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格下相手

 ワーーーーーー!


 ミサトさんのアナウンスで力比べという名の決闘が始まる。


 でも、ボクの腰は引けたままだ。


「川本! お前、新都タクシーの管理者なんだってな。」


 大鉄が突然そんな事を言い出した。


 何でそれを知っている!? 


 そういえば王都にくる道中、司教のナモンに聞かれて言った覚えがある。ナモンはボク達が何を言っているかよく分かっていないようだったが、ボク達の言葉を熱心にメモにとっていた・・・。


 ナモンめ・・・ベラベラと喋りやがって・・・。身元バレしてるじゃねぇか。


「そ、そうだけどぉ・・・。」


 ボクは何とか大鉄の圧に抗して声を振り絞り答えた。


「お前、乗務経験は!?」


 さらに大鉄が質問してくる。


 乗務って言葉を使うとは・・・タクシー関係者なのか!?


「え、ええとぉ・・・、入社して一週間くらいやったかなぁ・・・。あとは、たまにヘルプで乗る・・・かなぁ・・・。」


 管理者候補として入社したボクだけど、タクシーの現場を理解するためにタクシーの乗務研修を受けた後に一週間ほど乗務体験をした。中には一ヶ月くらい乗務体験をする管理者候補もいるけどボクは運転が上手くなくて、営業所の車庫で車を停めようとバックして後ろの鉄柱に車をぶつけてしまったので早々に乗務体験は終了となったんだけど・・・。


「ケッ! そんなん経験の部類に入らねぇよ。現場経験もないくせに管理者だって偉そうにしてたんだろ!?」


 そう言うと大鉄は大きく振りかぶりボクの顔面の高さで拳を突き出してきた!


 突き出された拳はボクの顔に当たるような距離ではない、が、突き出された大鉄の拳から雷撃が物凄い勢いで放射された。


「ひぃぃぃぃぃぃ!」


 ボクは悲鳴を上げたが、暗闇の中で映える電撃の煌めきに沸く会場の声にかき消されていた。


 電撃はボクの頭・・・というより顔の上を抜けていった。


『ランク・A/名称・でんでんナックル/効果・拳の先から電撃を放つ』


 ボクは大鉄が振りかぶった瞬間、すでに恐怖で腰が抜けて後ろに倒れ込んでいたので難を逃れたのだ。


「ちっ! 腰抜け野郎め! 会社組織って後ろ盾がなけりゃ何にもできねぇ分際で!」


 何だ、大鉄のこの「管理者」に対するヘイトは・・・。


「な、なんでそんなに・・・管理者を嫌うんで・・・しょうか・・・。」


 ボクはオドオドしながら大鉄に問う。自然に敬語になっていた。


「俺は個人タクシーの運転手してるんだが、てめぇも知っての通り個人タクシーを始めるには法人タクシー(タクシー会社)で数年間タクドラ(タクシードライバー)をしなきゃなんねえ。で、その法人タクシーにも、てめぇみてえな志の低いクズな管理者がいて、現場のことを何にも知らねぇくせに偉そうに指示をだしてきやがった! 俺は個人タクシーを始めるって志のために耐えてきたが、内心はぶん殴ってやりたいくらいソイツが嫌で嫌でたまらなかった・・・。その屈辱の日々の鬱憤をテメェをぶちのめすことで少しは晴らせると思うと楽しくてたまらんぜ。」


 そういうことか・・・。大鉄は個人タクシーの運転手なのか。ボクは目を二秒程閉じて開けると、


「ほう。」


 と呟き、スクッと立ち上がった。先ほどのようなへっぴり腰の立ち方ではなく、真っすぐ立ち上がった。


「うん?」


 ボクの様子が変わったことに大鉄は少し驚いたるようだ。


「うーーーーん。つまりー。会社から逃げたってことぉ?」


 ボクはいつもの手下である運転手に接する態度で大鉄に話しかけた。先ほどまであった恐怖心は一切なかった。


「な、なんだてめぇ!? 逃げたんじゃねぇ! 個人タクシーをやることは俺の夢だったんだよ!」


 大鉄は真っ赤になって反論してくる。図星なんだろうな。


「ふーーーん。ほんとかなぁ。ただの管理者に対する反発心から逃げただけじゃないの? そういう人、ボク、何人か見てきたよぉ?」


 「夢」とか「やりたいことがあって」とかキレイごと抜かしてやめていく運転手をボクは何人か¥も見てきていた。だが、それは社会の歯車になることすらできない不良品共の言い訳だ。


