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力比べ

「じゃあ、いきやしょうか。」


 ケンの案内でボク達は食事会の会場に向かう。


 ケンと事務部長、ミオナは国の重鎮達が集う食事会ということもあって、キッチリとした服に着替えている。


 ミオナはドレスでも着るかと思ったら、高級ホテルの従業員のようなパンツスタイルだ。なんでもモンスターが襲ってきたら「異界の戦士」である自分達は率先して戦わなくちゃならないでしょっ、スカートじゃ戦えないよっだって・・・。

 向こうの世界でもそうだが組織の論理にすぐはまり込み、それを自分の本望のようにしてしまうのがミオナの悪いところだ。


 ボクは力比べという名の決闘に臨まなくてはならないので、肩と胸、肘と膝、拳を守るための革製のプロテクターを装備している。


 ケンに案内されてきたところは王宮内にある広大な会食室だ。円形のテーブルが等間隔に並べられ、椅子は壁沿いに並べられている。どうやら立食パーティーのようだ。


 すでに会場内には着飾った、いかにも「貴族」と思われる人達が何人もいて、グラスに入ったドリンク片手に歓談していた。


「川本様でしょうか。」


 会場の入り口でボクはボーイに名前を呼ばれた。


「あ、はい。」


 ボクが返事をするとボーイは、


「川本様は本日、大鉄様との力比べがございますので、私が控室へご案内させていただきます。」


「はい。」


 どうやらボクだけ別室のようだ。


「川本君、頑張って!」


「川本さん、頑張ってくだせえ!」


「川本さーん! 見てるからねッ!」


 ミオナがボクの背中を思いっきり叩いてきた。プロテクター越しなのをいい事に手加減なしだ。ボクはミオナの不意打ちに二、三歩前に押されてしまった。


 ボクはボーイに案内されて控室に入った。

 部屋にあるテーブルの上には水やお菓子のようなものが置いてあった。

 決闘の前だから食べる気はしないが、緊張のせいか異常に喉の渇きを覚えたので、ピッチャーの水をグラスに移して一気に飲み干した。


 決闘の緊張感もあるけど、会場に集まる地位の高い人達が歓談する様子をみているだけで、そういう場に慣れていないボクは緊張して、ちじこまってしまう。

 プロテクターなんて場違いな物を着込んでいるボクを周りの人たちはどういう風にみているんだろう・・・って考えるだけで顔真っ赤だ。

 よくあの場所でミオナは普段通りのノリでボクの背中を叩くという行為ができるものだよ、下品な女だなって思わるかもって考えないのかな・・・。

 ボクなんてミオナの背中ビンタに対して周りの目が気になってリアクションをとることができず、無言で逃げるように立ち去ることしかできなかった。


 大抵、そういう場でミオナみたく無神経な行為をするヤツって、周囲の注目を自分に集めるために、ボクのような逆らわないピュアな人間に対して、わざとコケにするような言動をし、笑い者に仕立て上げてくる。

