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向上主任は私のことを

 江間に言われるがまま連れてこられたのは、懐かしい居酒屋だった。

 ここ、確かあれだ。江間の彼氏が凸して来た後に江間と二人で来た……まだ潰れてなかったんだなあ、なんてしみじみ思いながら江間のあとをついて行く。

 あの時は向かい合わせの席に座ったのに、今日はカウンターの端っこに通されて、江間と壁の間に追い詰められるように座った。


 た……助けて……助けて美澄……!


 あ、だめだ脳内のイマジナリー美澄が「いや自分で何とかしてくださいよ」とか言う塩対応しかしてくれない! 自分でなんとか出来てたらこんな擬態とかしなくてもいいんだよ!


「懐かしいね〜ここ! あの後あいつから何回か連絡来たけど、押しかけてはこなかったよ。向上くんのおかげと思う。ありがとね?」

「いや……」


 正直気持ち的には思い出話どころじゃない。

 いかにこの場を早く切り上げてオタバレからの腐バレを防ぐかが鍵だ。適当に一般受けしてるアニメとか挙げて茶を濁して……。


「なんか、『ドルスト』? とかって言ってたよね? あと……『よしすず』? なんかの略?」


 いやダメじゃねえか!!

 どうしよう、これどうやって回避すれば、えっと、えっと、えっと!

 そこで、普段ならあんまり考えたくない人物のことを思い出した。


「姉っ……姉が、それが好きで、俺はあんまり詳しくないけど」

「えっ、向上くんお姉さんなんていたの?」

「なんか……アイドルがどうのって、ゲームらしい……アニメになるって、話でさっき美澄と話してて……」


 嘘はついてない! あいつ『ドルスト』も推してるから!


「なぁんだ、じゃあ向上くんが好きなわけじゃないんだ?」


 ッシャオラァ! 騙せた!

 でも自分に嘘をついてしまった……すまん江間、俺がなんかこんな28のオッサンとかじゃなくて普通にお前みたいに小綺麗な女性社員とかだったら堂々と『ドルスト』好きですって言ってたよ〜!


「なら、向上くんは何が好き?」

「……ジ●リとか、新●誠のとか」

「え〜?」


 優しい笑顔を浮かべてはいるが江間が疑わしいものを見るような目をしたのを見逃さなかったぞ俺は……。

 嘘じゃない。実際名作だし。まあ邪な目で観ているのは確かだが。


「……もういいだろ、俺が何好きとか、どうでも」

「どうでもよくないよ。もっと向上くんのこと知りたいもん」

「なんで……」


 ふと江間の方を見ると、顔が結構近付いてるのに気付いた。

 ……江間って距離感バグってるよなあ。美澄もほいほい佐倉と飲みに行ったりするし、女の人って結構そんなもんなのかも。(アレ)がおかしいだけで。


 江間の肩が、俺の肩にぶつかる。


「……向上くんと、もっと仲良くなりたいから」


 今の親密度でよくない!?


「だから、これからもちょくちょくこうやって飲みに行こ? あ、お休みの日に映画とかもいいかもね!」

「……江間の好きな映画ってホラーだろ。めちゃくちゃ血飛ぶやつ」

「覚えてたんだ? ふふ、向上くんホラー苦手?」

「苦手……だし」


 何より、俺が気になるのは。


「江間と二人って、周りから誤解されるんじゃ」

「美澄さんと二人きりでも誤解されるよ?」


 カウンターきめられちゃった……。


 それを言われると反論できない。

 美澄と二人でこそこそしてたら周りが誤解しやすいのは分かってる。実際美澄も、人前で仕事以外の話振るなって言うし。

 それでも美澄と話すの楽しいし、次会ったらこれの話しようとか、これ誘おうとか、気付いたらずっと美澄のことを考えてる。


 ……BL本しか参考文献がないけども、俺の予感が正しければ、これは。


「誤解されたら、美澄さんも迷惑じゃないかなあ」


 上がっていた体温が一気に冷やされるみたいな感覚がした。


「……え」

「だって、上司と部下だよ?」


 確かに、上司と部下だ。でも友達って言ったし、対等って言ったし……。


「迷惑って思ってても断りづらいよねえ、年上の男の人からの誘いなんて」


 確かにそれはそう!!

 えっ、じゃあ美澄も内心「迷惑だな〜」って思いながら付き合ってくれてたの!?

 思い返してみると、なんか遊びにいくのとかいっつも俺から誘ってない!? 美澄がなんか誘ってくるのって大体やらかしたお詫びとかそういうのばっかりだし!


