向上主任は裏がある
入社当時から、同期の向上のことは気に入らなかった。
皆がイケメンだなんだと囃し立てるが、オレに言わせればあんなホストみたいなツラに惹かれる方がおかしい。性格だってクールだとか言われてるけどあんなもんボケっとしてて無愛想なだけだろ。営業成績トップなのだって、なんか汚い手使ってんだろ。
何より腹立つのは。
「向上くんは、昔から無口で誤解されやすいから……佐倉くんも、誤解してるだけだと思うよ?」
社内で一番の美人、付き合いたい女ランキング一位(オレ調べ)の江間ちゃんまでもあいつに甘いということ!!
江間ちゃんは頭も悪くないしあんなバカに騙されるような女じゃない、いつか目が覚めるって思ってんのに、いまだにあいつのバカさに気付かない。
じゃあオレが向上と飲みに行ってあいつの本性を白日のもとに晒してやろうじゃないかと思ったのだが。
「向上! 同期で飲みに」
「ごめん用事あるから」
あいつ一回も誘いにのってこねえ!!
あんな無愛想なバカが営業成績一位とかどうかしてる。何か裏があるに違いない。でもその尻尾が掴めない。
苛々の募る日々を過ごしている時に、見てしまった。
社内で一番人気のない自販機の前で、営業の2年目のデブスと楽しそうに話す向上の姿を!
何、あいつもしかしてブス専なの? しかもデブ専? うわ、愛想笑いもしないって噂の向上がニコニコしてるよ。
しかしデブ専とかブス専とか言いふらしてもあいつの評価にあまり影響しない。下手したら評価をあげてしまう恐れすらある。それに、あのレベルのブスなら他にも大量にいるのに、あいつだけにあんな顔してるっていうのは変な話だ。
あの向上の懐に唯一入り込めたデブス……もしかすると見た目以外に何か向上を惹きつけるものがあるんだろう。そう思って合同歓迎会の時に絡んでみた。
まったくいいところはなかった。
なんか真面目だし、カタいし、無愛想だし、こんなんとよくあんなニコニコ話せるなと思う。
だが、向上は酔い潰れたデブを背負って送っていくまでした。江間ちゃんも一緒に行ったというのが気に食わないが、あれは相当気に入ってるとみて間違いない。
こうなると残る可能性はたった一つ。
こいつ、相当アッチがイイんだろう。おっぱいでかいし。
あの向上が気にいるくらいのテクをかましてもらおうと思って、仕事で悩む美澄ちゃんを飲みに連れ出してみた、が。
「美澄ちゃん癒し系って感じで可愛いのに、彼氏とかいたことないの?」
「お世辞やめてくらはい……いる見た目に見えないれしょう、わたひ……」
酔っ払ってんのにこの女ガード固ぇ〜!!
隠れ家風の個室居酒屋に連れて来た時点でそういう目的って察しろよ! さりげなくボディタッチすんの避けんなや! その乳は何のためにあんだよ!
こっちばっかり愛想使って苛々してきた。向上はこいつの何がいいんだよ……。
「いや〜、そんなことないよ。実際美澄ちゃんモテてるじゃん」
「モテてないれす。っていうか、仕事の相談なのになんれそんな話……」
「仕事の話ばっかじゃつまんないでしょ! それにそういうのは向上が乗ってくれんじゃないの?」
「主任は……主任じゃらめなんれすよ……」
おっ? なんか向上について話が聞けそうな感じ?
「主任、基本的にわらひのこと全肯定なのれ……あんま参考になんないんれす……」
うーん……期待はずれっぽいけど一応掘り下げとくか。
「向上から期待されてるんじゃないの? それは」
「違いますよぉ……なんか主任は、私のこと仕事仲間として見てないって言うか……」
「ああ、恋愛対象として見てんの?」
「ちがっ、違いますよ!!」
うわ怖っ、急にでかい声出しやがった。でも、この反応。もう少し掘ればすごいこと聞き出せそうだな。
「なんかこう、妹分的な……」
「またまた〜。で? 向上とどこまでいったの? あいつ変な性癖とかないの?」
「変な性癖……」
心当たりがありそうな感じだ!
だめだ、まだ笑うな。まだ相談を聞く良い先輩のふりをしてないと。
美澄ちゃんはうーんと頭を揺らしながら考え込んでいる。
「性癖はたしかにやばいですね……」
「えっ、マジ? 美澄ちゃん、どんなことされてんの?」
「わらひはされてないれすよ、そういう趣味じゃないんれ……女の人にそういうことしないっていうか」
「……え?」
「主任は、男の……あー……忘れてくらさい……」
美澄ちゃんは限界だったらしく、そこまで言うと突然テーブルに突っ伏してすやすやと寝息をたてはじめた。
えっ、女にそういうことしない? 男のって……。
たしかに、そう言われると納得はいく。どんな女に言い寄られてもなびかないのは……あんなボケっとした奴が営業成績トップなのはもしかして。
なんで美澄ちゃんだけにそんな打ち明けてるかは分からないままだが、思っていたより……いや、とんでもない弱みを握れた!
