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向上主任はどう思う?

 翌日、旅館の前に迎えに来たのは。


「よう、希空」


 仙太郎さん一人だった。

 少しあたりを見回してみるけど、主任の姿はどこにもない。


「主任は遅れるんですか」

「ああ、今日あいつ誘っちょらんから」


 ……え?


「え、二人なんですか……」

「嫌か?」

「いや、嫌とかじゃないんですけど……」

「なら行くぞ、ほれ、お前こっち歩け」


 仙太郎さんはそう言うと私の肩を抱いて、車道から庇うみたいにして移動させた。

 え……いや、ないないない。今ありえない考えが浮かびかけたけど、ないないない。


「どっか行きたいとこあるん?」

「あ、あの……好きなアニメ映画の聖地があって、そこでとりあえず写真撮りたいなと……」

「ああ、聖地巡礼ってやつか。あれやろ、こないだ優鷹も騒ぎよった映画」

「そ、それだと思います……」


 きょ……距離が近い……。

 何が狙いなんだ? カツアゲとかされるのか? 今更? いやでもカツアゲとかそういう目的がないと、なんかこの距離は……。

 不安になりながら歩いていたら、すぐに聖地である温泉街に辿り着いた。

 仙太郎さんの目的は何かとか、なんで主任誘わなかったのかとか、色々疑問は残るが、とりあえず。


「げっ……原作だーーーーーーーーーっっっっっ!!」


 オタクとしての性を抑えられなかった。


「は、(なん)? 原作?」

「あっ、仙太郎さん映画ご覧になってないんでしたね。今画像RINEで共有したんで見てください」

「はぁ……お、マジやん。主人公の女、ここ歩いとるやん」

「うわうわうわ、天気もちょうどそれっぽい!」

「へえ……撮っちゃるわ。そこらへん突っ立っちょけ」

「え!?」


 仙太郎さんがスマホを構える。自分が写るのはちょっと、と思うけど、あのご厚意を無碍にするのも憚られる。

 ピースして愛想笑いしてみると、仙太郎さんが噴き出した。


「ふはっ、笑うのヘッタクソやなあ!」

「すっ……すみません……」

「んはは、可愛い可愛い」


 きっとこの可愛いは、動物とかに向けて言う可愛いなんだろう。そう信じないと、変な勘違いをしそうになる。


「そんで? あと聖地巡礼って何するん」

「こ……こう……キャラ同士が絡む幻覚を見たり……」

「なんそれ……」


 仙太郎さんと二人きりの観光は、きっと話題がなくなるだろうと思っていた。だって私はオタクで、仙太郎さんはそうじゃない。

 しかし、仙太郎さんのことを舐めていた。具体的にはあの主任の幼馴染という経歴を舐めていた。


「フクロウ手のせ体験……ですか」

「おう。腕にフクロウ乗っけて写真撮れる。お前こういうの好きか?」

「か……過去ジャンルでフクロウにはだいぶお世話になって……マントもつけれるなんて……」

「ああ、優鷹がなんか言いよったな……あれやろ、魔法使いの学校がどうこうの本」

「なんで知ってるんですか……それですけど……」


 結構なうろ覚えではあるもののアニメとか本とかのオタクジャンルには詳しいし。


「このあたり街並みが可愛い……」

「希空ってぬいぐるみ写真撮ったりせんの」

「えっ!? していいんですか!?」

「おう、荷物持つか?」

「ほぁっ、あっ、お、お願いします」

「キョドりすぎやろ」


 オタ活にも寛容だし。


「歩き疲れたろ、ここらで休むか」

「あっ、いえ、仙太郎さんの行きたいところとかあれば……」

「や、茶ぁしばきながらさっきの映画やらの話聞きたいんやけど。聖地? 行ったら気になってきたわ俺も」

「話しましょう、存分に」


 なんと布教までさせてくれる。

 オタクに優しいギャルならぬ、オタクに優しすぎるヤンキーだ。

 ケーキを食べながら一生懸命あの映画の何がいいかトレーラーを見せて説明していると、仙太郎さんが「ふ」と笑った。


「やっぱ可愛いなあ、お前」


 ……いやマジで今日何なんだこの人!?


「今は映画の話してるんですけど……」

「ああ、すまんすまん。続けていいけん」

「続けにくいですよ……なんか今日仙太郎さん変ですし」

「変か?」


 きょとんとしてる。なんで自覚してねえんだよ。


「いや……いつもなら、主任と3人だし、もっと冷たいっていうか……」

「ああ、そういやまだ言っちょらんかったな。俺、お前が好きなん」

「だからすごい動揺するというか、その……は?」

「やけん」


 仙太郎さんはテーブルに肘をついて、まっすぐな目で私を見た。


「お前が好きやけん、誘った」


 言葉が脳の表面を滑って、内部に受け入れるのを拒む。でもその拒否を許さないように、仙太郎さんはずっと私の目を見続けた。


「あ……あの、あれ、もしかして、おじいさんがまだ監視とかしてるとか……」

「じいさんは関係ないやろ。俺が、お前のこと好きってだけ」

「いや、だってそんなこと一言も」

「おう、今言ったけんな」


 逃げ場が無くなっていく。嘘とか、冗談とか、そういうのじゃないって、全部が訴えかけてくる。

 はくはくと口を動かすことしか出来なくなった私を見て、仙太郎さんが噴き出した。

 あっ、やっぱりもしかして、からかって……!


「可愛い」


 あっ、ガチのやつでしたか。


「お前その分じゃすぐに返事出来んやろ。ゆっくり考えたらいいわ」

「えっ、あの、考えるって何を」

「考えて、俺と付き合ってもいいっち思ったら、俺の彼女んなれ」


 正直、今まで感じたことのない類の嬉しさが胸を襲った。


 私が、こんな私が、誰かに好かれた。もしかしたらドッキリとかかもしれないってまだ疑う気持ちはあるけど、それでも嬉しさが勝ってしまう。

 私なんかが、誰かに好きって思われてる。誰にも好かれないってずっと思ってた、私なんかが。


 でも、それだけじゃない感情も、しっかり中にあった。


 主任は、何て思うんだろう。


 いや、主任がどう思おうが別にいいんじゃないかとは思うんだけど、それでも主任のことを考えてしまう。


「あ、あの……このこと……」

「ん?」


 このことを主任は知ってるのか、と確認しかけて、口をつぐんだ。

 恋愛の経験がほとんどない私でも、それが残酷な質問だと分かったからだ。

 仙太郎さんのことを好きかどうかは分からない。でも、仙太郎さんのこの笑顔を崩すことは私にできない。


「も……持ち帰って検討します……」

「おう、しろしろ」


 仙太郎さんは嬉しそうに、私のことを見つめていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


美澄希空:好きな映画はサメ映画とかパニックホラー。愚かな行動をしてる人が酷い目に遭うのがちょっとスカッとしますよね……。

宮本仙太郎:好きな映画はアクション系。まあ有名どころしか観ない。意外とたるっとした邦画も好き。

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