しゃべる湯沸かし器
「ピロりん!オユヲ ワカシマス。」
新しくお風呂に設置した湯沸かし器。これが大変便利である。
「ピロん!オフロノオンドガ ヨンジュウドニ セッテイサレマシタ。」
パネルで設定しておけば、勝手にお湯を沸かしてくれる。あらかじめタイマーで設定しておけば、家に帰ってすぐに湯船に浸かれる。大変ありがたい。
――ハァあああああ、きもちいいいいい
間違いなく、今まで以上に快適な生活になっている。
「ありがとうな、湯沸かし器。」
「・・・・・・。」
しかし、生活の潤いが増した反面、同時に不思議な事案も発生していた。
いつもお風呂の残り湯は、次の日に洗濯器に入れて再利用している。だが、この湯沸かし器を設置してからというもの、その残り湯が僕が入っていた時より半分以上減っているのだ。
――べつに栓が抜けているわけではないしな・・・蒸発したとか・・・いや、まさかね。
いろいろ考えてはみたものの結局は分からない。
「なあ、湯沸かし器。いつもここにいるんだから、お前さん、何か知らないかい?」
当たり前だが、応えるはずはなかった。
まあ、でもお湯が減ってしまうこと以外に不自然なことはないし、洗濯に使う量も毎回ギリギリ残っているから、問題という問題はない。不思議だけど、そのまま放っておくことにした。
そんなある日。
――ジュルルルル
夜遅くに、水が流れる音がする。
――ジュル、ジュル、ジュル
それは、お風呂場の方から聞こえていた。
――誰かいるのか?
恐怖心を抱きながらも、現場に向かおうとする。
その時である。聞き馴染みのある声が聞こえた。
「ダンナサマノ ノコリジル オイシイ。 デモ コレクライデガマン。 アトハ センタクサマノブン。」
聞いて聞かぬふりをして、僕は布団へとそっと戻った。
読んでいただき、ありがとうございました。