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戦用車

「ぐ、ぐぐぐ・・・。」


 受け身も取れずに地面に叩きつけられた大鉄は呻き声をあげていた。ボクは大鉄にゆっくり近づきながら、


「もう終わりでいいかなぁ?」


 と親切心から問いかけた。なのに、大鉄はうつ伏せになったまま顔だけボクの方に向け、ボクを睨みつけてきた。この手の連中は人の情けに恩を感じないばかりか仇で返そうとする。


「かはっ! まだだ・・・。」


 大鉄はよろつきながらも立ち上がり、構えをとる。


「面倒くさいなぁ、寝ててくれればよかったのに・・・。んじゃあ、もう一発。」


 ボクは拳を繰り出した。もちろん『せいどうの鎧』の強化によって速さと重さを兼ね備えた一撃だ。


「まぐれは二度とおきねぇ!」


 大鉄は回避スキル『無事故の誉』でボクの攻撃を回避してからのカウンターを狙っているようだった。

 もっとも、ボクの拳を躱してカウンターを繰り出したところで、ボクを守る無敵の障壁『せいどうの盾』によって大鉄の攻撃は防がれるだろうから、ボクは怖くも何ともないのだけど。


「ぐ! ふぁあああああああああ!」


 大鉄の叫び声が夜空にこだました。


 ボクの拳は大鉄が構えた腕の上に命中し、ボクの拳の勢いを殺す事の出来なかった大鉄は勢いよく後ろにふっとび、大鉄が入場して来た鉄の扉に体を打ち付けると扉を背にズルズルと座り込む格好となった。


「ば・・・、ばかなあ・・・。」


 大鉄の呻き声がきこえた。ボクは大鉄へと近づいていく。


 大鉄が呟く、


「む、『無事故の誉』が・・・なぜ・・・。」


 なぜ・・・そういえば、なぜだ。無意識で相手の攻撃を回避する大鉄自慢のスキル『無事故の誉』。

 最初にボクの拳を大鉄が躱したときにはボクのスキル『スキルビュー』によって、大鉄のスキル『無事故の誉』がハッキリみえた。だが、今回は見えなかった。


「なくなっちゃったんじゃない? スキル?」


 ボクは適当なことを言い放った。事務部長とかなら、この場の状況から何となくソレっぽい分析めいた事を言うんだろうけど、ボクはそういう事を考えるのがそもそも面倒臭いと思っちゃう人だから。


「な、なくなるなんてことが!」


 大鉄はボクの無責任な発言に対して怒りを露わにしたが次の瞬間、大鉄の表情が怒りから絶望へと一気にかわった、


「ない・・・『無事故の誉』が・・・ない・・・。」


 大鉄は力なく発した。どうやら自分のスキルツリーを確認したら『無事故の誉』がなくなっていたようだ。


「な、なんでだ、なぜ、なぜなくっている・・・い、いや・・・『無事故の誉』があった場所が未開放スキルになっている・・・!! な、なぜ!」


 なぜなぜ煩いやつ。慌てる大鉄を見て逆に冷静になったボク。一つの考えが浮かんだので無責任に口にしてみた。


「あー、もしかして、ボクの背中にむけて卑怯な飛び蹴りをくりだしてきたけど、その飛び蹴り、ボクのスキルの壁ではじかれちゃって、あなたダメージ受けちゃったじゃん。それで『無事故』でなくなっちゃったから、『無事故の誉』がなくなったとか?」


「はッ!」


 ボクの話を聞いた大鉄は再び絶望の表情を浮かべた。確証はもてないものの大鉄自身も腑に落ちたのだろう。


「さあて、どうする?」


 ボクはそう言いつつ大鉄にさらに近づく。


「ひぃいいい、く、来るなぁ!」


 大鉄は必死の形相で叫んだ。『無事故の誉』が使えなくなった以上、大鉄の身体能力で『せいどうの鎧』で強化されたボクの身体能力には到底対抗できない。自分に勝ち目がないことを悟ったのだろう。