 大鉄が不良品・・・まさに鉄屑というに相応しいヤツだと分かれば、管理者たるボクが怖じ気づくことはない。


「テ、テメェ! なめやがって!」


 大鉄が逆上のセリフを口にし拳に力を込めようとしたタイミングで、ボクは無言で拳を大鉄に繰り出していた。


 人を殴ったことがないボクだけど、「殴っていい」環境であり「殴れる力」が備わっていれば遠慮なく殴れる。

 ボクの拳は『ランク・S/名称・せいどうの鎧/効果・身体能力を向上させる。ただしスキルをオンにした状態でないと効果は発動しない』により、信じられない速さで繰り出された。

 正直、ボクもこのスピードとパワーには驚いた。このスキルは使用者の想像以上に身体能力を向上させてしまうから常時発動ではなくスキルのオン・オフがあるのかもしれない。


「あ!」


 大鉄は驚きの声をあげつつも、素早く後ずさりして、すんでのところボクの拳をでかわした。

 怒りにまかせて攻撃を繰り出そうとしていた者の動きとは思えない・・・。


(スキルか!)


 ボクの目には大鉄のAランクスキル『無事故の誉』が見えていた。このスキルの効果は『相手の攻撃を無意識に回避する』というものらしい。


「回避スキル・・・腰抜けはどっちだよぉ。」


 スキルは性格が反映されるというから「回避スキル」を持っている大鉄は腰抜けってことだよね。

 『無事故』っていう美辞麗句で本質を隠すのは不良品共の常套手段だ。


「ス、スキルが見えるのかテメェ・・・。」


 大鉄はボクの高速拳を見て先ほどまでの勢いが削がれたようだ。


 自分より弱い相手にしか強く出れないのも不良品共の特徴だ。


 とはいえ・・・あんな回避スキルがあっては、こちらの打つ手はない。『せいどうの剣』をぶっぱなしてもいいが、ここで使っては王宮に大きな風穴を開けかねない。


「ふーーーー。」


 ボクは考えても解決しそうもないので、考えるのを辞めた。


「ふっ、俺はパワーだけでなく、この回避スキルもあるからこそ最強の『異界の戦士』。テメェにはどうすることもできねえんだよ!」


 確かにそうだ。だが、こちらにも無敵の防御壁『せいどうの盾』がある。


「まぁ、引き分けってことにしときますよ。ミサトさんに、このままじゃ終わんないからって言ってきますねぇ。」


 ボクはそう告げると大鉄に背を向けてミサトさんや王がいるであろう王宮のフロアに向かって歩き出した。


 ボクの敵に堂々と背を向ける光景を見てか、周囲の観覧席から騒めきが聞こえてくる。


「コ、コケにしやがってぇぇぇぇぇ! 見てろお!」


 大鉄が後ろで騒いでいる。


「スリースターズ・・・マスターキィィィィィック!!」


 大鉄がボクの背後から攻撃を仕掛けてきたようだ。

 スキル名なんて叫んだら攻撃してくるのモロバレなのに・・・。


 ボクは後ろを振り返る。


 バッチィィィィィン!!


「ぐおぉお!!」


 大鉄の渾身の飛び蹴りはボクのSランクスキル『せいどうの盾』によって防がれた。

 しかも『せいどうの盾』は防御「壁」であるから勢いよく突進して来た大鉄がダメージを受けている。


「く、くそぉ! ならば『でんでんナックル』でぇっ!」


 大鉄は先ほど繰り出した電撃スキルをくりだしてきた。


 ボクも大鉄の『でんでんナックル』に合わせ拳をくりだす。


 バッチィィィィィン!!


「ぐ・・・、はぁああ!!」


 ボクの拳は大鉄の頬をとらえると、大鉄を上空へと打ち上げた。


 ドスン!!


 上空へと打ちあがられた大鉄は、やがて地面へと叩きつけられた。

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