」


 ボク達一行はミサトさんの先導で異界者庁と呼ばれる建物の中へと入っていった。


 異界者庁というから、異界の戦士達がやってきてから設置された機関なのだろうが、建物自体は決して新しくはなかった。おそらく別の用途で使っていた建物を居抜きで使っているのだろう。


 建物にはいるとすぐにテーブルが何卓か設置されている広間があった。テーブルの周りには椅子やソファーがおかれていて待合スペースのようになっていた。広間の奥にはカウンターがあり、カウンターの奥には何人かの事務員(?)のような人が、そしてカウンターの前にはスキンヘッドに眼鏡をかけた小太りの男性が立っている。


「おおー。見えられましたか。」


 小太りの男はボク達が視界に入ると声を発し一礼した。

 そしてボク達が近づくと男は穏やかな笑みを浮かべて、


「ターオと申します。皆様、これからよろしくお願いします。」


 と挨拶してきた。

 ボク達は揃って、


「よろしくお願いいたします。」


 と返すと、事務部長がボクの顔をもの言いたげに見つめて来た。


「?」


 ボクは何故事務部長がボクの顔を見つめているのか分からなかった。

 事務部長はボクが惚けた表情を見せた瞬間、ターオの方に向き直り、


「異界の戦士・・・蒼騎士郎と申します。」


 と自己紹介した。


「あ、異界の戦士、川本ノリヒロです。」


「異界の戦士、松田ミオナです。」


 しまった・・・事務部長がボクの顔を覗き込んできたのは、『選ばれし者』のボクから自己紹介しろっていうサインだったのだ。で、ボクが惚けた顔をしたので自分から挨拶することにしたのだ。


 自分から率先して何かヤル事に慣れていないボクには、さっきのサインは高度すぎる・・・。


 ボクらの自己紹介が終わるとターオは、


「では、まず皆様方のスキルをコチラで記録させていただきます。こちらのプレートの上に手の平を置いていただいてもよろしいでしょうか?」


と言い、カウンターの上にある四十センチ四方くらいの石のプレートを手の平で差した。


「わかりました。ここに置けば良いのですね。」


 プレートの一番近くにいた事務部長が率先して動いた。

 先程のボクのもたつきを見てか、ボクに目配せすることはなかった。


 事務部長がプレートの上に手の平を置くと、プレートから光が発せられ、光は光線となり天井に向かって放射された。

 光線が途切れるとプレートの上方の空間に事務部長のスキルツリーが光の線で表示された。

 ナモンのスキルレビューの効果と同じだ。


「おぉー、素晴らしい。さすが『異界の戦士』、見事なスキルツリーです。」


 ターオは目を細めて事務部長のスキルツリーを見上げ感嘆の言葉を漏らした。


「このプレートに手を触れて表示されたスキルツリーは、このカウンターの下にある記録装置によって記録されます。ですが・・・。」


 ターオは事務部長の表情を見て言葉を途中で切った。


 事務部長は自分のスキルツリーを見て、戸惑っていた。


「お気づきになりましたか?」


 ターオが事務部長に声をかけると、事務部長はターオの方に顔を向けて、


「このスキルツリーに表示されていないスキルがあります・・・。」


 と言った。


「そうです。この装置は『スキルレビュー』のスキルと同様の能力を持った装置なのですが、実は『スキルレビュー』でもそうなのですが、表示されないスキルがあります。我々はそれを『隠れスキル』と呼んでいます。ただ『隠れスキル』は誰もが持っているわけではありませんが。」


 ボクらが召喚されてきた時にナモン司教にスキルレビューをしてもらったが、その時は驚きと、そもそも自分のスキルを把握していなかったので気付かなかったが「隠れスキル」なんてものがあるなんて。


「蒼騎様・・・、『隠れスキル』のランク、名称、効果とスキルツリーのどの位置にあるかを教えていただいてもよろしいでしょうか。『隠れスキル』は口頭で確認し手入力させていただきますゆえ。」


「はい。ここに表示されていないのは『ランク・C/名称・Don't step on my toes/効果・領分を越えた言動を行おうとすると警告を発する。』というもので、位置はツリーの枠外に一個だけで孤立しています。」


