表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/62

向上主任は教えない

「……は? 告白……って、え?」

「佐倉くんは今村さんと一緒に飲みに行ったりしたことないから知らないよね。今村さん、そうなんだよ」


 そうなの……!?

 思わず向上主任の方を見ると、ばっと顔を逸らされた。

 しかも告白されたとか、あんたそんな面白エピソード隠してたのか……! あとで問い詰めよう。


「その頃はまだ痩せてて魔性なんて言われるくらいモテモテの僕を振ったんだよ、向上は……」

「……その話いつまで蒸し返すんですか」

「ふふ、これからずっと言われると思うよ? 今でも思い出すなあ、何人かで飲みに行ってるのに急に薔薇持って告白した今村さんに、向上くんが珍しくびっくりしてたやつ!」


 何その話。問い詰めたいんですけど。

 今村課長は、ふくふくとした笑顔を私の方に向けた。


「ま、僕の失恋の話より! 向上から聞いたよ、あのスライド作ったの君なんだってねえ!」

「えっ」


 急に肩に手を置かれて、思わず後ずさってしまった。えっ、なんかスライドやばかった!?


「あの、私なにか粗相を……」

「いや、逆。この感じの今村さんは褒めてるから」

「えっ!?」


 主任の言葉に「そうだよ!」と今村課長が同調した。


「いや〜、僕が見た中で一番上手! 見やすいし、見る側が何を知りたいかをちゃんと分かってる! 向上はこれ下手だもんね」

「だから美澄に頼んだんじゃないですか」


 え、罪滅ぼししろよみたいな意味じゃなくて?


「美澄は資料作成も早いし、情報の取捨選択が上手いので」

「おお、君にそこまで褒めさせるか! ってことは営業成績は……」

「……思うように伸びてないですね。スケジュール管理が下手なので、そこだけ今後叩き込んでいきます」


 無表情のまま淡々とそう続ける主任を見て、どっと体の力が抜けた。

 出来てるとか、無能じゃないとか、ああいうの全部気休めだと思ってた。主任曰く私達は友達だから、傷つけないようにしてくれてるんだ、って。

 でも、そうだ。この人一応……いや、一応じゃない。ちゃんと上司なんだ。


「……がんばります」

「はっはっは! 頑張れ頑張れ!」


 呟くみたいに言うと、今村課長からばしばしと背中を叩かれた。いや励ます目的なんだろうけど、痛っ! 主任が「美澄が死ぬので」とやんわりと止めた。これくらいで死ぬかい。



 帰りの電車の中はどこ行ってもうちの社員だらけだし、江間さんと佐倉さんもいるしで、さすがの主任も必要以上に話しかけてくることはなかった。


『終わったの嬉しすぎてもうずっと帰ったら何するか考えてる٩( 'ω' )و』


 しかしRINEの中では大変うるさかった。

 主任と少し離れたところに立ったまま、返信を打つ。


『おつです

ところで今村課長に告白されたやつ掘り下げたいんですけど』

『そんなの今どうでもいいやろがい!』

『今の最重要事項やろがい!

お試しで付き合ってみるとかしなかったんですか?』


 江間さんにさっき見せてもらったけど、確かに痩せてる今村課長はかっこよかった。彫りが深くて、結構濃いな〜とは思うけど無しではない。


『なんかさ

そういうのよくないじゃん

相手のこと好きでもないのに』

『そこで勇気出ないから童貞なのでは』

『もうやめて!

上司のライフはとっくにゼロよ!』

『懐かしいネタぶっこんだな……』


 主任の方をちら、と見る。伏せたまつ毛が頬に陰を落としていて、主任のまつ毛が意外と長いことに気がついた。


『だって今村さん、結構ガチだったんだもん』


 ガチだったんだ。まあ薔薇持ってきたってくらいだし。どこのハー●クインだよ。


『相手が誰でもあんなマジ告白受けれるほど肝据わってないわ俺』

『じゃあこれからも誰から告白されても断るんですか?』

『告白とかされないだろうけど

今のところは』

『恋人いない歴を更新していくんですね』

『やめたげてよぉ!