「なら、さっさと降参して。」


 圧倒的勝者の目線で大鉄を見下しながらボクは大鉄に降伏をうながした。ふふふ、気持ちいいぜ。


「あ、ああ!」


 大鉄はボクが攻撃するつもりはないという意思表示をしたので、安心した表情を浮かべ、さっさと降参に応じる態度を示した。手も足もでない現状をみればボクの気が変わる前に降参するのが賢い。大鉄はミサトさんがいる方を向いて両手を挙げ叫んだ、


「ミ、ミサトさん! 降さ。」


 大鉄は降参の「さ」まで口にすると口を閉じ、誰かの言葉に耳を傾けるような仕草をとった。もちろん、ここにはボクと大鉄しかいない。


「・・・いいんですか・・・はい・・・。」


 明らかに大鉄は誰かと話している。


 ボクは大鉄の不可解な言動とボクを無視した態度に腹が立ったので、


「何しているんだよお!」


 とイラついた声をあげつつ大鉄に近づいた。すると大鉄は顔をあげてボクを睨みつけながら、


「終わりだ川本ぉ!」


 と叫び右手を前方に突き出すと、


「いでよ、ワイバーン!」


 と叫んだ。すると、大鉄の右手から黒い光が発せられる、と、同時にボクの目には大鉄のスキル情報が飛び込んできた『ランク・A/名称・戦用車/効果・倒したモンスターを自分の足として自在に扱える。ただし、一匹に限る。』


「!!」


 ボクは一旦様子をみるために、後ろに跳んで距離をとった。大鉄の放つ黒い光の中から腕が翼になっているドラゴン・・・ワイバーンが徐々にその姿を現す。体の大きさは象くらいだが、体の二倍はあろうかという翼によって随分大きく見える。


「キャアアアアア!!」


「モ、モンスターが!」


 突然現れたワイバーンに度肝をぬかれた観客の叫び声や悲鳴が聞こえる。ベランダで観戦していた観衆たちが我先にと宮殿内に逃げ込もうとし押し合い圧し合いのパニックになっている。


 そこに、


「皆様! 落ち着きください!」


 ミサトさんの声が響いた。観客達の喧騒がピタっととまる。もしかするとミサトさんのクリアでよく聞こえるこの声はミサトさんのスキルなのかも。


「あれなる、凶竜・ワイバーンは最強の異界の戦士・大鉄が、かつて倒し、今は手懐けしモンスター。皆様に危害を加えることは決してございません。大鉄至高のスキル「戦用車」による人馬一体ならぬ人竜一体の猛攻! それを迎え撃つ川本! どうぞご覧ください!!」


 ミサトさんのアナウンスが終わると先ほどまでの騒ぎは嘘のように静まり、観衆は自分達が元いた場所に戻っていった。


 ワイバーンの背中に乗った大鉄は、


「面倒な事になるといかんのでワイバーンは使わんでおこうと思ったが、使ってもいい事になったんでな。川本ぉ! 覚悟しろ!」


 と叫んだ。ワイバーンは大鉄を乗せたままゆっくりと翼をはためかせ宙に上がっていく。


 ミサトさんの巧みなアナウンスで騒ぎが収拾したからよいものの、王都の真ん中にこんなモンスターを召喚しては、大鉄が言うように面倒な事になりかねない。また、大鉄のスキルとはいえ決闘の場にモンスターを召喚し二対一で戦うのはどうなのかというのもある。


 どうやら、さっき大鉄と話していた誰か・・・恐らく騒ぎが収拾されず貴族達の中でケガ人がでたとしても、大鉄を庇いきれる相当な権力者・・・が大鉄にワイバーンの使用を許可したようだ。


「ふーー、やれやれ。面倒くさいなあ・・・。」


 ボクは両方の手のひらで自分の頬を二、三回叩いた。


「さあ、いくぞ川本ぉ!」


 ワイバーンが翼を激しくはためかせる。どんな攻撃をしてくるかわからんけど・・・、ボクは右手をワイバーンに向けて突き出し一言呟いた、


「せいどうの剣・・・。」

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