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向上主任は悩ませる

『自分、ユタさんの描かれるアホエロの与四鈴が本当に好きで、人数合わせみたいな形で呼ぶの失礼だとは分かってるんですけどご検討お願いします!』


 いや、いやいやいや!

 与四鈴アンソロは欲しいけど俺も描くの!? いや無理無理無理!! 実際最近色々忙しかったから次のイベントサークル参加すら見送ったのに、そんな責任が重い荷が重い!!


 ……待てよ、でも冬コミか……。


 莉世さんが提示してる締切まである程度の日はあるし、新刊用のネームだけは完成してる。結構短いから他の話も描かないと本としてのボリュームないよなあと思ってたけど、アンソロならちょうどいいかも……。

 ちょうど何も考えたくないと思ってた。


『参加させてください!!』


 莉世さんにデータの送るだけだし!! 俺が男とかバレないだろ!! 今はとりあえず仕事もオタ活も忙しくしてないと無理!! 心が死んじゃう!!



 私は向上主任のことが好きだ。


 主任から告白されるより、仙太郎さんから告白されるより、ずっと前から主任のことが好きだった。

 認めるのが怖かっただけだ。主任はモテるし、私なんかのこと好きになるわけがない。こんな感情は不毛なだけで、傷つくだけだからずっと蓋をしていた。


『誰に慕われているかなんて、恋心には何の影響も与えないわ』


 お姉さんの言葉が脳内で反響する。


 本当に、何の影響も与えない。だって、仙太郎さんがあんなに私のことを好きだって言ってくれてるのに、私はずるずると主任のことを考えてしまうような最低な人間だった。


 体調不良で早退した翌日、かなり怒られるんだろうと覚悟して、恐る恐る出勤すると。


「美澄さんっ! 昨日大丈夫だった!?」

「へぁっ」

「心配しましたよ〜、ぶっ倒れるんですもん」

「あ、あの、昨日はご迷惑を……」

「ほんとよぉ! おばちゃんにこんな心配させてっ! もう、ちゃんとあったかくして仕事しなさいよ! おばちゃんのお下がりでよければブランケットあげるから!」

「はぁ……」


 椎名さんからブランケットを受け取って、席に座る。皆いつも通り、というか、いつもより優しかった。大丈夫だったかとか、サビ残控えろとか、色々声をかけてくれる。

 しかし。


「……美澄」

「あっ、主任、あの……」

「昨日、経理の人から預かった。経費の申請書類。ここ記入漏れあるから、書いてすぐ持って行け」

「はっ……はぁ……」

「それだけ。じゃ」


 ……向上主任だけは、いつも以上にそっけなかった。


 いやなんでだよ。


 書類を抱えて経理部の方に向かっていると、どんどん腹の底から怒りが湧いてくる。


 こちとら誰のことで悩んでると思ってるんだよ。そもそもあんたがあんなこと言わなけりゃもう踏ん切りついて仙太郎さんに返事出来てたんだぞ。気にしなくていいとかなんとか言ってたけど、もしかして本当になかったことにしようとしてんのか?


 分からない。主任の狙いが、まっっったく分からない。


 私の人生にこんな経験はまったくない。商業BLでは何度も好きあってる二人がすれ違う……みたいな展開を見てきたけど、今がそうかと言われると違う気もする。なんか、主任から好きって言われたのって、本当なのか不安になってきた。都合のいい白昼夢だったんじゃないの、あれ。

 でもこんな気持ちで仙太郎さんと付き合ったり出来るかというと、そんな器用さは私にはない。

 こんなの一人じゃ抱えきれない。普通……私みたいな、こういうのに縁がない人間じゃない人は、こういう経験をどう処理しているのかを知りたい。

 しかし、唯一思い当たる人物……彼氏のいた経験のあるナカは、今は推しのバンドのライブが控えてるとかって言って毎日忙しそうだった。

 あとはお姉さんとか……いやだめだ、向上家にこの話をするのはさすがに人としてだめだろ。お姉さんからしたら弟が幼馴染と天秤にかけられてるんだから。

 やっぱり一人でじっくり考えるしか……。


「あれっ、美澄さん?」


 経理の前で、天使みたいな声がした。


「江間さん……」

「どうしたの? こーんな顔してるよ?」


 江間さんが眉間にきゅっと皺を寄せて見せる。私がどう足掻いてもそんな可愛い顔にはならないだろう。

 髪を短く切ってからの江間さんは可愛いというより美人とか綺麗とかいう表現が適切なように思えたが、くすくす笑う笑顔は髪を切る前と同じ、天使みたいに可愛いものだった。

 そうだ、江間さん……江間さん、なら。


「あの……えっと、江間さん、あの、今日のお昼お時間ありますか!?」

「へっ?」

「わたっ、私、その、なんか、どうしたらいいか分からなくなっちゃって、全部自業自得なんですけど」

「まっ、待って待って」

「お代は持つので、あの、私のこと」

「美澄さん、ストップ!」


 江間さんに制止されて、やっと我にかえった。


「つまり、美澄さんは悩んでて、それをあたしに相談したいってこと?」

「そ……そう、ですね……あの、ご迷惑なら……」

「別にいいよ?」

「えっ」


 自分で頼んでおいてびっくりしてしまった。江間さんはにっと歯を見せて笑う。


「だって美澄さん、困ってるんでしょ? 迷惑なんて思わないよ」


 え……江間さん!!

 正直この人陽キャだし近寄りがたいなって思ってたけどめちゃくちゃいい人だ!! 主任も前に言ってたけどこの人はオタクに優しいギャルそのものなんだ!!


「まあランチじゃなくてディナー奢ってもらうけど♡」

「えっ」


 前言撤回。ちょっと悪い人なのかもしれない。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


向上優鷹:ストレス解消法は趣味に没頭! 寝食忘れて同人誌描きあげた時が一番幸せだぞ!

美澄希空:ストレス解消法は単純作業! プチプチとかテトリスとかを無心でやるけど結局ストレスの根源は何も解決していないことに気付いて凹むぞ!

江間あずさ:ストレス解消法は映画鑑賞! 悪人がぎったんぎったんにされるタイプのサイコホラーで爆笑するのが大好きだぞ!

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