 いやいやいや、でも美澄って結構辛辣だし。


「美澄は……嫌なら嫌って言うんじゃ……」

「知ってる? 向上くんが最近美澄さんにばっか構うから、美澄さん裏で色々言われてるんだよ?」

「……え?」


 いや、そんな、俺と仲良くしたくらいで……。

 そう思ったけど、江間の深刻そうな表情を見ると、あながち嘘とも思えなかった。


「まだ本人に直で言うところまでは至ってないけど、マーケの子の間でも噂になってるよ。美澄さんが向上くんに色目つかってるって」

「そんなこと……」

「事実がどうでも、周りはそう見てくれないよ」


 そんなのは俺が一番よく分かってた。


 別に男が好きなわけじゃない。女の子と同じ趣味だって言ってナンパしたいわけじゃない。ただ、たまたまBLが好きなだけで、全然そこに特別な意味はない。

 でも周りはそう思わない。だからリアルではオタクなのも腐ってるのも隠してたし、ネットでは年齢も性別も隠してた。

 これからもずっとそうなんだと思ってた。同じ趣味の友達なんか出来ないって諦めて、もうずっとこのちぐはぐさと付き合って生きていくしかないんだと思ってた。


 あのイベントの日、美澄に会わなかったら今でもずっとそうだった。


 でも。


「……向上くんがどんな風に思ってても、周りから見たら上司と部下だよ。少し間違えたら、周りから色んな誤解されて、どんな傷つけられ方してもおかしくないんだよ」


 江間が優しい声で言って、俺の方に体を向ける。


「美澄さんが大事なら、ちゃんと距離保ってあげないと」


 美澄のことをどう思ってるかは、もうさすがに分かってる。

 でもどんな気持ちより、美澄に嫌な思いをさせたくないって感情が強く胸を締め付けた。


「うん……」


 情けない返事しか出てこない。


「……あたしなら、全然映画とか付き合うから! ね、そんな顔しないで、元気出して♡」

「江間も誤解されるんじゃ……」

「あたし、もうそういうの慣れてるもん♪ 誤解したければさせとけばいいしね♡」


 このタフさも含めて江間って尊敬するところしかないな……。



 佐倉さんは無事に寮まで送ってくれた。何度も何度もちらちらと主任と江間さんの後ろ姿を確認してたけど。

 そんなに気になるなら自分も行けばいいのに、「いや江間ちゃんが」とか何とかぶつぶつ言って、結局後を追わなかった。


 風呂上がりの髪に宮本さんから言われた通り色々塗ったくって、タオルで乾かしながらベッドに座る。

 主任もそろそろ帰ったかな。『ドルスト』のアニメの話、ツブッター見たら続報あったしちょっとその話しときたい。

 そう思ってスマホを開いたら、江間さんからメッセージが来ていた。


『今日は付き合ってくれてありがと♪

佐倉くんに送ってもらえた?』


 心配してくれてるのか……さすが天使の江間さん。


『はい

こちらこそありがとうございました』

『美澄ちゃんカタいよ〜!

聞いて聞いて!

あの後向上くんと二軒目行ったんだけどね』


 ……は?

 いやいや、何が「は?」なんだ。同期だし、仲良いみたいだし、二軒目くらい行くだろ。


『向上くんと今度映画行こうって話になったんだけど、美澄さん何かオススメとかある?』


 そんなこと言われても、勝手に二人で決めて、二人で行けばいいじゃん。なんで私にそんなこと聞くの。


『やっぱりアニメ系かなあ?

向上くん意外と好きみたいだし笑』

 

 意外と、っていうかめちゃくちゃ好きですよ。私だけが知ってたのに。


『岸本ロビンとかいいんじゃないですか

あの美術館のやつ』

『あ、あれ有名なマンガだよね!?

ありがと〜! 参考にするね!』


 一気に泥沼に引き込まれたような、暗い感情が胸を襲う。

 私はこれを、何て呼ぶか知りたくない。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


向上優鷹:来世はいやらしい目的ゼロで女の子になりたい。人前でパフェ食えるし堂々と推し活出来るし最高じゃん!!と思ってる。一度怒られたほうがいい。

美澄希空:来世は金持ちの家に飼われてる猫になりたい。何をせずともご飯が出てくる生活憧れる〜。犬になりたくないのは躾けられたくないから。

江間あずさ:来世は男の子になってみたいよね〜♡ とか軽めに言うけど結構ガチ。どれだけ横暴でも許されるんでしょ? 男って。一度怒られた方がいい。

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