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番外・向上主任は友達が少ない


 謝ったけど、美澄から返信来ない……!


 えっ、そんなにキレられてる? でも何に?


 最後に話した時、美澄は「今優しくされたら自分のこと嫌いになる」って言ってて、気圧されて追いかけられなかったけど……もしかしてあの時追いかけるのが正解だった!?

 っていうかそもそも今回怒られたのは、美澄との約束すっぽかしてるって思われかけたからだよな?

 でもちゃんと最初は断ってたし、一人で勝手に帰っちゃったのは美澄の方で……いやいやいや、過ぎたことを考えても仕方ない。とにかく美澄と仲直りしないと、とにかく……。


「……」


 それでも何か意地になって、ごめん以降の連絡が出来ないでいた。


 俺の交友関係はあまりにも狭く、こういうことを相談出来る相手が本当にいない。(アレ)は論外として、江間にそんな話をするほど俺は無神経ではないと思いたいし、他の同期は特に仲良くないし、こんなあんまりにもプライベートな話が出来る友達、といえば。


「……まあ入れや」

「……あっ……お邪魔しまっす……」


 ……定時後、迷った末に仙太郎の家に押しかけた。


 美澄には喧嘩なんかしてないって言ったし、実際普通に連絡は取り合ってる。でも、二人とも美澄の話題はなんとなく避けていた。

 だけど俺には美澄のことで悩んで一人じゃどうしようもなく詰んでる時に頼れる友達がマジで仙太郎しかいない!!

 お前から奪うから協力してやらんって言われた身とは言え、もうこれしか選択肢がないんだよ!!

 意を決して仙太郎の家に上がり込む、が。


「その辺飛んでこい。座るスペースくらいあるやろ」

「まず掃除しような!」


 座るところはあるとかゴミは出しちょるとかぶーたれる仙太郎を無視して散らばってる服やら本やらを片付ける。

 床に、おそらく美澄の影響で買ったであろう漫画が落ちていた。自分がとんでもない酷いやつに思えてくる。

 掃除の手が止まったことに気付いた仙太郎が、ひょいと漫画を拾い上げてぱんぱんと埃を払った。


「……これ面白かったわ。お前に勧められた時はめんどくせえけん読まんかったけど」

「仙太郎は美澄の言うことなら何でも聞くんかい……」

「当たり前やろ。好きなんやけん」


 そう言って、座り場所が出来たベッドの上にどかっと座る。あろうことかそのまま漫画を読み始めた。

 いやなんで俺が部屋掃除して家主のお前がくつろいでんの!? 逆では!?

 文句を言いたくなるが、急に押しかけたのは俺の方だ。諦めて服を畳んでいると、仙太郎が「何しに来たん」と聞いてきた。


「あ……いや、なんとなく? なんか最近連絡しちょんはしちょんけどうち来んなっち思ったけん……」

「それ以上誤魔化すんやったらこっちも考えがあるけんな」

「……すいません美澄のこと相談させてください……ッ」


 こんなのマジでひどいことしてるって分かってる。分かってるけど、俺には相談できる友達が仙太郎しかいなかった。


 かくかくしかじか、あったことをありのまま伝える。仙太郎は途中「アホか」「ヘタレが」と悪態を挟みながらも、ちゃんと最後まで聞いてくれた。そして。


「そのまま別れりゃいいやん」


 元も子もないことを言い出した。


「なんでそんなひどいこと言うの!?」

「俺にんなこと相談しよるお前の方がやべぇわ。いいやん別れりゃ。ちゃんと希空には次があるんやけん」

「ドヤ顔すんなや! 別れんために相談しよんやけんさあ!!」


 相談先が仙太郎しかないとはいえ人選ミスした気しかしない!! そうだよこの人まだバチバチに美澄のこと好きなんやけんこんなんチャンスにしかならんやん!!


「前に優鷹のこと相談のっちゃろうかっちった時は愛想ねえ返事やったけど今違いそうやな。RINEすっか」

「マジでやめて!!」


 美澄のこと信頼してないわけじゃないけどそれで少しでも揺れられたらあんまりにも辛い!!


「いいやろ、お前一回は別に美澄のこと好きやないっちったんやけん。男が一回言ったことひっくり返してぐだぐだ言うなや」

「そん時はかっこつけてたの!! あの時駄々こねるとなんか情けないとか思われそうで!!」


 そこまで言って、美澄が言ってたことが脳裏をちらついた。


 これ以上優しくされたら自分のことを嫌いになる。


 言われた時はそんなことないって反射的に言おうと思ったけど、なんでか言葉が出なかった。

 美澄と付き合う前、仙太郎が美澄のことを好きだって言い出した時に同じようなこと考えてたからだ……今更合点がいった。

 考え込む俺を見て、仙太郎がつまらなそうにため息をつく。


「お前が情けないのとか知っちょる。んで、別れるんか?」

「別れませんけど!?」

「まあそんくらいで俺頼るんやったらまだ余地あるなあ、オイ」

「やめて!!」


 にやつく仙太郎を見てると本当に不安になる。

 俺に諸々を譲ってきた世話焼きの一面があるとはいえ、仙太郎の本質は欲しいものは何が何でも奪い取る暴君だぞ……!

