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手のひら返し

「せいどうの剣・・・。」


 ボクがそう呟くと、ボクがワイバーンに向かって突き出した右手に光が収束し、次の瞬間、猛烈な光量の光の柱が放射された。


「ワアアアアアア!」


「キャアアアアアア!!」


 観衆の悲鳴が聞こえる。昼間にグリフォンにぶっ放した時も相当な光量だと思ったが、夜ともなると目を瞑ってもまぶしく感じる光量だ。


 多分、大鉄にはあたっていないとは思うのだけど、ボク自身、光の先を見ることができないので確証はもてない。大鉄と戦うだけだったら『せいどうの剣』は使うまいと思っていたが、どんな能力をもっているのかわからない巨大モンスターを召喚したのなら話は別だ。腕が一本消滅するくらいは仕方ないと思え。


 光の放射が収まると、ドシャアという音が聞こえた。しばらくして目が暗闇に慣れたころに、チャリチャリーンという音とともにゴールドがボクに向かって飛んできた。ワイバーンは灰になって消滅したようだ。


「ぐううう・・・。」


 目の前には大鉄が転がっていた。さっきのドシャアという音は大鉄が地面に叩きつけられた音のようだ。大鉄の全身に目をやると消滅している箇所はない。そしてワイバーンの奥に位置していた建物を見たが特に欠損しているところはない。どうやら上手くワイバーンだけ狙えたようだ。


 すると、


「ワアアアアアアアア!!」


 突然、観衆の興奮の歓声が聞こえてきた。「せいどうの剣」の光が収束した後、しばらく静けさに支配されていたが、皆、何が起きたのかわからず茫然としていたのだろう。そして、我に返った観衆がボクがワイバーンを見たこともない圧倒的なスキルで一掃した事に気付き歓声をあげたのだ。


「川本ぉー! なんて奴だ!」


「大鉄を子供扱いとは!」


 ボクをたたえる声が聞こえてくる。ボクは人生で初めて味わう歓声のシャワーを浴びてフルフルと震えていた。


「勝者ーーーー!! 川本ノリヒローーーー!!」


 ミサトさんのアナウンスが響くと、観衆の歓声はもう一段階大きくなった。


「おおおー!!」


 ボクは右手を挙げて拳を握るガッツポーズをとった。引っ込み思案のボクは今までそんな事は恥ずかしくしてしたことはないのだが、ボクを称える数多の声援に押されて勢いでやってしまった。ボクのガッツポーズでさらに歓声は大きくなる。


(き、気持いいーーー!!)


「では、勝者川本、王の元へ!」


 ミサトさんのアナウンスが流れると、衛兵達が舞台に素早く上がってきた。


衛兵の一人がボクの前に来て一礼し、


「では、川本様、こちらへ。」


 と声をかけ、ボクを先導しながら歩き出す。他の衛兵達はボクの周りを囲むようにして並び、ボクの歩みに合わせて歩き出した。


 舞台を降りると松明をもった衛兵達がボク達の足元を照らすように周りについた。ボクが歩いている間も歓声は鳴りやまない。


 宮殿内に入るとボク達の決闘を観戦していた貴族と思われる人達が殺到していた。衛兵たちがボク達の通路を確保すべく観衆達を背にして並び壁を作っている。


「見た目からは想像できぬが・・・。」


「選ばれし者・・・これ程強いとは・・・。」


 どうやらボクを一目見るために集まってきたようだ。ボク、アイドルだな。


「川本様ーーー!!」


 おお!! 女性の歓声が聞こえる。今までこんな経験をした事がないボクはどうしていいかわからないので、声のする方向に振り返ることもなく進んでいった。


「クール! カッコいい!」


 照れ隠しの行為が「クール」とポジティブに捉えられるなんて・・・。何でもない行為を何故かネガティブに捉えられ「キモイ」とか呼ばれていた学生時代のイヤな思い出が頭を過ぎった。立場が違うだけでこうも人の扱いは変わるものなのか・・・。