だって美澄と約束したし』


 約束? 私、主任とそんな約束したっけ。覚えてないとか言ったら気まずいかな。まあいいか。言ったれ。


『約束ってなんですか?』


 そう返信して、もう一度主任の方を見ると、今度は目が合う。


 あの可愛くて大人気の江間さんからあんなに言い寄られてるくせに、あんなかっこいいゲイの人に真剣な告白をされたくせに、まだモテる自覚がない。擬態しまくってるけど本性は限界オタクだしクールぶってるけど本当は情緒不安定でめちゃくちゃヘタレ。そんなんだから未だに童貞で恋人いたことなくて、私みたいな冴えない部下から28歳児呼ばわりされる始末。


 そんな主任は私の方を見て、悪戯っぽく微笑んだ。


『教えない』


 スマホの画面にそう表示されて、なんでかしてやられた気持ちになる。

 なんだよ教えないって。ヘタレのくせに。限界オタクのくせに。


『いいですよ別に

その代わり今村主任からの告白の話は包み隠さず全部教えてください』

『やだ怖』

『っていうか今村課長オープンなゲイなのに噂になったりしなかったんですね』

『あそこまでオープンだと逆に皆どうでもよかったんじゃないかな

あと他の個性が強すぎ』

『主任が言うんですかそれ』


 心臓がうるさいのも、顔が熱いのも、主任の笑った顔が頭から離れないのも、全部気のせいだ。



 次に出勤した時には主任の噂は鎮まっていた。研修会でのことも大きかったが、一番は江間さんがデマだよと高らかに宣言したことだ。

 うーん、美人はやっぱり発言力がある。


 まあそんなことより仕事である。主任の誤解の件が片付いた今、私も自分の仕事に集中しないと。

 スケジュールは余裕を持って組んだ方が上手くいくような気がする。その代わり、一件一件確実に契約に繋がるように、ちゃんと事前準備を……。


「あっ、美澄さん♡ ふふ、すごい難しい顔してる」


 江間さんの甘ったるい声が、パソコンに向かい合う私の耳をくすぐった。


「江間さん、お疲れ様です」

「お疲れ様〜。ねえ美澄さん、金曜日の夜、時間ある?」

「え? 今のところ訪問とか入ってはないですけど……」


 それを聞いて江間さんは「よかった」と嬉しそうに手を叩いた。


「佐倉くんが迷惑かけちゃったから、お詫びにご飯でもって思って! 向上くん誘っても来ないんだもん。美澄さんから誘ってくれないかな?」

「えっ」


 いや多分主任はご飯とかよりそっとしとくのを一番喜ぶと思いますが。

 しかし私がそんなこと言うのはおかしい。


「な、なんで私……」

「だって向上くん、美澄さんのこと可愛がってるし。美澄さんの誘いなら来るんじゃない?」


 そういうこと言うな!!


 主任をお慕いしまくってるお姉様方の視線に耐えながら、「ええ」と首をひねるのに江間さんはニコニコしたまま一歩も引かなかった。陽の強さだ……。


 皆の前では仕事の話以外で話しかけるな、という約束通り、主任は表では仕事の話しか振ってこない。そんなわけで私と主任の関係は誰にもバレなかった。

 しかし、今回研修のスライド作成を私に任せたことで「美澄と主任って結構仲がいいのでは」という空気が生まれてしまった。

 あの28歳児、仕事って名目があればなんぼでも話しかけていいと思ってやがる。

 その結果、主任に話しかけづらいっていう人が私に「主任にこれ聞いといて」と言ってくることが増えたが……江間さんからまで頼られるとは。


「私の誘いでも一緒と思います……」

「そんなことないよ♪ それに、今回のって元はと言えば美澄さんの冗談きっかけなんでしょ? 美澄さんはお詫びしたくない?」


 そう言われると本当に弱い。

 詫びパワポこそ作ったが、本当にあれだけでいいのか何か菓子折りなど持っていった方がいいのか悩む日々。ご飯代を出すことでこの罪悪感が晴れるのなら、という気持ちはある。

 きらきらと柔らかく輝く江間さんの期待の目も裏切れず、私は力なく頷いた。


「言うだけ言ってみます……」


 まあ、十中八九来ないだろうけど。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


向上優鷹:嘘とか隠し事が下手。人狼ゲームで人狼引いたら「うぁっ」て言っちゃう。

美澄希空:嘘とか隠し事が得意じゃない。人狼ゲームで人狼引いたらすっごい黙り込んじゃう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