 このままじゃ美澄が奪われかねない。何か早急に仲直りの手を打たないと……!

 だけど謝って返事なかった場合ってどうしたら……。


 悩んでいると、スマホにぽこん、とRINEのメッセージが表示された。


「希空からか?」

「んにゃ、姉ちゃんから」


 そういや今日泊まりに来るとかなんとか言うちょったな……遅めに来るって言いよったしまだ時間的に余裕はあると思う、けど。

 そう思いながらRINEを見ると。


『ミスティアと晩餐を共にしているわ

ゆっくり帰ってきて大丈夫よ』


 噴き出した。


「姉ちゃんと一緒おる!!」

「ああ、瑠璃と仲良いもんなあいつ」

「早よ行かんと良からぬこと吹き込まれる!! 行ってくる!!」

「まあ待てっちゃ」


 立ちあがろうとすると仙太郎から首根っこを掴まれて引き止められた。引き止め方怖!


「車出しちゃる。こっからやったら車ん方が早いやろ」

「えっ……いや、いいよ悪いし……」

「あ゛? 俺が送っちゃるって言いよんやけん乗れや」

「怖い怖い怖い!! やっぱ仙太郎美澄のことで結構怒っちょんやん!!」


 騙し討ちみたいな形でかっさらった上に無神経な相談しに来てるから殴られても文句言えないんだけども!!

 だけど、仙太郎は殴ってこなかった。すん、と真顔に戻って、まっすぐ俺の方を見つめてくる。


「……ムカつくけど、別にキレちょらん。隙がありゃ掻っ攫うけど、何もしちゃらんわけやない」

「え……でも前に、もう何も協力せんっち」

「そらいちいち服選んでだの髪なんとかせぇだのは聞かんわ。お前がズボラやらかして嫌われるんやったらそっちの方が都合いいけん」

「ひど……」


 一人でもちゃんと色々出来るようになろ……とりあえず仙太郎んとこ以外の美容室早めに探そ……。


「……ムカつくけどな。ドアホの幼馴染に不幸になれっち思うほど、俺もクソやないけん」


 仙太郎からは、小さい頃から諸々を譲ってもらってきた。仙太郎よりどんくさくて気が弱い俺をある種見下してるから、そんな風に色々してくれるんだと思ってた。


 ……でも、全然そんなこと、ないんだよな。


「……じゃあ、お願いします……」

「これは何でもないんやけど、俺最近寿司食ってないわ」

「今度奢ります……」


 しっかり配送料とっていくあたりがこの野郎とは思うけども……。


「まあせいぜいびーびー泣いて縋って呆れられろや」

「だっ……大丈夫です〜! 多分……」

「お、自信ねえんか? なら都合いいわ」

「ちがっ、あります自信! おそらくちゃんと好かれてると思うので!!」

「おそらくっち何なん」


 仙太郎は呆れながらも、ちゃんと俺を美澄と姉ちゃんがいるファミレスに送り届けてくれた。


「帰りは自分で帰れよ。瑠璃に会うとしゃーしいし」


 俺と同じく、幼少期の姉に振り回されまくった仙太郎は眉を顰めた。仙太郎がいるとは姉ちゃんには黙っとく、と言うと「そうしろ」とだけ返して、俺が降りた車を発進させようとする。


「せ……仙太郎」

「……何か」


 ごめんとは、何回も思った。

 騙し討ちみたいなことしてごめん。ちゃんと応援できなくてごめん。今まで色々してもらったのに、恩を仇で返すみたいな形になってごめん。

 でもどれもしっくり来ない。どれも、仙太郎に失礼というか、無神経な気がした。


「俺、ちゃんと頑張るし……絶対渡さんけん」


 仙太郎がタバコを取り出して、火をつける。


「……おう」


 にや、と笑われて、なんでかほっとした自分がいた。

 だけどあの余裕の笑み、マジで本気出したらいつでも俺から奪えると思ってやがる……そして俺も下手したら奪われかねんと危惧している!

 ここは一つばしっと仲直りしてみせて、仙太郎なんかに負けないくらい仲良しに……!


 しかしいざ美澄を前にするとそんな意気込みはしおしおと枯れて、言おうと思ってた言葉が全部引っ込んで、最終的に。


「俺、捨てられる……?」


 そんな情けない言葉をかけてしまったのだった。

こんなところまで読んでいただきありがとうございます!


向上優鷹:タバコは吸ったことない。厨二病極まってた頃にタバコチョコはよく買ってた。

宮本仙太郎:タバコは中2から吸ってる。いけませんよ……。

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