 宮殿の内を進んでいくと、奥の段上のスペースに昼間ボクを蔑んだ目で見つめてきた王の姿が見えた。正直、王には会いたくない。


 王はボクの姿を目にとめるやいなや、


「おお、川本殿! 見えられましたか!」


 と昼間とはうってかわって、ボクに明るい声を投げかけると、段を降りて近寄ってきた。それを見てか、ボクを先導していた衛兵が横に移動し逸れたで、ボクは王と真正面で向き合うことになった。王は自らボクの右手を両手で掴み。


「川本殿! 見事な勝利でございました! まさに川本殿は『選ばし者』! 昼間のご無礼をお許しください!」


 と言ってきた。


「え・・・、はい・・・。」


 王のあまりの豹変ぶりに驚くボク。


「お許し下さるのか! 選ばれし者とはなんと寛容なことか!」


 王のリアクションの大きさに引いてしまっているボク。そんなボク達のところに王の後ろに控えていたミサトさんが近づいてきた。ミサトさんは昼間と同じ格好をしていたがセクシーだからよい・・・じゃなかった、パーティーでも違和感はない。ミサトさんは王に、


「王、川本殿と共に段上へお進みいただき、皆に川本殿のご尊顔を見せてやってください。」


 と告げると王とボクを奥の段上へとエスコートしてくれた。さっきもそうだけど、ミサトさんの顔を見ると一瞬、ノイズのようなものが目に入るのは、ミサトさんの刺激が強すぎて彼女の顔を正視できないボクの心理状態から来るものなのか。


 段上にあがるとボクは王と共に観衆の方へと向きなおった。ボクが通ってきた道にも観衆達が溢れている。こんなにも大勢の人達の注目・・・ボクを蔑む嘲笑交じりのネガティブなものではなく、ボクを称えるポジティブな・・・を浴びることがあるなんて・・・。


 会場奥の端のほうで大きく手を振っている女性が見えた。ミオナだ・・・。その隣には事務部長とケンもいる。高い戦闘力を有している異界の戦士といえども所詮は一介の戦士。爵位や官位を持っている者がいる場では端っこに居ざるをえないのだろう。


「お集りの皆々様! どうぞご覧ください!」


 ミサトさんの声が響く。


「天啓の巫女の予言にありし、異界の戦士達の王たる存在・・・『選ばれし者』が本日、降誕し、その力を示された! 選ばれし者・・・その名は川本ノリヒロ! この者が来た以上、魔王との戦いにおいて我々の勝利は確約された! 皆々様、どうぞ選ばれし者・川本ノリヒロをお称え下さい!」


 ワーーーーーー!!


 会場内は、はち切れんばかりの歓声に包まれた。ボクはこんな景色を未だかつて見たことがない。


「それでは、川本殿にはお着換えのため一旦、ご退席いただきます。皆様方におかれましてはどうぞテーブルのお食事をお召し上がりいただき、お時間まで御歓談ください。」


 ミサトさんがアナウンスするとボクの前に数名のボーイが現れて、ボクを囲むようにして会場横の控室へと案内してくれた。ボクの退場中にも、


「見た目からは想像がつかぬが・・・。」


「あのモンスターを焼いた光は神の奇跡としか言いようがない・・・。」


 といった声が聞こえてくる。


 控室に入るとボクはボーイ達の手によりプロテクターを外された。


「川本様、どこかお怪我はありませんか?」


 控室で待機していたローブを纏った男が聞いてきた、


「いや、特には・・・。」


「かしこまりました。では、いまから服を全て脱がせていただき、全身をタオルにて清めさせていただきます。」


 ローブの男がそう言うとボーイ達はボクの服を手早く脱がし、全裸になったボクの体を濡れタオルで拭き清めてくれた。出で立ちからしてローブの男は回復系スキルの持ち主のようだ。ボクがケガをしていたら治療するために待機していたのだろう。


 全身の拭き清めが終わると今度は服を着せてくれた。先ほどプロテクターに下に着ていた服ではなくパーティー用の服だ。だが、事務部長やケンが着てきた物よりも遥かに高級感があり素材も上質な物だ。明らかにボクは彼らとは待遇が違う。


「それでは会場に戻りましょう。ご案内いたします。」


 リーダーと思われるボーイは、そう言うとボクを会場へと案内してくれた。

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