 Cランクスキルのくせに英語名でカッコいいなと思ったが、効果はクソみたいなスキルだ。


 ターオはクソスキルに対して特に感情を示すことなく淡々とスキルを手入力していった。


「はい・・・。記録させていただきました。他にも『隠れスキル』はありますか?」


「いえ、これだけです・・・。わざわざ手入力してもらわないでいいくらいのスキルですよね・・・。」


 事務部長が自嘲気味に言った。

 ターオは事務部長の言葉を聞くと柔和な笑顔を浮かべ、


「そうなんです。ほとんどの『隠れスキル』は何で隠す必要があるんだ? っていう微妙な性能のスキルばかりです。しかも、ツリーから独立して単体で存在しているケースがほとんど。」


 とフォローの言葉をいれた。先ほどのターオの淡々とした事務的な態度はクソスキルを自己申告させるという行為に対する最適な対応だったわけだ。


 なるほど、隠れスキルがクソなのは事務部長に限った話ではないのか。もしかすると人物の個性を出すだけのネタ要素なのか。

 確かに事務部長は向こうの世界では「越権行為」と非難されるような事をしていたしな。


「では、次に川本様・・・よろしいでしょうか。」


 ターオがボクにスキルツリーを公開するようにうながしてきた。

 さあ、皆、ボクのSランクスキルを核としたムダをそぎ落としたスキルツリーをみるがいい・・・。


(!! あーーー!!)


 意気揚々とプレートに手を置き、プレートから光の柱が上がった瞬間、ボクは思い出してしまった。


 恥かしスキル『ランク・A/名称・純潔の危機/効果・異性と関係性を深めると警告』の存在を。


 あのスキルが皆の眼前に現れ、あまつさえ記録されてしまう恥辱。

 ただ見られるだけならばいいが、「年齢=彼女ナシ」である事が容易に推測されてしまう。

 向こうの世界のボクの事を知っているミオナや事務部長に見られるのはまだ我慢できるが、ボクを「選ばれし者」として称えて祭り上げいるコチラの世界の人たちに知られるのは耐え難い・・・。


「おおーー!! Sランクスキル・・・しかもこんなに!」


 ターオが驚きの声を上げる。事務部長のスキルツリーを見た時よりも遥かに高いテンションだ。


「素敵・・・ですね。」


 ミサトさんのつぶやきが聞こえる。

 もしかして『純潔の危機』を見て、ボクが貞操観念の強いピュアボーイである事に対して「素敵」といったのではと僅かな期待を抱いた。


「では、川本様・・・『隠れスキル』はございますか?」


 ターオの声掛けを受けて、ボクはやっと皆の前に公開された自身のスキルツリーを確認した。


「え、えーーーとぉ・・・。」


 ボクは自分にしか見えない自分のスキルツリーを眼前に展開し、両者を見比べた。


(あれ?)


 幸運だった。『純潔の危機』は隠れスキルだったのだ。

 ニヤリとした後、ボクは安堵の溜息を漏らした。


「川本様・・・どうされました?」


 そんなボクの表情に気付いたターオが話しかけて来た。


「いや・・・、なんでもないですぅ!」


 慌てて取り繕うボク。


「『隠れスキル』はございましたか?」


「え、えーとぉ。」


 言わないという手もある。

 だが、「隠れスキルは無かった」というのには時間をかけすぎたし、挙動不審を繰り返している。


 だが、「選ばれし者」たるボクは運まで「選ばれし者」のようだった。


「え・・・とぉ、恥ずかしくて言いだしにくかったんですけどぉ・・・『ランク・C/名称・異界の文学/効果・スキルポイントを消費して向こうの世界のWeb小説・Webマンガが読める』っていうのがあります・・・。」


「・・・ウェブ・・・でよろしいですか?」


 ターオが聞きなれない言葉を聞き返してきた。


「川本さん・・・仕事中も、携帯小説よく読んでましたもんね。」


 ミオナが意地悪そうな口調でボクをからかってきた。

 それを聞いた事務部長は苦笑いしている。


 「隠れスキル」が二つあってよかった・・・。このやりとりを見れば、ボクの挙動不審とタメは『異界の文学』を恥ずかしくて言いたくなかったんだなと解釈してくれるだろう。


 ボクは『純潔の危機』の事は胸の奥にしまっておくことにした。

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