 ただミオナにはそういう黒い企みはなく、純粋にボクを応援してくれているだけというのは分かっている。

 ミオナに会った当初は「またこの手のボクを利用しようとするヤツか・・・」と警戒していたが・・・。


 ボクの脳裏にボクを利用して来たヤツらの事が次々と思い出されてきた。

 許せねえ・・・。思い出すにつれ怒りの感情が湧いてくる。


 コンコン


 ドアがノックされる。


「川本様、よろしいでしょうか。」


 さきほどのボーイの声だ。


「あ、はい。」


 ボクが返事をするとボーイが入ってきて。


「そろそろ出番でございます。準備はよろしいでしょうか。」


 ボクはその言葉を聞いてゴクリと唾を飲み、


「はい。」


 と返事をする、ボーイは入ってきたドアの横に起立で待機する。


 しばらくとすると再びドアをノックする音が聞こえた、中で待機していたボーイがドアを少し開けると、ドアをノックしたボーイが中のボーイに耳打ちした。


「川本様、時間でございます。こちらからお願いいたします。」


 中のボーイはドアの反対側にある扉へボクを案内した。ボーイが扉をあけると左右の壁に燭台があり正面に扉がある石造りの部屋があった。ボクはその部屋へ入っていった。


「こちらの扉の先は王宮の中庭にある石造りの舞台になっております。その舞台の上で川本様は力比べをしていただきます。」


 ボーイがそういうと、正面の扉の向こうから女性の大きな声が聞こえてきた。


 どこかで聞いた声・・・。


「それでは、巫女の予言にありし『異界の戦士』の『選ばれし者』、川本ノリヒロの登場です!」


 女性のアナウンスが終わると、ワ―っという歓声が石造りの部屋に響き渡った。


 すごく緊張して来た・・・。

 ボクはさっきの「怒り」を思い出すように努めた。「怒り」に感情を焦がさないと緊張に呑まれてしまうからだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴ


 正面の扉が開く。


「川本様、お気を付けていってらっしゃいませ。」


 ボーイがボクの背中に声をかける。


 ボクはゆっくりと歩き出した。


 扉を抜けると前方には暗闇の中、篝火に照らされる石畳が広がっていた。

 ボーイが舞台と言った、一辺が30メートルくらいの正方形(と思わる)の区画は、区画を囲むように並べられている篝火の足が区画の端に隠れてしまっているところを見るに、周囲よりも高くなっているようだ。


 ボクが舞台に進み出ると、上の方からワーっという歓声が聞こえた。顔を上げて上方を見渡すと中庭の周囲を囲む建物の二階部分と三階部分は大きなベランダになっていて、そこに観衆たちが詰めかけているのだ。


 先ほどボクの名前をアナウンスした女性の声が響いた。


「そして、『選ばれし者』の力を試すべく対戦者は『王国の守護神』大鉄ーー!!」


 再びワーっという歓声が周囲から上がった。ボクは女性の声が聞こえた右手側を見た。

 右手側中央の二階部分は他の場所と異なり椅子席になっていた。どうやら王族用の特別席のようだ。


 ボクは気付いた。そう、あの声は王の横に侍っているミサトさんの声だ。でも、怒鳴っているわけでもないのに会場全体にハッキリ聞こえる声を発せられるなんて・・・。


 そんな事を考えていると、ボクの正面にある扉が開き中から進み出てくる者の影が見えた。


 影が舞台に入ってくると会場は一際大きな歓声に包まれた。


 ボクは舞台の中央に足を進めた。

 360度からの視線が気になりボクは右手と右足、左手と左足を同時に出して歩いていた。途中でハッと気付いて修正するもギコチない歩き方になってしまう。

 そんなボクを嘲るかのような笑い声が、どこからか聞こえた気がする・・・。


 ザッザッザ・・・。


 正面から足音が聞こえてきた。

 ボクの対戦相手、大鉄の足音だ。


 お、おっきくて・・・こ、恐そう・・・。


 大鉄を見たボクの第一印象。

 ケンもガッチリした体形だが背は決して高くなかった。だが大鉄は背も高いし何より体がデカい。しかも、スキンヘッドで端が尖ったサングラスを付けていて、口には亀の甲羅のような六角形の黒い鉄(と思われる)でできたマスク? を付けている。

 体にはボクと同じような革のプロテクターを付けているが、ボクの物が茶色なのに対して、大鉄の物は黒色だ。


「ふーーーーーー。」


 舞台の中央で顔を合わせるや否や、大鉄は右下を向いて大きな溜息なようなものをつき、ボクの方に向きなおると、イメージよりも少し高い声で、


「お前が川本か。」


 この世界初の、初対面での呼び捨て。


 ボクはビビッてしまった。昔のイヤな思い出が頭をよぎり、腰が引く。


 大鉄は何も言い返さないボクを見ながら、両手を胸の前に水平に持ってきて、左手で作った平手に右手の拳をパンパンとぶつける。


 ミサトさんの声が再び響く。


「それでは、二人の力比べの始まりです!」

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