「美澄ちゃん、美澄ちゃーん?」
「……ん……」
まあ、顔見なきゃ出来ないこともないけど……これホテルまで運ぶのもめんどくせえな。大人しく向上呼ぶか。
♢
入社当時から、同期の佐倉のことはなんか怖かった。
明るいしノリいいし、いい人なのは分かるけどなんか俺にだけ当たり強いなって時が多い。特に俺が江間と話してる時がすごい。
「向上って江間ちゃんに言い寄ってるのに相手されてなくて笑えるよな〜!」
えっ、俺って江間に言い寄ってるように見えてたの、と思ってからは江間と距離をとるようにしたのに、それからもめちゃくちゃ絡まれるし壊滅的に話が合わない。佐倉の話題って仕事の話と女の話だけなんだもん!
後から江間から聞いたが、佐倉は大の女好きらしい。なるほど、ヤンチャなノンケなのに流されて受になっちゃうってところだな……と腐ィルター通して見てからは少しは苦手意識が薄らいだが。
でも合同歓迎会の、美澄にめちゃくちゃ絡んでたのはなんかやだ!!
パリピはパリピ同士でくっついてたらいいじゃん! うちの美澄を巻き込まないでください!
まあ歓迎会以降美澄に絡んでる様子ないし、美澄が佐倉からべろべろに酔わされたことなんてもう忘れて、仙太郎の洗車の手伝いをしていたら佐倉からRINEが来た。
『美澄ちゃんが酔っ払って潰れちゃったから迎えに来て〜って♡』
スマホおっことした。
「どしたん優鷹、アホ面がもっとアホ面になっちょるぞ」
「仙太郎、やば、美澄が男に酔いつぶされちょる!!」
「あ゛ぁ!? 場所どこなん!?」
やっぱあいつなんか美澄のこと狙ってない!?
仙太郎の洗い立ての車に乗り込んでから、そういえば擬態解除しちゃってることに気付いた。
「どうしよ、この格好ってオタクなんバレんかな!?」
「ジャージやしどっちかってっとチンピラっぽいわ」
「それはそれでちょっと」
しかしそんなこと言ってる場合じゃない。
早よせな美澄がパリピに食われる!! そんなの嫌すぎ!!
いや、美澄が佐倉を好きとか、そういうのなら、別にいいんだけど……。
そこまで考えて、なぜか気持ちが沈んでしまった。そっか、美澄が佐倉を好きで望んで酔い潰れてる可能性あるのか……。
いやしかし、佐倉はそんな美澄を送ろうともせん悪い奴だから! そんな男やめとけよ! それならまだ俺の方が……。
「……隣で百面相されると運転集中出来んのやけど」
「すいません……」
俺の方がって何……。
仙太郎の制限速度ギリギリの荒い運転のおかげで、思ったより早く佐倉の行ってた居酒屋についた。なんかお洒落だし、デートとかで使うようなとこなんじゃないのここ……。
落ち込みそうになるのを踏ん張って、車から降りる。すると、居酒屋の扉から佐倉に肩を支えられた美澄が出てくるのが見えた。
思わずいつものノリで駆け寄ろうとしたけど、今は佐倉もいるから、必死で抑えて歩み寄る。美澄は虚ろな目で俺を見るなり、とん、とこっちに体を寄せた。
ン゛ッッッッ……と思ったけど今はそういう場合じゃないですね!
「佐倉……結構飲ませたのか?」
「まあ、営業は飲めないとやってけないじゃん?」
今は令和だよ佐倉……飲みニケーションとか言うなよ……。
「車で来たの? 向上、車とか持ってたっけ」
「いや、友達の」
「へーえ、あの中にいる怖い人?」
「まあ、見た目は怖いけど別に……」
いい奴ではあるから、と続けようとすると、佐倉が嘲るように鼻で笑った。
「おホモダチ、的な?」
「……は?」
「冗談冗談! じゃあ美澄ちゃんのことよろしくね〜」
佐倉はそう言うと、自分で呼んでいたらしいタクシーにのってとっとと帰ってしまった。
いや、いやいやいや。
「ん……あぇ、しゅにん……なんれ……」
「あ……あの、お迎えに来たんですけど、佐倉と何話したの……?」
「仕事の話……のはずだったんれす、けど……」
「けど……?」
美澄に聞き返すけど、寝息で返された。立ったまま寝たら風邪引くよ! っていうか。
佐倉に何言ったの美澄ーーーーーーーーーーッ!?
ここまで読んでいただきありがとうございます!
向上優鷹:好きなタイプ? 男前でツンツンしてても実は懐の広い……推しの話じゃないの!?
美澄希空:好きなタイプ? 真面目な人。
佐倉圭介:好きなタイプは可愛くて愛想良くてでもバカじゃなくて料理が上手で、あ、おっぱい大きいともっといい!
宮本仙太郎:好きなタイプ? 美人。




